表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/188

58,おれのダイヤが石ころ同然になる前に、世界を救わねばならない。

 


 アーダのカード化を解除する。

 つのを無くした美人さんオーガが、自由になった。


「久しぶりだな、アーダ」


 アーダがおれを見て、目を大きく開ける。


「し、師匠?」


 それから目が潤んだかと思ったら、大粒の涙をこぼしだす。で、抱きついてきた。


「師匠~!」


 師匠として対応に困る。とりあえず頭でも撫でておくか。


「あー、よしよし」


 鼻水たらすアーダ。誰かふいてあげて。


「師匠、≪メルズーガ・ダンジョン≫の大爆発に巻き込まれ、死んだものとばかり」


「まぁ、死にかけはしたがな。実は瓦礫に埋もれていた」


「そんな! 師匠、私は弟子失格だ。師匠の生存を諦め、あろうことか瓦礫の中に放置するとは」


「いや、あれは死んだと思うよな。おれも死んだと思ったし」


「死んで詫びたい!」


 チョコのチェーンソーで切腹しようとするアーダ。

 何がやりたいんだろ。


「あのー、アーダ」


「師匠、止めないでくれ!」


 ま、放っておけば落ち着くか。


 ふいに脳内で着信音が轟く。


〔おい、うるさいぞイチゴ! なんの嫌がらせだ!〕


〔あら、この着信音は──案内係の専用回線の電話ですか。はい、もしもし~〕


 まてよ、コイツ。おれの脳内で通話するつもりか。


 イチゴに電話をかけてきた相手が、いきなり怒鳴りだす。それはいいが、おれの脳内で通話が筒抜けなんだが。


〔このイチゴぉぉぉぉぉぉぉぉ、クソアマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!〕


〔レモンさん、レモンさん。それが50年ぶりに話す旧友への挨拶ですか? 失礼しちゃいます。ねぇ、タケト様?〕


 おれに振るなよ。

 

 この電話相手が誰か分かった。レモンというのは、【神に愛された案内係(スペシャル・サンクス)】の1体だな。


〔イチゴぉぉお。よくもわたしの最高傑作を壊してくれたわねぇぇぇ!〕


 と、レモンさん吠える。


〔最高傑作ですか?〕


〔ドロシーよ!!〕


〔ああ、あの雑魚メスガキですか。あいにくですが、うちのタケト様に瞬殺フルボッコされちゃいましたよ。同じステータス∞でも、出来が違ったということですね。ね、タケト様?〕


 だから、おれに振るなよ。

 とにかく、このレモンという案内係が、ドロシーにステータス∞を付与したわけか。〈特典付与ギフト〉とかいうスキルで。


〔タケト様って?──ちょっと人間、通話を盗み聞きしないでくれる!?〕


 これには黙っていられない。


〔盗み聞きしたくてしているわけじゃない。おれの脳内で勝手に通話しているのは、そっちだろうが〕


〔なるほど。あんたが北条尊人ね。せっかくうちのドロシーが、あんたの赤ちゃんを産んであげようとしていたのに。手ひどくフッただけじゃなく、ボコってカード化するとか。あんたは鬼畜なの?!〕


 酷い言われようだな、おい。


〔あのな。あんたのドロシーさんは、おれを食らう気だったぞ。だいたい大量虐殺を気軽にやったり、地球を破壊しようとしたり。暴走しすぎだろ〕


〔フン。この地球がどうなったって、わたしには関係ないもの。あっかんべー〕


 驚いた。イチゴよりウザい案内係が存在するとは。


〔イチゴ、お前がマシに思えてきたぞ〕


〔タケト様~、わたしに惚れなおしましたね~〕


〔それはない〕


〔イチゴ、そして北条尊人! 覚えてなさいよ!!〕


 レモンが月並みな捨て台詞を吐いて、通話を切った。


〔いやぁタケト様。同じ【神に愛された案内係(スペシャル・サンクス)】として、お恥ずかしいところをお見せしました〕


 ここで、おれは一つの仮説を立てた。


神に愛された案内係(スペシャル・サンクス)】だからといって、無尽蔵にステータス∞を付与できるはずがない。

 レモンの言い草からして、『1人限定』ではないのか。


 つまりイチゴはおれ、レモンはドロシーだ。


 ところで、おれはイチゴの口車に乗せられて、ついに《宇宙破壊アンチ・ビックバン》さえ耐えられるようになってしまった。

 完全に自殺コースは絶たれた。


 当面は死ぬ予定はないが、いつかは原点に立ち返る時がくるだろう。

 すなわち、いい加減に死にたいときが。


 となると、誰がおれを殺してくれるのか?

 

 もう1体【神に愛された案内係(スペシャル・サンクス)】がいたはず。確かキウイといったか。

 このキウイが付与しただろうステータス∞の人間、それだけが最後の希望となるのかね。


 ところで、アーダはいまだにチョコのチェーンソーと遊んでいる。

 チェーンソーを取り上げ、《菓子変転デザート・フォーム》を無効化してやった。


「アーダ。申し訳ないと思うなら切腹するんじゃなくて、別のことで貢献しろ。お前の戦闘力とかで」


 アーダが瞳を輝かせる。


「動くものは皆殺しにするのだな、師匠?」


「そこまで徹底しなくいい。というか、するな」


〔それでタケト様。これからどうされるのです? ダイヤを追いますか?〕


〔いいや。その前にやることがある〕


〔やることですか?〕


〔ああ。地上に蔓延はびこるモンスターどもを、すべてダンジョンに叩き返す。そして人類の世界を取り戻すぞ〕


〔え、タケト様。ついに正義のヒーローに目覚めたのですか?〕


〔おれはな、今更なことに気づいたんだ。このままモンスターどもの蔓延る終末世界が続いたら、何が起こるか? それは貨幣経済の完全なる崩壊だ。つまり、せっかくダイヤを取り戻しても換金できない!〕


〔……はい?〕


〔そもそも終末世界にダイヤって、価値があるのか? おれのダイヤが石ころ同然になる前に、世界を救わねばならない〕


〔どこまでも自分本位なタケト様を見ていると、安心しますねー〕



気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] じぶんほんい [一言] べね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ