49,《心臓強奪》。
とりあえず、ローレをどうするかな。
裏切りをいちいち暴き立てるのも面倒だしなぁ。しかし理由を説明せずローレを殺したら、ソフィアがうるさそうだ。
ひとまず──
「ソフィア。あれはなんだろうな?」
屋内の隅っこを指さす。
「え、なに?」
ソフィアの視線がそちらへ向いた隙に──
ローレに対して、《心臓強奪》を発動。
ローレの胸部から心臓が飛び出してくる。ただスキルで出したので、ローレの体は無傷だ。
奪った心臓は、《収納》しておく。
ローレは顎が外れるくらい、口を大きく開けた。声なき絶叫中か。
《心臓強奪》とは、心臓を奪うだけではない。奪った相手を、おれの好きに使えるスキルだ。
すでにローレには、余計なことを言わないよう命じてある。だから絶叫もできてないわけ。
ソフィアがこちらに向き直った。
「北条さん、何もないわよ」
「そうか? 気のせいだったようだな。あ、まてよこの地響きは──」
「え?」
おれ達はビルの10階にいたが、そこの窓から大通りの先を見る。
何千ものモンスター軍勢が、大地を揺さぶりながら向かってくる。
「あたしたちの潜入に気づかれたんだわ! けれど、どうして!?」
人類の裏切り者であるローレが告げ口したから。
それでローレの処遇が思いついた。
《心臓強奪》を使うと、ローレが何を言うかまで操れる。
そこでローレに、こう言わせてみた。
「君たち、ここは俺に任せてくれ!」
ソフィアが驚いた様子で、
「そんなローレさん、危険すぎるわ!」
さらに、ローレに次のセリフを言わせる。
「俺が君たちのため、道を切り開くぞ!」
せっかくなので《盗み聞き》を使い、ローレの心の声を聞いてみよう。
《心臓強奪》も、心の声までは支配しないからな。
『ふ、ふざけるんじゃねぇぇぇぇ! どうしてこんな奴らのために、俺が命張らなきゃならねぇんだぁぁぁぁぁ!』
残念だがローレくん、もうお前の自由意志なんてないから。
おれの操り人形だから。というわけで、次なるローレのセリフは──
「ここは俺に任せて、お前たちは先へ行け! うぉぉぉぉぉぉぉ!」
ローレは窓から飛び降り、向かって来るモンスター軍勢へと駆けだす。
『いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 戦いたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 誰かぁぁ、俺を止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
という心の声を叫ばせながら。
ここからは自動モードで、ローレに戦わせるか。さて、何秒もつかな。
ローレがモンスターの軍勢へと飛び込んでいき──8秒ほど戦ったのち、八つ裂きにされた。
おれの《収納》の中で、ローレの心臓が勝手に潰れる。心臓の持ち主が死んだためだ。
ソフィアが涙ぐんだ。
「ローレさん、勇敢な冒険者だったわ」
「ああ。こんど銅像でも建ててやろう。じゃソフィア、君はここから逃げろ」
「北条さんは?」
「セロトニンを補充する」
「……よく分からないけれど、あたしがいても足手まといなだけみたいね。必ず、また会いましょう」
「あいよ」
モンスター軍勢とは反対方向へ、ソフィアが走る。
一方、おれはビルから飛び降りて、軍勢の前に着地した。
ところがモンスター軍勢が、ぴたりと止まる。おれから100メートルほどの距離で。
路面が内側から崩れ、巨大なモンスターが現れる。地下から接近していたフロアボスのご登場だな。コレが出てくるから、モンスター軍勢は止まったわけか。
肝心の巨大モンスターだが、これが50メートルの身の丈。
ヒト型だが、腕が6本もある。それぞれの手には、塔サイズのこん棒を装備していた。
〔タケト様、あれはギガスですよ。不死の巨人です〕
〔へぇ死なないのか?〕
〔いえ死にはしますけどね。〈巨人殺しの鍵〉を使わないと死なないんですよ。そーいうイベント要素のあるフロアボスでしてね。ちなみに〈巨人殺しの鍵〉は、≪ミシシッピ・ダンジョン≫第52階層で入手できます。取りにいきます?〕
〔行くわけないだろう〕
〔ですよねぇ〕
ギガスが勝ち誇る。
「我は巨人の王ギガス! 死ぬことのない不死身の体を持つものだ! 虫けらのごとき人間よ、死にかたを選ばせてやろう! 我の足で踏みつぶされたいか? それとも我のこん棒で叩き潰されたいか?」
ギガスの後ろにいるモンスターどもが、大歓声。
ふむ。おれに選べって?
では遠慮なく選ばせてもらおう。
《心臓強奪》を発動。
ギガスの胸部から、巨大な心臓が出てくる。
それを、おれは《収納》に保管。
ギガスが「えっ?」という顔をした。
〔いいオモチャを手に入れたなぁ、イチゴ〕
〔はい。何たって壊れないオモチャですものねぇ、タケト様〕
さっそく、《心臓強奪》の強制力のもと命じよう。
「よ~しギガス。モンスターどもを踏みつぶせ~。大殺戮を見せてくれ~」
あ、セロトニンが増えてきたかも。
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