46,Go To マンハッタン with ソフィア。
結局、ストリアをボコることになった。
一度は許した【五魔王族】が1柱。おれの寛大なる心によって救われた≪マンハッタン・ダンジョン≫がラスボス。
しかし方針転換。やっぱボコる。その前に拷問コース。
というのも、ラスボスを見つけるのが大変。かつてはダンジョン内にいたので簡単だった。ところが今や連中は地上にいて、好き勝手に動いている。
いや、一応は勢力図らしきものを描き始めてはいるようだ。
つまりモンスター側にも派閥があり、徒党を組んでいる気配があると。
もうじき人類は、新たな世界地図を手にすることになるだろう。すなわち、モンスター勢力図を描いた世界地図を。
ソフィアいわく、そんな話である。
そうソフィア。大遠投したSランク娘。コイツ、思ったよりもたいした娘だった。
その夜、おれがメルズーガ村でタダ飯を食べていると、戻ってきたわけだ。まるでフリスビーを取ってきた犬のごとく。まぁ、かなり怒り心頭に発していたけど。
「北条さん! 前から思っていたけど、あなた──人間性をどこに捨ててきたのよ!」
「『前から』っていつのことだ?」
「あなたに腹パンされたときよ」
「腹パンかぁ。懐かしいなぁ。あのころ、おれたちは若かった」
「なんかいい思い出風にまとめようとしているけど、全然いい思い出じゃないわよ。そもそも先月の話だし」
「まぁ座れよ。英雄のおれに対して、タダ飯がふるまわれているから。あ、お前はちゃんと払えよ」
少しは怒りも静まったようで、ソフィアは腰かけた。
「傀儡死を倒したのは、さすがよ。狂い首ほどではないけど、みんな手こずっていたし」
「らしいな。で、モンスターvs人類はどんな様子なんだ?」
「人類の大苦戦中ね。正直、A級ダンジョンまでなら何とかなったと思うのよ。完全攻略組の冒険者と、各国の軍事力が連携を取れればね。けどS級ダンジョンが絡むと厳しいわね。たとえばドラゴン一体を倒すのに、どれだけ苦労させられることか」
「ドラゴンは雑魚モンスター枠だろ」
「そうよ。S級ではそうなのよ。フロアボス枠なら数も限られるけど、雑魚モンスター枠じゃ大量発生。そのせいで全世界に、何万というドラゴンが飛び交っているわけ」
「そう考えると、おれは人類に貢献してしまったなぁ。3か所もS級ダンジョンを潰したんだから」
「北条さんの貢献を否定はしないけれど、すべてを台無しにしたのが≪万里の長城ダンジョン≫ね。全9999階層に満ちていた数多のモンスターが、世界各国にパッとランダム転送されてしまったのだから」
なるほど。ドラゴンだけで何万というのはどんな計算だ、と思ったが。
≪万里の長城ダンジョン≫のことを失念していた。ほかのダンジョンとは階層の桁が違うからなぁ。
強制転送で全世界にモンスターをバラまくというのは、なかなか嫌がらせ精神が旺盛というわけか。
「もちろんA級ラスボスだって、倒すのは簡単じゃないし。狂い首なんて、その代表格よね。被害は甚大な上に、撃破は困難」
「アイツはおれも殺したかった。逃げられたのが今でも癪だ」
まてよ。ソフィアの話からして、人類はもう詰んだんじゃないか。お疲れ様、人類よ。やはり引きこもるのが正解だったな。
「けど希望はあるわ」
と、おれの心の声が聞こえたがごとくの返答。
「ラスボスを倒すとね、そこのダンジョンにいたモンスターたちも地上から消えるみたいなの」
「消滅するって?」
「いいえ。ダンジョンに強制送還される感じ」
なに、ダンジョンに戻ってくる? おれの引きこもりライフが、さっそく黄色信号かよ。いやまだ諦めるのは早い。
「ラスボスを倒すと、配下のモンスターはダンジョンに強制転送。で、もう出てくることはできないと?」
「ええ。何か所かのダンジョンで確認が取れたわ」
「ほう」
ぬるいビールを飲みながら、おれはイチゴに尋ねた。
〔このダンジョン・ルール、知っていたか?〕
〔いえ初耳ですねぇ。まるでダンジョン・ルールが更新されたようですよ、タケト様。
モンスターを地上に出したはいいけど、思ったより人類が詰んでいる。そこで急遽、新ルールを入れてみた──そんな感じですねぇ〕
〔何だか、裏にはゲーム・マスターがいる感じだなぁ〕
おれは改めてソフィアに言う。
「おれはラスボスに用があるんだ。どうしても聞かなきゃならないことがある」
「あたしが掴んでいる限りでは、マンハッタンにいるストリア。このラスボスだけは動かず、そこを本陣としているわよ」
ソフィアの奴、ほかにもラスボスの居所を知っていそうだがなぁ。おれに、S級ラスボスを倒させようとしているんじゃないか?
まぁ【五魔王族】あたりは、人類が逆立ちしても勝てないか。
「仕方ない。お前の策略に乗ってやるよ、ソフィア。マンハッタンに行くぞー」
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