51,ドロシーさん。
要塞まで跳び、ストリアの前で着地。
「お前な、おれの身にもなれ。わざわざお前の頭部を捥ぐために、サハラ砂漠から来たんだぞ。どれだけ苦労させれば気が済むんだ」
「北条尊人ぉぉぉ! 我が親友、ハムナーの仇ぃぃぃ!」
いや厳密には、ハムナー殺ったのはアーダなんだけどな。
ストリアの右拳に、蒼い雷が纏いだす。
《蒼雷拳》が放たれようとした瞬間-─
突然、ストリアの胸部から、右手が出てきた。
女の白い右手が。
「はぁ?」
ストリアも事態が飲み込めていないようで、両目を大きく見開き恐怖の表情。
続いて左手も出てきた。さらに滑るようにして、全身が外へと現れる。
若い美女だ。肩のところで切りそろえた蜂蜜色の髪。一度も日差しの下に立ったことがないような白い肌。
繃帯帝の記憶で見た女だ。
「ドロシーか」
「驚かせてしまい申し訳ございません。諸事情がありまして、転送ポイントをストリアさんの体内に作らせていただきました」
脳内でイチゴがうるさい。
〔タケト様! タケト様! この女、ガチでヤバいですよっ! 逃げるんです、お尻に帆をかけて逃げるんですっ!〕
〔イチゴ、お前は黙ってろ。この女こそが、おれを殺せる最後の可能性なのは分かっている。ならばいまこそ原点に返るとき。今日がおれの命日だ〕
〔そんな……タケト様……ついにこの時が来たんですね……〕
おれはドロシーに言った。
「お前はどうしたいんだ?」
ドロシーもラスボスのはずだから、おれを殺したいだろう。
ところがドロシーの返答は、予想の斜め上を行った。
ぽっと頬を染めつつ言うのだ。
「北条さんと同衾いたしたいと思いまして」
「……つまり、セックスってこと?」
「はい」
「……」
おれも男だ。美女とエッチできる機会、普通なら逃がしませんよ。
そして、このドロシーは確かに美女ではある。
だが──
運命的に、おれの脳内でひとつのイメージが現れる。
メスのカマキリによって、性交中に食べられるオスのカマキリが。
この女に、食われる!
まんまの意味か隠喩かはともかくとして。
そーいう死にかたは、望んでいないんだが。
〔計画変更。食われるのはごめんだ〕
〔逃げるんですよねっ! 逃げましょう早ぁぁぁぁぁぁぁく!〕
ここでいきなり逃げると、あとあと恨まれそうだ。ちゃんと断っておくべきだろ。
「申し出はありがたいんだがね、ドロシーさん。お断りだ。いやね、あんたは魅力的だよ。ただ、えーと、気分じゃないというか。ま、そういうことで」
紳士的に断ったので、帰ろう。
ドロシーは天使のような微笑みで、
「承知いたしました、北条さん。そういうプレイがお好みなのですね?」
「はぁ? どーいうプレイ?」
ドロシーが右手と左手を持ち上げて、ゆっくりと合わせていき。
「はい、バーン」
刹那。
ドロシーの両手の間で、《宇宙破壊》が発動。
回避──できない。
防御力∞を凌駕するエネルギー奔流に、おれはすっかり飲み込まれる。
〔くそ。あの女、頭おかしいのか!〕
〔だから逃げようと言ったじゃないですかぁぁぁ! タケト様のバっカぁぁぁぁあ!〕
意識はなんとか失わずに済んだので、《宇宙破壊》のダメージを《超絶回復》で完全回復。
「まったく冗談じゃないぞ。あの女、《宇宙破壊》を鼻先でやったら、自分だってタダじゃ済まないはずなのに──」
≪マンハッタン・ダンジョン≫が吹っ飛んだ粉塵で、視界はゼロ。
《探索》で探すが、ドロシーは見つからない。跡形もなく消えたんじゃなかったら、高度な隠蔽系スキルを使っていやがるな。
〔あ、タケト様の心臓が!〕
おれの胸部から、勝手に心臓が飛び出した。
ドロシーが《心臓強奪》を発動してきたらしい。
「させるか!」
心臓をつかんで、自分で胸部内に叩き戻した。
《探索》がようやくドロシーを発見──後ろだ。
振り返ると、下半身だけが歩いてきた。
上半身は《宇宙破壊》で粉みじんになったようだ。
唖然として見ていたら、ゆっくりと上半身が再生されていき──数秒後には元に戻っていた。美女ドロシーに。
そして微笑み。
「性的興奮を感じられましたか? その気になられました?」
「……」
心から言おう。
やべー奴に目をつけられてしまった。
だが逃走プランならある。
「ドロシーさん。あんた、可愛い動物は好きか?」
ドロシーは小首を傾げる。
「はい、好きですが?」
「なら、コイツらは攻撃できないだろ!」
《封印遊戯》のカード523枚を、《収納》から取り出す。
同時にモンスターを解放。
523体の殴る兎が出現した。
コイツらは≪ドレスデン・ダンジョン≫で遭遇した雑魚モンスターども。可愛いウサギを殺すのは忍びなかったので、全てを《封印遊戯》でカード化していたのだ。
「かかれ!」
523体の殴る兎が、一斉にドロシーへ襲いかかる。
大量のウサギに埋もれるドロシー。
「あぁ、このモフモフは──卑怯すぎますよー!」
と、なんか嬉しそうなドロシー。
ドロシーがモフモフたちと戯れている間に、逃げておこう。
《飛翔》で地上に出る。
すると地上を走っているストリアを発見。
いち早く地上へ逃れることで、《宇宙破壊》の破壊を逃れていたのか。
ちょうどいい。
状況が変わったので、ダンジョン製品どころではなくなったが──
「ストリアく~ん」
「ぐぁ北条尊人!」
上空から襲いかかり、ストリアの頭部を引っ張る。
「ぎゃぁぁぁぁああああああやべぇぇえろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
頭部が胴体から、ブチッと引き抜けた。
ストリアの生首を《収容》して、
「ソフィアへの手土産だけは、ゲットできたな」
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