58,おれのダイヤが石ころ同然になる前に、世界を救わねばならない。
アーダのカード化を解除する。
角を無くした美人さんオーガが、自由になった。
「久しぶりだな、アーダ」
アーダがおれを見て、目を大きく開ける。
「し、師匠?」
それから目が潤んだかと思ったら、大粒の涙をこぼしだす。で、抱きついてきた。
「師匠~!」
師匠として対応に困る。とりあえず頭でも撫でておくか。
「あー、よしよし」
鼻水たらすアーダ。誰かふいてあげて。
「師匠、≪メルズーガ・ダンジョン≫の大爆発に巻き込まれ、死んだものとばかり」
「まぁ、死にかけはしたがな。実は瓦礫に埋もれていた」
「そんな! 師匠、私は弟子失格だ。師匠の生存を諦め、あろうことか瓦礫の中に放置するとは」
「いや、あれは死んだと思うよな。おれも死んだと思ったし」
「死んで詫びたい!」
チョコのチェーンソーで切腹しようとするアーダ。
何がやりたいんだろ。
「あのー、アーダ」
「師匠、止めないでくれ!」
ま、放っておけば落ち着くか。
ふいに脳内で着信音が轟く。
〔おい、うるさいぞイチゴ! なんの嫌がらせだ!〕
〔あら、この着信音は──案内係の専用回線の電話ですか。はい、もしもし~〕
まてよ、コイツ。おれの脳内で通話するつもりか。
イチゴに電話をかけてきた相手が、いきなり怒鳴りだす。それはいいが、おれの脳内で通話が筒抜けなんだが。
〔このイチゴぉぉぉぉぉぉぉぉ、クソアマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!〕
〔レモンさん、レモンさん。それが50年ぶりに話す旧友への挨拶ですか? 失礼しちゃいます。ねぇ、タケト様?〕
おれに振るなよ。
この電話相手が誰か分かった。レモンというのは、【神に愛された案内係】の1体だな。
〔イチゴぉぉお。よくもわたしの最高傑作を壊してくれたわねぇぇぇ!〕
と、レモンさん吠える。
〔最高傑作ですか?〕
〔ドロシーよ!!〕
〔ああ、あの雑魚メスガキですか。あいにくですが、うちのタケト様に瞬殺フルボッコされちゃいましたよ。同じステータス∞でも、出来が違ったということですね。ね、タケト様?〕
だから、おれに振るなよ。
とにかく、このレモンという案内係が、ドロシーにステータス∞を付与したわけか。〈特典付与〉とかいうスキルで。
〔タケト様って?──ちょっと人間、通話を盗み聞きしないでくれる!?〕
これには黙っていられない。
〔盗み聞きしたくてしているわけじゃない。おれの脳内で勝手に通話しているのは、そっちだろうが〕
〔なるほど。あんたが北条尊人ね。せっかくうちのドロシーが、あんたの赤ちゃんを産んであげようとしていたのに。手ひどくフッただけじゃなく、ボコってカード化するとか。あんたは鬼畜なの?!〕
酷い言われようだな、おい。
〔あのな。あんたのドロシーさんは、おれを食らう気だったぞ。だいたい大量虐殺を気軽にやったり、地球を破壊しようとしたり。暴走しすぎだろ〕
〔フン。この地球がどうなったって、わたしには関係ないもの。あっかんべー〕
驚いた。イチゴよりウザい案内係が存在するとは。
〔イチゴ、お前がマシに思えてきたぞ〕
〔タケト様~、わたしに惚れなおしましたね~〕
〔それはない〕
〔イチゴ、そして北条尊人! 覚えてなさいよ!!〕
レモンが月並みな捨て台詞を吐いて、通話を切った。
〔いやぁタケト様。同じ【神に愛された案内係】として、お恥ずかしいところをお見せしました〕
ここで、おれは一つの仮説を立てた。
【神に愛された案内係】だからといって、無尽蔵にステータス∞を付与できるはずがない。
レモンの言い草からして、『1人限定』ではないのか。
つまりイチゴはおれ、レモンはドロシーだ。
ところで、おれはイチゴの口車に乗せられて、ついに《宇宙破壊》さえ耐えられるようになってしまった。
完全に自殺コースは絶たれた。
当面は死ぬ予定はないが、いつかは原点に立ち返る時がくるだろう。
すなわち、いい加減に死にたいときが。
となると、誰がおれを殺してくれるのか?
もう1体【神に愛された案内係】がいたはず。確かキウイといったか。
このキウイが付与しただろうステータス∞の人間、それだけが最後の希望となるのかね。
ところで、アーダはいまだにチョコのチェーンソーと遊んでいる。
チェーンソーを取り上げ、《菓子変転》を無効化してやった。
「アーダ。申し訳ないと思うなら切腹するんじゃなくて、別のことで貢献しろ。お前の戦闘力とかで」
アーダが瞳を輝かせる。
「動くものは皆殺しにするのだな、師匠?」
「そこまで徹底しなくいい。というか、するな」
〔それでタケト様。これからどうされるのです? ダイヤを追いますか?〕
〔いいや。その前にやることがある〕
〔やることですか?〕
〔ああ。地上に蔓延るモンスターどもを、すべてダンジョンに叩き返す。そして人類の世界を取り戻すぞ〕
〔え、タケト様。ついに正義のヒーローに目覚めたのですか?〕
〔おれはな、今更なことに気づいたんだ。このままモンスターどもの蔓延る終末世界が続いたら、何が起こるか? それは貨幣経済の完全なる崩壊だ。つまり、せっかくダイヤを取り戻しても換金できない!〕
〔……はい?〕
〔そもそも終末世界にダイヤって、価値があるのか? おれのダイヤが石ころ同然になる前に、世界を救わねばならない〕
〔どこまでも自分本位なタケト様を見ていると、安心しますねー〕
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