59,オーストリアでの邂逅。
〔で、イチゴ。どうしたら、モンスターどもはダンジョンに戻るんだ? どこに行けばいいんだ?〕
〔タケト様。あえて言いますけど、わたしは攻略サイトじゃないですからね。ぜんぶの質問には答えられんですよ〕
〔は? ならお前の存在価値が0になるぞ。何のために生まれてきたんだ? というか死ねば?〕
〔ドSなタケト様も大好きです~〕
イチゴが使いものにならないので、アーダに聞いてみた。
「アーダ。何か情報はないのか? どうすればモンスターどもをダンジョンに戻せるか」
「師匠。かつてのわが主である鬼の王は、ドロシーと接触していたのだろう。ドロシーにとって、≪軍艦島ダンジョン≫は実験場だったのかもしれない」
なるほど。確かに初めて地上に出てきたモンスターどもは、≪軍艦島ダンジョン≫の連中だ(アーダもそうだし)。
あの時は、鬼の王の突然変異によるものとばかり思っていたが。そもそもイチゴがそう解説していたし。
だが今考えると、アーダの仮説は正しそうだな。
「とりあえず、≪軍艦島ダンジョン≫に行ってみるか。何か手がかりがあるかもしれない。《飛行》するから、アーダはおれに掴まってろ」
〔あれタケト様、瞬間移動スキルは使わないんですか?〕
〔念のため封印しておく〕
瞬間移動スキルは『モンスターに片足を突っ込んだ』状態で、初めてまともに使える。
ようは、半分だけモンスター化だ。
ヘタすると、どこかのバカに《封印遊戯》されかねない。ドロシーもそれで足元をすくわれたしな。
まぁたとえ半分モンスターでも、ボコられない限りはカード化される心配もないのだが。
とにかく、カード化のリスクは無くしておきたい。モンスターから片足を抜くので、自動で瞬間移動スキルも封印だ。
《飛行》での超高速移動を開始。
オーストリアに入ってからしばらくして、《警報》が発動した。
急停止。
〔おい、攻略サイト。この《警報》はなんだったか?〕
〔攻略サイトのイチゴが来ましたよー。この《警報》は、遭遇したのに逃してしまったモンスターを知らせていますね。近々、このあたりに出現するのでしょう〕
逃してしまったモンスター?
そんなのいたか? 基本的に、ぜんぶ殺しているが。
あー、あいつか。
サハラ砂漠で出会った、狂い首とかいう巨大生首。
「せっかくだから殺していくか」
降り立ったのは、オーストリアの都心部。
【変転】後の世界にしては秩序が成り立っているようで、多くの市民が行きかっている。ドロシーの大量虐殺も、ここまでは影響を及ぼしていないようで。
とにかく、こんなところで狂い首が暴れたら多数の犠牲者が出てしまう。
〔人類が減るたびに、完全なる終末世界へと近づいてしまう。そして、おれのダイヤの価値が暴落していくのだ。くっ、人々を救わねばならない〕
〔ダイヤのくだりがなければ、百点満点なヒーロー的セリフなんですけどねぇ。だいたいタケト様なら、ダイヤ換金にこだわらなくてもいいのでは? 大金を稼ぐ方法なんて、それこそ星の数でしょうに〕
〔お前は分かってないなぁ。分かってない。あのダイヤじゃなきゃダメなんだよ──ところで、アーダはどこに行った?〕
《飛行》から下したとたん、どこかに行ってしまった。子犬と同じで、目を離してはいけないらしい。
発見したアーダは、レストランの窓に張り付いていた。
店内での食事客を、じーと眺めている。微妙によだれが垂れている。
「アーダ、腹が減ったのか」
「師匠、私は空腹ではない。訓練を積んだ私は、腹などは減らぬ」
「分かった分かった。いいから昼飯にするぞ」
店内に入り、オーストリアの郷土料理シュニッツェルを注文。
舌鼓を打っていると、都市内の防災スピーカーから警報が鳴り響いた。
店員に何事かと聞くと、この警報はモンスターの襲来を意味しているのだとか。
「ですがご安心ください。駐留中の冒険者パーティが駆逐してくれるはずです」
そう言う店員は、ぜんぜん安心している様子ではなかったがね。
〔モンスターか。だが、まだ狂い首が来たわけではなさそうだな。アレが来たら、もっと凄い騒ぎになっている〕
ガツガツ食べているアーダを残して、様子を見に行った。
主要道路のひとつで戦闘が繰り広げられている。
ゴブリンの群れvs冒険者パーティだ。
冒険者のパーティ構成は8人。世界各地から集結したのか、国際色豊かなメンバーだ。日本のJKも混ざっているぐらいだし。
〔回復担当のJKだが、朱美だろ。汐里の友達の〕
〔一緒に≪小金沢山ダンジョン≫攻略したのが、懐かしいですねー〕
ヒーラーは珍しいので、冒険者として半人前でも重宝されているのかもしれない。
なぜオーストリアにいるのかは不明だが。
歩道橋の上から欠伸まじりに眺めていたら、朱美の背後に忍び寄るゴブリンを発見。
ゴブリンは、朱美の後頭部を殴って気絶させる。そして下水道の縦穴まで引きずっていき、消えた。
ははぁ。あれはゴブリンの巣穴で輪姦する気だな。
〔あれさ、助けに行ったほうがいいのかね。メンド臭いんだけど〕
いまだに汐里以外のJKには、心理的なアレルギーがあるし。
〔タケト様。人はメンド臭くても、ちゃんとゴミ出しはするものです。それと同じことですよ。メンド臭くても朱美さんを助けておかないと、あとで汐里さんに怒られますよ〕
〔仕方ない。行くか〕
朱美が連れこまれた縦穴まで行く。そこから中に飛び込むも、ただの下水道ではなかった。
どこかのダンジョンに繋がっていたのだ。
〔ほう。面白い趣向だな〕
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




