41,《言霊》vs「断る」。
少年型のモンスターが、ウザい抑揚をつけて言ってきた。
「やぁ、どうも。僕はアジェンダ。【三騎士】のひとりさ」
「くそ。また新グループか。【三魑魅族】とかが出てきたあたりから、ウンザリしていたんだ」
〔タケト様……【三魑魅族】という、由緒正しき隠しボスの方々になんてことを〕
「だいたい小僧、アジェンダとか言ったか──【三騎士】と【三魑魅族】で『三』が被っているだろうが」
アジェンダがムッとする。
「【三騎士】を、【三魑魅族】なんていう老害と一緒にしないで欲しいね」
なぜかイチゴがキレる。
〔コラァ小僧っ! 【三魑魅族】さんたちに向かって、舐めた口を利くなですよ! タケト様、このクソ生意気なガキを懲らしめてくださいっ! 【三魑魅族】さんは、子供のころのわたしのアイドルだったんですからねっ! サインが欲しかったあのころです〕
脳内でイチゴが喚くと、頭痛がぶり返す。
アジェンダはアジェンダで、勝手に話を続ける。コイツら、おれの二日酔いに配慮する気ゼロか。
「【三騎士】とは、ドロシーさんがお選びになったラスボスのことさ。新たな時代を告げるのが、僕たち【三騎士】。北条尊人さん、あなたがこれまで殺してきた【五魔王族】とは格が違うのさ」
〔あのガキ、ちゃんと『さん』付けしてきた。見どころがあるかもしれん〕
〔ちょっとタケト様っ! 子供を評価する基準が低くないですか! そんなハードルの高さ足首でいいんですかっ!〕
〔まぁ聞けって。おれの近所に住んでいる小学生なんか、このまえおれのことを呼び捨てにしやがったからな。空き缶で遠隔狙撃して、タンコブ作ってやったが〕
「ところで──」
アーダの意識はまだ戻りそうにない。ひとまず《収納》した。チェーンソーも忘れずに。
「おれの弟子を倒したのは、お前か?」
「さっきのお姉さん? それなりに戦闘力を持っていたようだけど、僕の《言霊》の敵ではなかったね」
「《言霊》?」
「僕だけが持つ特別なスキルさ。これは『言葉にしたことが現実になる』スキル。たとえば──北条さんは日本の方だったね。じゃ、『桜が咲く』」
桜の木が出現し、満開の桜の花が咲いた。
「ほーう。これは新手のスキルだな。つーか、おれは持ってないぞ」
「言ったでしょ、北条さん。これは僕だけのスキルだって。北条さんのような凡人には持てないのさ」
〔タケト様、凡人呼ばわりされていますよっ! 殺しましょっ! 殺しましょっ!〕
〔凡人程度では殺意は湧かんなぁ〕
〔くぅっ! アジェンダとかいうガキ、タケト様を痴漢呼ばわりしませんかねぇ。言えっ! 痴漢と呼べ小僧! 痴漢っ、痴漢っ、痴漢っ〕
脳内の痴漢コールで頭がふら付く。
おれにとって最大の敵って、やっぱりイチゴさんじゃないんかね?
「しかし、その《言霊》でどうやって、アーダをボコったんだ? 自らのチェーンソーで傷つけたようだったが」
「もちろん、『あなたは自分で自分を斬り刻む』と言ったんだよ。僕の《言霊》からは何人たりとも逃れられない」
〔痴漢っ! 痴漢っ! 痴漢っ! 痴漢っ!〕
イチゴがうるさい。イチゴがうるさい。アジェンダがせっかくスキル説明してくれているのに、イチゴがうるさいぞー。
アジェンダがおれを指さしてくる。
「では北条さん。《言霊》で命じよう。『あなたは自分で自分を痛めつけ、殺す』」
よく分からないが、なぜか勝ち誇るアジェンダ。
無視するのも悪いので、応えておく。
「断る」
「……へ?」
「だから断る。自分で自分を痛めつけるメリットがないだろ」
「そんな……僕の《言霊》が効いていないなんて……」
〔なんか動揺しだしたぞ、アイツ〕
〔ははぁ。《言霊》でタケト様を意のままに操ろうしたのですね~。無駄なことですよ。さっ、タケト様、痴~漢、痴~漢、痴~漢〕
〔お前が痴漢コールしてるだけだろ〕
アジェンダが子供ならではの柔軟さで立ち直る。
「もう遊びはお終いだ。《言霊》は万物を支配する力。僕の言葉はすべて現実となる。だからね、僕はこう言うのさ。『北条尊人の心臓は止まる』!」
「断る」
「……へ?」
「心臓が止まったら困るからな」
「『北条尊人は焼け死ぬ!』、『北条尊人は消えてなくなる!』、『北条尊人はバラバラになる!』」
「断る、断る、断る。しつこいなぁ~やっぱり子供だからか」
アジェンダはぜいぜいと荒い息を吐いてから、ボソッと言った。
「こんなバカな──僕の《言霊》が通じないなんて、こんな痴漢なんかに──」
イチゴが歓声。
〔やったぁあっ!〕
おれはアジェンダの前まで歩いていき、
「おい小僧」
「へ?」
「誰が痴漢だぁぁ反省しろ!」
アジェンダの脳天に拳骨を振り下ろしたら、粉々にぶっ壊れた。
〔……あれ。なんか脆かったね。ドロシーとやらの直属というから、もっと頑丈かと思ったが〕
〔たぶん《言霊》という特殊スキルに極振りしていたんですよ。まぁ普通に考えたら、チートもチートなスキルでしたしねぇ〕
ま、いっか。
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