55,文明人らしく行こうよー。
昔は、もっと痛めつける加減が出来たんだがなぁ。なぜ、こうも簡単に人を殺してしまうようになったのか。
最近はモンスターのボス格ばかり相手していたからだろう。
人間が相手のときは、もっと優しくしてあげなければダメなわけだよ。
〔次からおれは話し合うぞ、イチゴ。文明人らしく話し合う。もういきなりは殺さない〕
〔その意気ですよ、タケト様〕
気持ちを切り替えたところで、次なる赤い輝点を目指す。
次なる赤い輝点は、安酒場にいた。
今回は失敗しないように気をつけよう。
ところでモスクワはすっかり荒廃している。そこらで銃声がするし、やたらとレイプ案件が転がっているし。
酒場に入り、カウンター席に座ってウォッカを注文。
ステータス∞になってから、酔えなくなったがね。
水のようにウォッカを飲んでから、赤い輝点を眺める。つまり〈冬宮殿〉構成員の一人を。
〔文明人ですよ、タケト様〕
〔任せろ〕
〈冬宮殿〉構成員に歩み寄り、朗らかに声をかける。
「悪いが、ちょっといいかな? 実はね、おれは遥々とダイヤを求めて──」
「なんだてめぇ? 邪魔だ、失せろ東洋人が」
「おれは文明人らしい話し合いを希望して──」
「消えやがれ、〇▼×」
最後のは人種差別的な発言。
「うーん。文明人としてどうするべきか」
構成員の頭頂部を開いて、脳味噌を露出させる。
《記憶採取》発動。
右手を脳味噌に突っ込んで、グリグリとかき回す。
「うがぁぁぁぁがががかががかかかかか……………!!!」
初めからこうやって記憶を読めば良かった。
〔さすがタケト様、文明人らしいです〕
〔文明人だからな〕
まわりにいたお客が悲鳴を上げて逃げ出したけど。
あと店主がカウンターの向こうから駆けてきた。
アサルトライフルを突き付けてくる。さてはAK-47と見た(適当)。
「この野郎が、なにしやがる!」
「ウォッカの代金は払うって」
「そんなこと言ってんじゃねぇぇぇ!」
そのとき、一人の大男が店内に入ってきた。
店主がその大男を見て、頼もしそうに言う。
「あ、ボグダンさん!」
ボグダンという男にはステータス数値が付与されている。Aランクはありそうだな。一般の人間相手なら無双確定だろう。
店主がボグダンのもとまで行き、おれを指さした。
「あいつ、ふざけた野郎なんですよ! やっちまってくださいよ!」
おれは、構成員の脳から右手を抜いた。
〔なぁイチゴ、ボグダンって奴、ダンジョン完全攻略者かね?〕
〔ふーむ。あれは違いますね。〈特典付与〉で、ステータスを与えてもらったようですよ〕
〔どこかのラスボスの仕業か?〕
〔違いますね~。〈特典付与〉が使用できるのは、この広い世界でたった3体だけですよ。【神に愛された案内係】だけなのです。すなわちレモン、キウイ、そしてこのわたし──イチゴでーす♪〕
なんだ、その果物縛りは。
ボグダンが、おれの前まで歩いてくる。
「東洋人。貴様、ただ者ではないな。どこの組織のものだ?」
「無所属だが」
ボグダンがにやりと笑う。
「そいつは信じられねぇな。これは拷問してでも聞き出す必要がありそうだ。お前、運が悪いぜ。このモスクワで、この俺様にさえ遭遇しなければ無双できたのになぁ。だが、俺様に出会っちまったのが運の尽──」
ボグダンの顔を本気で殴ってみたら、右の眼球だけ残して吹き飛んでしまった。
右眼球がぼとりと落ちる。
「なんだ、だらしがない」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! ボグダぁぁぁぁぁぁぁぁン!」
と店主が悲鳴を上げだした。
ウザい。
なので手刀を、店主の脳天に叩き込む。
我ながら思った以上の切れ味で、店主の頭頂部から股まで綺麗に両断できた。なんか断面図として売れそう。
さっきの構成員の脳味噌に、改めて右手を突っ込む。
「お、ダイヤの記憶を発見」
★★★
そのころスイスの首都ベルンでは──
──アーダ視点──
アーダがオルフガンを殺したことで、モンスターたちの支配から市民を解放することになった。
アーダにそんなつもりはなかったのだが。
スイス支部の冒険者代表から、感謝の言葉までかけられる羽目に。
「君のおかげだ、ありがとう。ところで、どこの所属の冒険者なのかね?」
アーダのことを冒険者と勘違いしているのだ。
アーダとしても訂正するつもりはなかった。
「私は──」
瞬間。
アーダたちのいる広場の上空に、蜂蜜色の髪をした女が出現。浮遊しだす。
アーダは恐怖を覚えた。
あの女を知っている。ドロシーだ。
(──最悪な奴に遭遇した)
ドロシーの首を刎ねるため、《殺戮神速》を発動し跳躍。
瞬時に距離をつめ、チェーンソーを一閃。
しかしチェーンソーは、ドロシーの指先で止められてしまう。あまりに容易く。
「わたくし、失恋いたしました」
と、ドロシーが悲しげに言う。
「はぁ?」
「悲しみを紛らわすため、これより大量に虐殺いたします。100万ほど蹴り殺せば、少しは楽になるかと」
かくして、ドロシーさんの『傷心を癒す旅』が始まった。
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