45,なら投げる。
くだんのAランク冒険者は、スイス国籍のペーターといった。
現在、冒険者部隊と多国籍軍の合同作戦が行われており、これに参加しているとか。
作戦目的は、狂い首というA級ラスボスの討伐。
この狂い首は、ランダムに世界各地に現れては、万単位の人間を食い殺していくらしい。
「人類危険度はSSだ」
「SS? いや、A級ダンジョンのラスボスだろ」
「ダンジョンのモンスターが地上に現れてから、新たなランク付けがされている。これは人類にどれほど脅威を与えるかというもので──」
面倒そうなので、続きは聞かないことにした。
村外れに停まっていた軍用ヘリに乗り込み、狂い首とやらのいる場所まで向かう。
「急がねばならない。あと12分で、狂い首がまた瞬間移動してしまう。次に世界のどこに現れるかは、予測がつかないのだ。しかし今回だけは運良く解析が間に合って先回りを──聞いているのか、北条さん?」
「ネットフ〇ックスって、どうなったんだ?」
「……は?」
「いやね。スマートテレビを買ったら、ネト〇リにでも入ろうかと思うんだけどさ。世界がこんな状態だと、ネト〇リも配信停止しているのかなと」
「北条さん、集中してくれ! ここで狂い首を倒さなければ、さらなる犠牲が発生するのだぞ! 何万もの人類が──」
「分かった分かった。そう熱くなるなって。おれもラスボスに用があったんだ。ただし聞きたいことを聞くまでは、狂い首とやらは殺させんぞ」
砂漠のど真ん中で、人類VSA級ラスボスが繰り広げられていた。
狂い首は、小山サイズのでかい首。というか頭部だな。巨大な口を開いたと思ったら──
ペーターが叫ぶ。
「しまった! 《大食らい》だ!」
「はぁ?」
狂い首の巨大な口へと、周囲のものが吸い込まれ出す。まるでブラックホールでも発生したかのような、この凄まじい吸引力。
おれが乗っている軍用ヘリも例外ではなく、巨大な口まで一直線。
ペーターが悲鳴を上げる。呆れるね。
「おい。Aランクのくせに、こんなことで悲鳴を上げるなよ」
ペーターの襟首をつかんで、軍用ヘリから放り投げた。《大食らい》の影響から外れる距離まで。
〔ペーターさん、着地スキルを持っていなかったら死にますよ〕
〔そこまで面倒みてられるか〕
おれも軍用ヘリから降りて、着地。
《大食らい》は冒険者や兵士、さらには戦車までも吸いこんでいく。
〔確かにこれを都市部でやられたら、あっという間に万単位で死ぬなぁ。にしても、吸い込まれた奴らはどこにいくんだ? 首なんだから胃袋はないだろうし〕
〔虚無ですね〕
後ろから人間が飛んできたので、何となく掴んでやった。あ、この女は見覚えがある。
「ソフィアか。こんなところで会うとは──何だかなぁ」
「ほ、ほ、北条、さ、ん! な、なぜあなたは、《大食らい》の影響を、受けて、いないのよ──!!!」
「大地にしっかり立てば、あんな口に吸いこまれることもないんだ。しゃきっとしろ」
〔引きこもりを計画している人のセリフとは思えませんねぇ。痺れます〕
《大食らい》が終わった。生き残ったのはソフィアを抜かせば、3、4人の冒険者だけか。どいつも疲弊しきっているが。
おれはソフィアを放ってから、狂い首へと歩いていく。腕まくりして、
〔さてと──狂い首くんの皮でも剥ぐとしますかね〕
〔歯の神経を引きずり出すのもいいですよっ!〕
〔目玉を抉るのもいいかもなぁ〕
瞬間、狂い首が消えた。
〔……は? おい、イチゴ。おれの獲物はどこに消えやがった?〕
〔これは瞬間移動しやがりましたねぇ。タケト様、速攻でボコればよかったのに〕
〔それだと味わいが不足するだろ。結果的に失敗だったようだが〕
〔万単位の犠牲が増えましたよー〕
〔知るか〕
万単位の犠牲はどうでもいいが、逃げられたことは癪だな。モンスターどもはダンジョンの外でも、瞬間移動し放題ときた。
一方、おれは冒険者なのでそれができない。ウザい。
〔おい。そもそもモンスターがダンジョンの外にいる時点で、ダンジョンルール違反だろ。罰則はないのか〕
〔【埋もれた兵器】を使用しているので、ダンジョンルール違反ではないんですよ。ようはルールの抜け道ですねぇ〕
まてよ。
とするとダンジョンルールを制定した奴と、【埋もれた兵器】を創ったのは別人か。わざわざルールの抜け道的な兵器を創ったりはしないだろうからな。
さっき放ったソフィアが戻ってきて、おれの顔をまじまじと見る。
「北条さん──あなたは死んだとばかり」
「生きてたよ。じゃあな」
「ま、まって! このことをアーダさんと汐里さんに伝えないと! ホウジョウ四天王の2人に!」
ホウジョウ四天王、本当に誕生していたのか。
「あの2人は元気にやっているか?」
「ごめんなさい。【変転】以後、2人とは連絡が取れていないの」
「【変転】?」
「モンスターたちが地上に現れた瞬間のことよ。人類の歴史は、その瞬間を境にして『前』と『後』で分かれてしまったわ」
「だろうな」
「だけど北条さんが生きていてくれたのは、人類にとって朗報よ。是非とも北条さんには人類軍を率いて欲しいの。あなたの力を必要としているのよ、この世界が!」
おれはソフィアの肩をつかんで、うなずいた。
「そうか。世界がおれの力を必要としているのか」
「ええ! 分かってくれたのね、北条さん!」
〔イチゴ~〕
〔はい?〕
〔またソフィアに腹パンしたら、さすがに鬼畜すぎか?〕
〔そうですねぇ。たぶん♪〕
〔そっか〕
なら投げる。
ソフィアの襟首をつかんで、100キロクラスの大遠投をした。
「きゃぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………!!!」
悲鳴を上げながら彼方へと消えていくソフィア。Sランクなら自力で助かるだろ。
〔さてと。別のラスボスを捜すか〕
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