表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/188

56,たいていの虐殺は、失恋のせいで起こる。

 


 ──ドロシーさんの視点──


 基本的に、ドロシーは『半分は有言実行』の性格だった。

 100万の虐殺は行うにしても、全員を蹴り殺すのは労力的にどうだろう。


 ちょっと面倒。


 ここは広範囲にわたる殺戮スキル《確定した大量の処刑(ハッピー・タイム)》でいこう。


 一瞬で、多くの生きとし生けるものが無条件で死ぬ。範囲設定も可能(ユーラシア大陸の5分の1くらいなら余裕)。


 この殺戮スキルのポイントは死ぬ瞬間、当人たちはそれを理解することだ。

 そんな心温まる光景を見ることができたら、きっと傷心も少しは癒されるはず。


 それはそうと──


 ドロシーは地上に降り立ち、女オーガに微笑みかける。


「あなた、《軍艦島ダンジョン》のオーガさんですね。北条さんのお弟子になられた方──さらに許嫁のハムナーさんを殺された方。アーダさん」


 アーダからチェーンソーを奪い取り、《菓子変転(デザート・フォーム)》でチョコレートに変える。


「はい、どうぞ」


 アーダは愕然とした様子で、チョコ・チェーンソーを受け取った。


「あなたとは、あとで恋バナというのをしてみたいものですね。ですから、まだ殺さないでおきましょう」


「なにを──?!」


 アーダを《封印遊戯モンスター・カード》で、カード化する。

 ところで、先ほどから何やら攻撃されている。


「どちらさまですか?」


 先ほどから一人の男が、《業炎拳弾(ファイガ・ストレート)》をドロシーへと連発してきているのだ。当然ながら、防御力∞のドロシーは傷ひとつ負わないわけだが。


 この男はドロシーが瞬間移動してきたとき、アーダと一緒にいた冒険者だ。


 その冒険者が猛撃しながらも言うわけだ。


「さてはお前は、〈首領〉の手下だな!」


「〈首領〉さんですか? わたくし、そんな方は存じ上げませんよ」


 もともとこのスイスは、ドロシーの同志が支配していた。そこをオルフガンというA級ボスが現れ、同志を殺害。そうしてドロシーの占領地を奪い取ったのだ。


 この知らせは随分と遅れてから、ドロシーのもとに届いた。

 それでわざわざ出向いたのだが、もうオルフガンは殺され済み。


 何より、いまのドロシーは失恋による傷心を癒さねばならない。もう占領地とかどうでもいいから、大量に殺したい。


 純情な心がそう叫んでいる。


業炎拳弾(ファイガ・ストレート)》を連発してくる冒険者を、《解析(サーチ)》。

 名前はダニエル、34歳。A級≪バーゼル・ダンジョン≫完全攻略パーティのリーダーだった男。

 妻と3人の子供あり。


 ()()3()()()()()()()


 ドロシーだけが使える秘密のスキル。

召喚遊戯(カンザス・スペシャル)》を発動。


 刹那。

 ダニエルは驚愕することになる。目の前に、妻と3人の子供が強制転送されてきたのだから。


「エマ! エレナ! アレッシオ! レオン! ど、どうなっているんだ!」


 ちなみにエマが妻、エレナが14歳の娘、アレッシオが10歳の長男でレオンが5歳の次男。


「ダニエルさん。これより、わたくしとゲームをしていただけますか? 選択ゲームですよ」


真空刃(キュアム・ブレイド):乱れ咲き》で、ダニエルの両手足を付け根からバッサリ。だるまにしたところで、切断面は止血してあげる。


 それから《アイテム創造》。


 ダニエルの四肢スパスパを見せつけられ、悲鳴を上げている家族たち。

 この家族たちを、アイテム創造した拷問椅子に拘束してしまう。


 一方、ダニエルは《浮遊(フローティング)》で浮かせてあげて、家族をよく見えるようにしてあげる。


「ルールは簡単ですよ、ダニエルさん。あなたは一人だけ選べます。奥さんでも、お子さんでも。選んだ方だけは、拷問椅子から自由にできます。

 そして残った3人の方は、椅子から拷問を受けていただくわけですね。背もたれからノコギリが出てきまして、ゆっくりと真っ二つにしてしまいます」


 ダニエルがめそめそと泣き出す。


「た、頼む、そんなことは、や、やめてくれ」


「ワクワクされています? わたくしはワクワクいたしますよ。ところであと3秒で決めてください。失格になってしまわれますよ? あなたが失格では、皆さんが拷問されてしまいます」


「お、お願いします、お、俺にはえ、選べない、ゆ、許して、許してくださぁぁぁぁぁい!」


 このダニエルという男、ノリが悪い。

 従弟を思い出す。まだドロシーが人間だったころ、トランプ・ゲームで遊ぼうと誘ったのに断ってきた従弟に。そういえば地下室の階段から突き落として殺したっけ。

 

「……興覚めですね」


 4脚の拷問椅子を起動して、ダニエルによく見せてあげる。

 じっくりじわじわ両断、両断、両断、両断。


 それから発狂したダニエルを、ポイっと捨てた。


 改めてドロシーは空高く飛び上がる。

 両手を天高くつきあげて、《確定した大量の処刑(ハッピー・タイム)》を発動。


 スイス首都を中心にして、人もモンスターも平等に博愛主義的に、死んでいく。建造物などは実害が出ない点が、この殺し方の美味しいところだ。

 生きとし生けるものたちが、死の恐怖で顔を歪ませながらぽとりぽとり死んでいくのが。


 それを特等席から眺めながら、ドロシーは呟いた。


「楽しいです。しかしながら失恋の傷は、こんなことでは癒えないようです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ