61,ぜんぶ吹っ飛ばす→【ダンジョン最期の日】。
何事にも我慢の限界というものはある。
今が、それ。
〔分かった。ダンジョンを吹き飛ばす〕
〔ここのダンジョンをですか?〕
〔違う。全てのダンジョンだ〕
〔はい?〕
モンスターに『片足』どころか『全足』突っ込む。
つまり、瞬間移動スキルの解禁だ。
その上で、まず朱美を地上へ転送。
続いて、おれ自身も瞬間移動。
手始めに、≪ウィーン・ダンジョン≫の最深部へ。
ラスボスは不在なので、最深部だというのにもぬけの殻。
〔えーと、タケト様。どうされるんです?〕
〔こうする〕
《宇宙破壊》を発動。
ダンジョン丸ごと、地球破壊も可能なエネルギー奔流で吹っ飛ばす。
その爆心地で満足してから、次のダンジョンへ瞬間移動。
今度は≪チロル・ダンジョン≫だ。
で、《宇宙破壊》。
〔ちょ、ちょっとタケト様~! あんた、何してくれちゃってるんですか!!〕
〔だから、全部のダンジョンを吹っ飛ばすんだよ。地球に侵略されたら、おれのダイヤが高値で売れなくなるからな。ちょっと考えれば分かることだ〕
〔まってまってまってまってください!! さすがに頭おかしいですっ! わたしが言うんですから、本当に頭おかしいですよっ!〕
イチゴが抗議している中でも、おれは淡々と仕事をこなしていく。
次のダンジョン最深部へ瞬間移動→《宇宙破壊》→次のダンジョン最深部へ瞬間移動→《宇宙破壊》のルーティンで。
イチゴの修行のおかげで、《宇宙破壊》の回数制限も解除済み。つまり使いたい放題。
〔……タケト様、いちおう言っておきますけど。吹っ飛ばすダンジョンの中には、冒険者の方々が攻略している場合もありますよ〕
〔運が悪かったな〕
〔タケトさまぁぁ~、人間を捨てないで~!!〕
ルーティンをこなしていると、たまに最深部にラスボスがいることもあった。
もちろん、無言で《宇宙破壊》は失礼だ。
挨拶するのが礼儀だろう。
「よぉ!」
「な、なんだ、お前ぎゃぁぁあああああ………!!!」
アイアンクロ―で、ラスボスの頭を握りつぶす挨拶。良い子の間で流行りそうだ。
〔タケト様、地上のモンスターたちはどうするんですか? 叩き返すダンジョンをぜんぶ吹っ飛ばしちゃったら?〕
〔案ずるな。考えがある〕
〔……もう好きにしてください〕
★★★
──主人公以外の人たちの視点──
その日は、のちのち『ダンジョン最期の日』または『地球滅亡3秒前の日』と呼称されることになる。
ダンジョン調査機関本部では、世界中からダンジョン壊滅の報告が相次いだ。
地上にダンジョン瓦礫が降り注ぐので、それが分かるのだ。
全ての冒険者を統べる本部長は、世界の終わりが来たと確信した。
最後には地球そのものが吹っ飛ぶに違いない、と。
★★
中央ヨーロッパを支配していたモンスターの〈首領〉。
そのとき〈首領〉は、自分の本丸であるダンジョンに降りていた。
(はっはっはっ! 全人類を奴隷化してやるのだ! 俺様をバカにしていたラスボスどもも、最後には駆逐してやるぜ!)
そんなことを考えながら、〈首領〉は最深部まで降りる。
いまこの時のために、〈首領〉は爪を研いできたのだ。
今こそ、下剋上のとき!
刹那、謎の人間が瞬間移動してきた。
「な、なんだ、お前ぎゃぁぁあああああ………!!!」
アイアンクローを食らって、〈首領〉の頭部が握りつぶされる。
脳味噌が飛散して、儚い下克上だった。
★★
汐里はその時、日本の冒険者組合本部にいた。
世界各地でダンジョンが吹っ飛んでいると聞き、ハッとする。
(おじさん、生きてたんだね!!)
★★
世界各地でダンジョンが吹っ飛んでいる──そう聞いて、北条尊人の仕業と気づいた人物がもう一人いた。
ソフィアだ。
ソフィアが知らせを聞いたのは、A級ラスボス討伐ミッションの最中。
ソフィアはリーダーとして、パーティを率いていたのだが。
激闘の中──討伐対象のA級ラスボス蝦蟇王が、いきなり騒ぎだしたのだ。
「ま、まてまてまてまてまてまてぇぇぇぇ! 一時休戦を申し出る!」
ソフィアたち冒険者パーティは、みな困惑した。
ソフィアが尋ねる。
「どういうことよ?」
「ダンジョンだぁぁあ!」
「え?」
「世界各地でダンジョンが吹っ飛ばされていくんだぁぁぁぁ! ラスボスのオレには、それが分かる! あぁっ、また新たなダンジョンが吹っ飛ばされたぁぁぁ! うわぁぁぁ、神さまぁぁぁぁあ!!!!」
ソフィアは頭を抱えた。
(北条さん……何してるの?)
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