56,たいていの虐殺は、失恋のせいで起こる。
──ドロシーさんの視点──
基本的に、ドロシーは『半分は有言実行』の性格だった。
100万の虐殺は行うにしても、全員を蹴り殺すのは労力的にどうだろう。
ちょっと面倒。
ここは広範囲にわたる殺戮スキル《確定した大量の処刑》でいこう。
一瞬で、多くの生きとし生けるものが無条件で死ぬ。範囲設定も可能(ユーラシア大陸の5分の1くらいなら余裕)。
この殺戮スキルのポイントは死ぬ瞬間、当人たちはそれを理解することだ。
そんな心温まる光景を見ることができたら、きっと傷心も少しは癒されるはず。
それはそうと──
ドロシーは地上に降り立ち、女オーガに微笑みかける。
「あなた、《軍艦島ダンジョン》のオーガさんですね。北条さんのお弟子になられた方──さらに許嫁のハムナーさんを殺された方。アーダさん」
アーダからチェーンソーを奪い取り、《菓子変転》でチョコレートに変える。
「はい、どうぞ」
アーダは愕然とした様子で、チョコ・チェーンソーを受け取った。
「あなたとは、あとで恋バナというのをしてみたいものですね。ですから、まだ殺さないでおきましょう」
「なにを──?!」
アーダを《封印遊戯》で、カード化する。
ところで、先ほどから何やら攻撃されている。
「どちらさまですか?」
先ほどから一人の男が、《業炎拳弾》をドロシーへと連発してきているのだ。当然ながら、防御力∞のドロシーは傷ひとつ負わないわけだが。
この男はドロシーが瞬間移動してきたとき、アーダと一緒にいた冒険者だ。
その冒険者が猛撃しながらも言うわけだ。
「さてはお前は、〈首領〉の手下だな!」
「〈首領〉さんですか? わたくし、そんな方は存じ上げませんよ」
もともとこのスイスは、ドロシーの同志が支配していた。そこをオルフガンというA級ボスが現れ、同志を殺害。そうしてドロシーの占領地を奪い取ったのだ。
この知らせは随分と遅れてから、ドロシーのもとに届いた。
それでわざわざ出向いたのだが、もうオルフガンは殺され済み。
何より、いまのドロシーは失恋による傷心を癒さねばならない。もう占領地とかどうでもいいから、大量に殺したい。
純情な心がそう叫んでいる。
《業炎拳弾》を連発してくる冒険者を、《解析》。
名前はダニエル、34歳。A級≪バーゼル・ダンジョン≫完全攻略パーティのリーダーだった男。
妻と3人の子供あり。
妻と3人の子供あり。
ドロシーだけが使える秘密のスキル。
《召喚遊戯》を発動。
刹那。
ダニエルは驚愕することになる。目の前に、妻と3人の子供が強制転送されてきたのだから。
「エマ! エレナ! アレッシオ! レオン! ど、どうなっているんだ!」
ちなみにエマが妻、エレナが14歳の娘、アレッシオが10歳の長男でレオンが5歳の次男。
「ダニエルさん。これより、わたくしとゲームをしていただけますか? 選択ゲームですよ」
《真空刃:乱れ咲き》で、ダニエルの両手足を付け根からバッサリ。だるまにしたところで、切断面は止血してあげる。
それから《アイテム創造》。
ダニエルの四肢スパスパを見せつけられ、悲鳴を上げている家族たち。
この家族たちを、アイテム創造した拷問椅子に拘束してしまう。
一方、ダニエルは《浮遊》で浮かせてあげて、家族をよく見えるようにしてあげる。
「ルールは簡単ですよ、ダニエルさん。あなたは一人だけ選べます。奥さんでも、お子さんでも。選んだ方だけは、拷問椅子から自由にできます。
そして残った3人の方は、椅子から拷問を受けていただくわけですね。背もたれからノコギリが出てきまして、ゆっくりと真っ二つにしてしまいます」
ダニエルがめそめそと泣き出す。
「た、頼む、そんなことは、や、やめてくれ」
「ワクワクされています? わたくしはワクワクいたしますよ。ところであと3秒で決めてください。失格になってしまわれますよ? あなたが失格では、皆さんが拷問されてしまいます」
「お、お願いします、お、俺にはえ、選べない、ゆ、許して、許してくださぁぁぁぁぁい!」
このダニエルという男、ノリが悪い。
従弟を思い出す。まだドロシーが人間だったころ、トランプ・ゲームで遊ぼうと誘ったのに断ってきた従弟に。そういえば地下室の階段から突き落として殺したっけ。
「……興覚めですね」
4脚の拷問椅子を起動して、ダニエルによく見せてあげる。
じっくりじわじわ両断、両断、両断、両断。
それから発狂したダニエルを、ポイっと捨てた。
改めてドロシーは空高く飛び上がる。
両手を天高くつきあげて、《確定した大量の処刑》を発動。
スイス首都を中心にして、人もモンスターも平等に博愛主義的に、死んでいく。建造物などは実害が出ない点が、この殺し方の美味しいところだ。
生きとし生けるものたちが、死の恐怖で顔を歪ませながらぽとりぽとり死んでいくのが。
それを特等席から眺めながら、ドロシーは呟いた。
「楽しいです。しかしながら失恋の傷は、こんなことでは癒えないようです」




