53,究極奥義:将来を誓い合った相手がいるのだ。
──主人公の視点──
マンハッタン島の西端で、ソフィアを見つける。ハドソン河の近くだ。
《飛翔》から降下して、着地。
「あ、北条さん。さっき島全体が揺れたのだけど?」
「≪マンハッタン・ダンジョン≫が吹っ飛んだ衝撃だな。ダンジョンは別次元にあるから、島が揺れる程度で済んだんだろう」
驚愕するソフィア。反応がいちいち初々しい。
「えぇっ! ダンジョンが吹き飛んだって、どういうことよ!?」
「まぁそんなことより、土産だ」
ストリアの生首を《収納》から取り出す。
「それ、【五魔王族】のストリア!……なんだか、地獄のように苦しそうな顔をしているわ」
「生きたまま首を胴体から引っこ抜いたからな。家にでも飾ってくれ」
生首を受け取ったソフィアは、なぜか困り顔だった。
「あ、ありがとう……大切にするわね」
「この前、腹パンしたお詫びだ。これでチャラってことで」
「……そ、そうね。とにかく、【五魔王族】を楽々と倒してしまうなんて、北条さんには敵がいないのね。さすがだわ」
「いや、思いがけなく天敵と遭遇してしまった」
「え? 北条さんの天敵って、いったい何者なの?」
「アレだ」
指さした先に、女が着地。やはり追いかけてきたか。
ドロシー。
外見だけならば、蜂蜜色の髪をした美女。
その実体は、『やべー奴』。
「追いかけっこは終わりでしょうか、尊人さん? では、そろそろ本番に入っていただけます? そうして頂けないとわたくし、滾り過ぎて──この地球を滅ぼしかねません」
脳内で、イチゴがすっかり観念した口調で言う。
〔あー、もうタケト様。これはヤるしかないですね。地球のために男になるときです〕
〔断る。多様な意味で食われる。オスのカマキリにはなりたくない。だいたいイチゴ、お前は他人事みたいに言うがな。確かおれと一心同体のはずだろ。ならお前も、おれと一緒に食われるんだよ。ドロシーに〕
〔……嫌です! 嫌です! わたしは食われたくないです!!! タケト様、もうドロシーを殺しちまうしかないですよっ!!! 殺っちまいなぁぁぁぁです!!!〕
イチゴのウザいテンションは無視して、《疑似戦争》というスキルを使ってみることにした。
これは敵との戦いを未来予知して、脳内で観賞できるモード。
どれ、観賞を始めよう。
──ドロシーとの戦闘勃発。
──するとドロシーが地上で《宇宙破壊》を使う。地球が粉みじんになる。
──宇宙を漂いながら、ドロシーが愛を語ってくる。
眩暈がした。なんじゃこりゃ。
ドロシーめ、本気で地球をやっちまう気か。
〔イチゴ。やはりおれ達は、地球のため人身御供になるしかないかもしれん〕
〔タケト様、いま閃きました! ドロシーを諦めさせる方法です! まさしく王道ながらも、究極奥義ですとも!〕
〔なに? まだそんな切り札があったのか?〕
期待を抱いて、イチゴの話を聞く。
だがすぐに期待はしぼんで、落胆が残った。
〔そんなクソみたいな作戦が通じるわけがないだろ〕
〔いけますっ! わたしには分かりますっ! というかこれしか希望はないですっ! ドロシーの乙女心に賭けるしか、わたしたちが生き残る道はないんですよぉ!〕
仕方ない。ダメ元でやってみるか。
ソフィアの肩を抱いて、
「悪いがな、ドロシーさん。おれには将来を誓いあった相手がいるので、君とは性交できない。そしてその誓い合った相手というのが、このソフィアだ。ソフィア、挨拶しなさい」
「はぁ。はじめまして、ソフィアよ。……って、なんなの北条さん!」
耳まで真っ赤になるソフィア。
いらないんだよ、今は初々しい反応とかいらないんだよ。
接触しているときだけ使える《念話》を発動。
念話でソフィアに急いで言う。
〔すべては地球を守るためだ〕
〔そ、そうなの? わ、分かったわ〕
「というわけだ、ドロシー。おれはな、将来を誓い合った相手としかエッチはしないのだ」
「そ、そそそそそうよ。北条さんはあたしとだけ、あの、あれその、エ、エッチす、するのよ!」
恥ずかしさのあまり顔から湯気が出そうなソフィア。
うん、よく頑張った。
ドロシーが肩をがっくりと落とす。先ほどまでの異常なテンションが消える。
「……そうでしたか。尊人さんにはすでに将来を誓い合った相手がいらっしゃったとは」
あれ。意外と上手くいきそう? まさかイチゴのクソな作戦が、世界を救うのか?
ドロシーのスマホに着信があった。
メッセージを見てから、ドロシーは気落ちした声で言う。
「スイスで問題が生じたようですので、大至急そちらに行かねばなりません……尊人さん、一夫多妻制でもわたくしは喜んで受け入れますよ?」
「おれが抱くのは、愛するソフィアだけだ」
「そうよ! あたしだけが、北条さんに抱かれるのよ!」
ソフィア、なんか吹っ切れたらしい。
「そうですか……」
ショックのあまりか、足元がおぼつかないドロシー。
「尊人さん……お気持ちが変わりましたら……どうか、どうかわたくしを思い出してくださいね」
すっかりしおらしくなったドロシーを、青い光が包み──瞬間、消えた。
転送スキルで、スイスに向かったらしい。
とりあえず、一安心か。
「悪かったな、ソフィア」
ソフィアは頬を赤らめて、もじもじする。
「いいのよ。あの、それで北条さん──お互いのご両親には、いつご挨拶に行く?」
「……」
〔イチゴ、どうしてくれるんだこれ〕
〔知らんです〕
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