54,〔やばい。なんか、殺しちゃう……か弱い人間を殺しちゃう〕。
ドロシー問題を解決したところで、おれは遠い昔のことを思い出した。
遠い昔といっても、先月の話だが。
〔そういや、おれのダイヤを取り返さんと〕
〔あんた、まだダイヤのこと忘れられないんですか!〕
イチゴに『あんた』呼ばわりされてしまった。
ソフィアはこれから、中央ヨーロッパを目指すという。そこにはドロシーも向かったスイスも含まれるので、おれとしてはお勧めしないがね。
「中央ヨーロッパで何かが起きようとしているのよ」
「おれも目指す方向はちょっと似ているな。ユーラシア大陸北部だし」
「どこ?」
「ロシア」
ソフィアが冒険者軍に合流するというので、ひとまず別れることになった。
「ご両親へのご挨拶は、世界のモンスター問題を解決してからね?」
「あー、そうだね」
その前に死んでおこう。修羅場は嫌だし。
ロシアへ《飛翔》で向かおうとして、ふと思い直す。
ドロシーが出来ることなら、おれもやれたほうがいいだろう。
つまり瞬間移動のこと。以前やったときは、死ぬ思いがしたが。
〔なぜ、ドロシーは問題なくやれるんだろう?〕
〔モンスターだからじゃないですかね? かつては人間だったけど、今はモンスターなんですよ〕
ということは、おれも片足をモンスターに突っ込めばいいんじゃないか。
世の中はシンプルに考えることだ。
瞬間移動。
次の瞬間には、どこかのおっさんが爆散していた。
「おお、なんじゃこりゃ! このおっさん、どうしたんだ?」
おれを中心にして、どこかのおっさんの爆散した肉塊が広がっている。
〔タケト様、このどこかのおっさんの体内に転送したんじゃないですか? だからどこかのおっさんが爆散したんですよ。というか、タケト様もおっさんでしょ〕
〔あのなぁイチゴ。おっさんの中にもカーストってあるからな。おれはまだ若いおっさん。わかるか? そこ大事〕
とにかく、次からは瞬間移動先を人間の体内以外にしないとな。いちいち爆散させていたら、迷惑だし。
何はともあれ、瞬間移動に成功しましたよ。モスクワ、来た。
さっそく《探索》で、人さまのダイヤを盗んだ連中を探し出そう。
〔なんて名前の犯罪組織だったかな?〕
〔ロシアン・マフィア〈冬宮殿〉です。洒落た名前つけやがって、これはもう一族郎党ブッ殺ですよね!〕
〔別に名前くらい好きなのを付けさせてやれよ。お前は心が狭いな〕
《探索》の範囲をモスクワ全域にして、探索条件は『〈冬宮殿〉所属』で。
探索開始。
2分後、探索終了。
モスクワMAPを脳内で映し出し、〈冬宮殿〉の構成員は赤い輝点で表示する。死んだら青い輝点。
「あれ。おれの足元に青い輝点があるな。なんだ、さっき爆散させてしまったのは、〈冬宮殿〉の構成員だったのか。なら、罪悪感を抱くこともなかったな」
〔え。タケト様、罪悪感とか抱いていたんですか? タケト様はまともな精神構造じゃないと思っていたので、イチゴは驚きです〕
〔お前、おれをサイコパスか何かと勘違いしてないか?〕
〔ええ、ちゃうんですかっ! 驚きのあまり関西弁が出ましたよ〕
〔……〕
一番近くの赤い輝点は、民家の中にあった。赤い輝点が3つ。どうやら、家族で〈冬宮殿〉に所属しているらしい。
〔家族か。じゃ3人とも拘束して、お互いを拷問するところを見せ合おう。きっと口を割るに違いない〕
〔誰がサイコパスじゃないんですかねぇ?〕
さっそく民家にお邪魔。
スキンヘッドの男が、「てめぇなんだ?」という感じで出て来たので、下あごを掴む。で、引きちぎった。
「あばばばばばはばぁぁぁぁぁぁ……!!!」
〔挨拶がわりに、人さまの下あごを引きちぎるんですね。そんなの、タケト様くらいですよ〕
〔新しいことに挑戦するんだよ。なぜなら、おれはまだ若いおっさんだから〕
「兄貴ぃぃぃぃぃぃ! てめぇ、このクソ野郎、兄貴になにしやがんだぁぁぁぁぁ」
スキンヘッドの弟がショットガンを持って駆けてきた。
ショットガンを奪いとって、その弟の口内に銃身を突っ込む。喉まで銃口を叩き込むと、痙攣しながらぶっ倒れた。
〔やばい。死んでしまう〕
〔サイコパ警報、サイコパス警報~〕
〔だから、おれはサイコパスじゃないって言ってんだろ〕
慌ててショットガンを引き抜いたら、喉が裂けて死んだ。
〔仕方ない。まだ3人目がいる〕
3人目は、この家の父親だった。カウチに座ってテレビを見ていたので、頭を殴ったら捥げた。しまった。
〔だから、あんたはなんでさっきから殺してばかりなんですかぁぁ!〕
またイチゴに『あんた』呼ばわりされてしまった。
おれは愕然とした。
〔やばい。なんか、殺しちゃう……か弱い人間を殺しちゃう〕
〔……タケト様が末期です〕
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