39,アーダさん、殺っちゃう。
──主人公視点──
最下層に戻ったところ、痴話喧嘩(?)を目撃した。
アーダに縋りつくハムナー。
アーダが何やら冷ややかに言っている。さては三行半でも突き付けているのかな。
遠くから眺めていたら、アーダがチェーンソーを一閃し、ハムナーの首を刎ねた。
……。
よし、何も見なかったことにしよう。
〔タケト様、タケト様。アーダさんがいまハムナーを倒した経験値で、滅茶苦茶レベルUPしてますよー。さすがハムナー、アホでも【五魔王族】だけありますね。アーダさんはもうS級ラスボスの領域いきました〕
〔見なかったことにしたんだから、いちいち報告してくるんじゃないよ〕
アーダがやってきて、チェーンソーについたハムナーの血を拭う。
「師匠。余計なしがらみを排除してきた」
「……そうか」
ハムナー。おれが初めて、心から同情したモンスターであった。地獄で再会したら、一杯飲もうぜ。
汐里がやって来て、
「おじさん、文化祭の未来はどんな感じ?」
「そうだなぁ。とりあえず汐里はアーダたちと地上に出てろ。ヘタすると、このダンジョンごと壊れるかもしれないからな」
「えー。せっかく追いかけてきたのに」
「ワガママ言うな。あとで迎えに行ってやるから」
アーダが言う。
「師匠。いまの私のレベルならば、師匠に同行しても足手まといではないはずだが?」
確かに。ハムナー撃破で得た経験値は、アーダを格段に強くしている。
……アーダの奴、そのために許嫁を殺ったのかな。あまり考えないでおこう。
「分かった、付いて来い。汐里はソフィアと戻ってろ」
「ん、分かった。おじさん頑張ってね。わたしの妹弟子も」
「貴様の妹弟子になった覚えはないぞ」
ハムナーが倒されたので、完全攻略用の転送ポイントが現れている。
ソフィアと汐里は、この転送ポイントから地上へ。
それを見届けたところで、おれはアーダに言った。
「最下層を叩き壊すから、お前は巻き込まれないよう離れていろ」
「承知した」
アーダが離れたところで、《爆裂風神逆烈渦》を発動。≪小金沢山ダンジョン≫の天井を崩落させたスキルだが──
うーむ。傷ひとつ付けられないか。
〔タケト様。S級ダンジョンの構造材は、次元鋼100が使用されています。核爆発にも耐えられる次元鋼80さえも上回るわけでして〕
〔単純な破壊系ではビクともしないわけだな。ならこれでいくか〕
《虚無拳》を発動。
説明しよう。これはパンチしたモノが消滅する拳である。
最下層の床へパ~ンチ。
これで床面が全て消えるはずだ。
刹那。
最下層全域が消滅した。
「うわっ、そこまで消えたか」
とにかく、これで最下層より下へと行ける──わけだが。
そこには暗黒が渦巻いていた。
スキルで浮遊しながら、イチゴに聞く。
〔イチゴ。これ飛び込んでもいい感じなのか?〕
〔分からんです、分からんです! ですが面白そうなので、飛び込みましょ~う!〕
〔おいおい死んだらどうしてくれる?〕
〔タケト様の初期目標って、死ぬことでしたよね?〕
〔なるほど。じゃ初心にかえるか〕
というわけで、暗黒渦に飛び込んだ。何か凄まじい衝撃が来るのを想定していたが──意外や意外。ぬるま湯に潜るような感覚。
そして暗黒渦を抜けた先は、真っ暗だ。
〔おお、死んだか〕
〔いえ、ただ光源がないだけです〕
〔だと思ったよ〕
《光界》を発動。
周囲が一気に明るくなった。
やはり、ここはダンジョンの第1階層だ。どうやら暗黒渦は一種の転送ポイントだったらしい。
隣にアーダが落ちてきた。
「お前も暗黒渦に飛び込んだのか。リスク冒すなぁ~」
「師匠が赴く場所ならば、どこへも付いて行く。それでここはどこだ?」
「……少しは、どこに向かうのかくらい考えたほうがいいぞ。とにかく、真の≪サハラ・ダンジョン≫に到着したようだ」
《光界》の中を、巨大百足が疾駆してきた。高層ビル並みのサイズだ。この閉じられたダンジョンで、冒険者が来るのを待っていたのか。
〔考えてみると、モンスターって食糧はどうしてるんだ?〕
〔ダンジョン内にいる間は、とくに水や食べ物は必要としませんよ。好みで人肉を食べるモンスターは多いですけどね〕
〔地上に出たとき、アーダはカップ麺に感動していたがなぁ〕
そのアーダが駆けて行き、チェーンソーを構えたまま回転。
そのまま巨大百足を貫通していき、どこまでも転がっていき──最後には巨大百足を真っ二つしてしまった。
その後、チェーンソーを突き上げるアーダ。
勝利ポーズのつもりらしい。うん、カッコいいぞ。
〔今の巨大百足、ここのフロアボスぽかったが。それを瞬殺とは、アーダもやるな〕
〔今のアーダさんは、かのドルゾン並みの力を有していますよっ!〕
〔そうか。つまり、まだまだ雑魚の領域ということだな〕
〔……ノーコメントです〕
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