52,その頃、アーダはやさぐれていた。
──【七獏族】が1柱・オルフガンの視点──
スイス首都ベルン。
そこの広場に、巨大な玉座が置かれてある。
晴天のもと玉座に腰かけているのが、ヒト型モンスターのオルフガン。
A級≪ベルン・ダンジョン≫のラスボスであり、【七獏族】の1柱でもある。
【変転】後は、〈首領〉よりベルンの支配を任されていた。
いまオルフガンの目の前には、約100人の人間たちが跪かされている。
この人間たちは反抗勢力の連中だ。
先ほどオルフガンの部下が拠点を急襲し、連行してきたばかり。
オルフガンは嗜虐的な喜びを噛みしめつつ、ラスボスの威厳で言った。
「人間ども。貴様らは、新しい支配体系が理解できていないようだな。これからは我々モンスターこそが、この地上を統べるのだ。だというのに、銃などで武装して抵抗するとは。大人しく奴隷になっていれば良かったと後悔するがいい。殺れ」
オルフガンが部下に合図を送る。
巨兵蟻の群れが、人間たちに襲いかかる。生きたままその体を、ムシャムシャと食べるために。
一体の巨大蟻が、悲鳴を上げている若い女から内臓を引きずり出す。それをオルフガンは楽しく眺めていた。
そのときだ。オルフガンのスマホに着信。非通知だ。
怪訝に思いつつも、出る。
「もしもし?」
女の声が冷ややかに言う。
「5秒だけやる。いますぐ自害しろ。そうすれば、私がそこまで行く手間が省ける」
「なんだと? 貴様、何者だ?」
だが通話は切れた。
ふいに遠くのほう、広場から離れた都市のほうから悲鳴が聞こえてくる。
はじめオルフガンは、その悲鳴を人間たちのものだと思った。
ベルン内にいる他の反抗勢力を、オルフガンの部下が殺戮しているのだろうと。
だが違う。
この悲鳴は人間ではない。モンスターのものだ。
オルフガンの部下たちの悲鳴だ。
「なんだ! 何事だ!」
側近が駆け付けてきた。
「て、敵襲です閣下!」
「敵襲だと? 身の程知らずの冒険者どもか?」
「い、いいえ。あれは、あれは──女オーガです!」
「なにぃぃ?」
瞬間、広場に女オーガが降り立ち──
とてつもない速度で、巨蟻兵たちを切り刻んでいく。
それを見た人間たちが歓声を上げる。
「おお、助けがきたっ!」「わたし達は助かったぞ!」「殺せ殺せ、モンスターを殺せ!」
と思いきや、その人間たちの首も刎ね飛ばされた。
この人間たちを助けに来たわけでもないらしい。
よって、まさしく無差別な殺戮。
人間もモンスターも、ガンガン殺されていくのだ。神速で。
オルフガンは恐怖のあまり叫んだ。
「な、なんなんだぁぁぁぁこれはぁぁぁぁぁぁ!」
虐殺終了。
生き残っているのは、オルフガンとそばにいる側近だけ。
瞬間。斬撃が飛んできて、側近が真っ二つにされた。
これでオルフガンだけとなった。
もちろん、虐殺の実行犯である女オーガは別として。
「き、貴様ぁぁ──どこのダンジョンのオーガだぁぁ!」
女オーガは角もないので、見た目はただの人間に見える。
装備しているのは、巨大なチェーンソー。
こんなに殺しまくったのに、一滴も返り血を浴びていない。
女オーガが暗い声で言う。
「どこのダンジョンでもない。ホウジョウ四天王のアーダだ。しかし四天王が完成する前に、師匠は死んでしまわれた」
「貴様、モンスターならば〈首領〉の支配下に入らんか!」
「〈首領〉だと? ああ、A級ラスボスごときを支配して悦に入っている、ただの雑魚のことか」
「貴様ぁぁぁ、我が主を侮辱するのかぁぁぁ! この地上の覇者となるお方だぞぉぉ!」
女オーガは、あくびする。
「くだらないことを言うな。だいたい師匠亡きこの世界に用はない。よって動くものは皆殺しだ」
オルフガンは唖然とした。
このアーダとかいう女オーガ、本気で言っているらしい。
どう考えても、頭がおかしい。
オルフガンは玉座より立ち上がり、最終スキル〈蟲変化〉を発動。
「どうやら、この姿を見せねばならぬようだなぁぁぁ!」
〈蟲変化〉によって、オルフガンは最終形態へと至る。体の半分が蟲化し、戦闘力は3倍になる。
この女オーガを殺すため、出し惜しみなしの最終形態だ。
「【七獏族】の力、思い知るが──あれぇぇぇ?」
気づくと、視界がおかしい。
20メートルほど先に、オルフガン自身の胴体がある。
なぜ、胴体があんな遠いところにあるのか?
まるで頭部だけ、遠くに転がされたようではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
プツンと、オルフガンの意識が途切れた。
★★★
──アーダの視点──
面倒なので、速攻でオルフガンの首を刎ねたのだ。
切断したオルフガンの頭部が、転がっていく。
アーダは歩いていって、それを踏みつぶした。
「雑魚はどこまで行っても雑魚だな」
空を見上げると、一匹の監視蟲がいる。
先ほどから、こちらを何者かが監視していたわけだ。当然アーダは知っていたが。
「さては〈首領〉という奴か。せっかくだ──殺しにいくか」
すっかり、やさぐれたアーダだった。
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