38,「わたしたちの文化祭を守って!」テンションで。
《皆殺し》を発動。
最下層で盛り上がっていたところ悪いが、モンスター大軍を全滅コースへ。
無慈悲な何百万もの光弾が、モンスターたちを破壊していく。
この阿鼻叫喚の中で、汐里たちと合流。
「なんでここにいるんだ。アーダ、説明しろ」
「師匠、申し訳ない。私が汐里の暴走を止められなかったばかりに」
汐里はといえば悪びれた様子もなくカードを突き出してきて、
「見て、女王蜘蛛さんをテイムしたよっ!」
いつの間に、《封印遊戯》を会得していたんだろ。
汐里にはテイマーの素質があったのか。
「女王蜘蛛? ああ、あの非常食か」
汐里がハッとして、守るようにカードを抱く。
「食べないでよ、おじさん」
「食べんよ、不味いから」
〔ちなみに、タケト様を起こしてくれたのは汐里さんですよ〕
〔それを聞くと、叱りづらくなるな〕
ところでソフィアだけは、アホみたいに口をぽかんと開けて周囲を見ていた。
すなわち、四方八方から射出される光弾が、モンスターたちを血祭りに上げていく状況を。
「……北条さん、これは一体……」
「《皆殺し》だ。お前には当たらないから心配するな」
「それは安心だけど。あたしが言いたいのは──なんてチートなスキルなのよっ!」
ソフィアの反応は、何というか『いまさら』感があるな。もうそこの衝撃は終わっただろ、というか。
「アーダ。一応、お前の許嫁はまだ死んでないと思うが──」
「師匠。ハムナーについて、個人的な思い入れは一切ない」
あ、バッサリだな。まさかハムナーが気の毒に思う日が来ようとは。
汐里が真剣な表情で尋ねてくる。
「まって。おじさん、世界はもう救い終わったの?」
オレは頭をかいた。
「あー、世界ねぇ。いったん滅びる方向じゃ、ダメか?」
「ダメに決まってるよっ! おじさんだけが世界を救えるんだから、頑張ってっ!」
えー。そういう『世界を救え』展開は、遠慮願いたいんだがなぁ。怠いし。
「わたし、文化祭実行委員なんだよ」
「そうなのか」
「わたしたちの文化祭を守ってっ!」
意外と、こういうほうがやる気になるんだよな。世界を救えよりも。
仕方ない。〈大地叩き〉を追跡するか。
スキル・リストを開く。だが別ダンジョン内へ移動したものを追跡するスキルがない。
ドロシーとかいう奴、ここまで計算に入れていたのか。
「アーダ、汐里とソフィアの面倒を見ていろ」
神速移動で、転がっているハムナーのもとへ。
右足をつかんで、宙づりにする。
「おいハムナー。≪サハラ・ダンジョン≫はどこにあるんだ?」
「バカ野郎が……≪サハラ≫はここに決まってるだろうが」
「使えん」
ハムナーを放り捨てる。
〔イチゴ~。手がかりがないぞ~〕
〔でしたら、元【五魔王族】の繃帯帝に聞いてみたらどうでしょう?〕
〔誰だそいつ?〕
〔タケト様がおしっこしている時、《壊滅獄炎》で溶かしちゃった奴ですよ〕
〔溶かしちゃったら、もういないだろ〕
〔いえいえ。わたしもさっき知ったばかりなんですが、その繃帯帝、このダンジョンが本体らしいんですよ。つまり、≪メルズーガ・ダンジョン≫が〕
へぇ、不死身設定だな。いや、このダンジョンをぶっ壊せば済む話か。
〔なぁ結局、この≪メルズーガ・ダンジョン≫はS級ダンジョンだったのか?〕
〔もちろんS級ですよ。つまりですね、わたしたち案内係も騙されていたということです。この世界には、S級ダンジョンが6つあったというわけで。隠された6つ目のS級が、≪サハラ・ダンジョン≫というわけですねぇ〕
〔で、繃帯帝なら、真の≪サハラ≫を知ってるかもしれないと〕
〔ココの初代ラスボスですし〕
同じダンジョン内なら、《探索》で場所を特定できる。第12階層にいるのか。
神速移動で向かう。
繃帯帝というグロイ奴は、冒険者を生きたまま貪っているところだった。
とりあえず、顔面を蹴とばす。
繃帯帝の頭が壁にめり込んだところで、イチゴに聞いた。
〔コイツ、コミュ力低そうだぞ〕
〔繃帯帝は、おサル以下の知能でーす〕
〔なら『記憶』に直接聞くとするか〕
繃帯帝の頭蓋骨を開いて、脳みそをむき出しにする。指を突っ込んでかき混ぜつつ、《記憶採取》を発動。
繃帯帝の記憶を逆に辿っていく。
長い幽閉期間。
女にボコられる。
この女がドロシーか? うーん。なんか強くね? まぁいいや。
冒険者やモンスターを好き勝手に殺していたころ。繃帯帝にとっては、『あのころは良かった』時代だな。
ようやく始まりの記憶にたどり着く。
なるほど。そういうことか。
〔分かったぞ、イチゴ。やはり、S級ダンジョンは5つしかなかったんだ。そして、ココは確かに≪サハラ・ダンジョン≫だった〕
〔どういうことです?〕
〔もともと≪サハラ・ダンジョン≫とは、≪万里の長城ダンジョン≫並みの深さを持っていたということだ。ところが、浅い階層で区切られてしまった。ハムナーたちのいた最下層が、本当はまだまだ浅い階層だったということさ〕
〔ということは、≪サハラ・ダンジョン≫とは?〕
〔最下層──のさらに下にある〕
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




