60,称号〈魔神〉。
〔イチゴ。ただの下水道への入り口だったはずが、ダンジョンに接続しているんだが。これは何事だ?〕
〔ふーむです〕
珍しいことに、イチゴが何やら熟考している。不吉な予感。
とりあえず、拉致られた朱美を追跡。
やがてゴブリンの巣窟にたどり着く。
ゴブリンの群れが乱痴気騒ぎしているのは結構だが、まだ朱美は無事だった。
ではゴブリンどもを一掃しよう、かと思ったが。
おれの存在に気づくなり、ゴブリンどもが一斉に跪いてきた。
〔なんだこれ。殺していいのか?〕
〔あー、タケト様、ちょっと待ってください。称号リストを見てくださいよ〕
称号というのは、獲得条件を満たすごとに勝手に押し付けられるアレか。
ドラゴンを殺しまくったから、〈ドラゴン・キラー〉の称号とかの。あまりに貰いすぎたので、最近はチェックもしていなかった。
で、最も新しい称号というのが、〈魔神〉。
〔こんな禍々しい称号は、いらないんだが。というか、どこで得た?〕
〔獲得条件を見てくださいよ〕
獲得条件は、『〈魔神〉の称号を持つ者を倒すこと』とある。
〔魔神なんか倒したか?〕
〔ドロシーさんを倒しましたよ〕
〔は? ドロシーだって?〕
〔ドロシーさんって昔、初代魔神を瞬殺したんですよ。つまり、長らく2代目の魔神だったわけですねぇ。そんなドロシーさんを撃破したので、今やタケト様が3代目魔神です。魔神とはモンスターを束ねる存在。ゴブリンたちが跪くのも当然ですよね〕
〔ということは、ラスボスどももおれに従うって?〕
〔いえ、ラスボス格だと選択権がありますからね。本物の魔神ならともかく、称号を持つだけの3代目には従わない者も多いでしょう。ただ中には、タケト様に服従するラスボスもいるかと〕
〔ふーむ〕
魔神の称号を上手く使えば、世界のモンスターどもをダンジョンに送り返せそうか?
とりあえずゴブリンどもに命じておく。
「いいか。人間の女を襲うのも程々にしておけ。一個の群れの場合、ひと月で30人で我慢とかな。そうやって自分たちで制限を設けるんだ」
これをスキルでモンスター語にしてから、ゴブリンたちに伝えた。
〔30人まではOKって──そこは普通、0人では?〕
〔完全に禁止するのは気の毒だろ。ゴブリンって、他に楽しみがないんだから〕
〔タケト様、お優しいです! 思考回路が、なんか人類から離れてきている気もしますが。まぁ細かいことはいいですよね!〕
気絶中の朱美を受け取って、《回復》で傷を癒す。
目覚めた朱美が、おれを見て驚く。
「あ、北条おじさんっ! こんなところで、えっと、なにしてるの?」
なんだ『北条おじさん』って。『北条さん』か『おじさん』かのどっちかにして欲しいんだが。
「それは、おれのセリフだ。お前、オーストリア観光ってわけじゃないんだろ?」
「う、うん。わたし、先週までは日本にいたんだけど──」
朱美の話によると──
朱美は先週、冒険者組合の任務で在るパーティに加入。
そのパーティは、集団誘拐された人たちを救出するため、D級≪川口ダンジョン≫に潜った。
ところが≪川口ダンジョン≫の第22階層で地震が起き、仲間とはぐれてしまった。
一人になった朱美は必死でダンジョンを上がり、脱出。
ところが地上に出て驚く。そこはどう見ても、日本ではなく外国だった。
朱美が出てきたのは、≪川口ダンジョン≫ではなく《ウィーン・ダンジョン》だったのだ。
その後、オーストリアのダンジョン調査機関支部に保護される。
現状、日本に戻るのは大変だ。そこで世界情勢が改善されるまで、オーストリアで冒険者活動をすることになった。
「≪川口ダンジョン≫の中で、転送ポイントに入ったのか?」
おれがそう尋ねると、朱美は首を横に振る。
「ううん、転送ポイントには入ってないよ。第一、【変転】後のダンジョンからは転送ポイントが消えているし」
「だが、地震があったんだよな? ダンジョンの中で」
「そう。体感的には、震度7くらいかなぁ」
これはイチゴを問い詰める必要がありそうだな。
〔イチゴ、ダンジョンの様子が変じゃないか。≪川口ダンジョン≫から≪ウィーン・ダンジョン≫への、不可解な転移。それにさっきも、ただの下水道への入り口がダンジョンに接続しているし。お前、何か心当たりがあるな?〕
〔ふーむ。どうやらタケト様、ダンジョン群が地球サイドに侵食し始めているようですね。このままだと地球はすっかり食われて、あとに残るはダンジョン惑星ですぜぇ〕
ですぜぇ、じゃない。
〔なんでそうなる〕
〔まぁダンジョンって、侵略兵器の側面もありますし〕
侵略ねぇ。つまり、こういうことか。
第一段階、地上に出るモンスター。
第二段階、ダンジョンによる地球侵食。
終末世界が加速していやがる。
これはおれ個人に対する嫌がらせだろうか?
そうに違いない。無性に腹が立ってきた。
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




