33,弟子は師から学ぶのだPART1。
弟子は師から学ぶものだ。当たり前だが。
そこでアーダは、師匠ならばどうするかと考えた。
──師匠ならば、今すぐにダンジョン入りできる入場番号を、奪うに違いない。
「ソフィア。いま≪サハラ≫に入っているのが、41番だったな。では42番はどこのパーティだ?」
「まって、問い合わせてみるから。ふーん。42番はロシア代表のパーティね。昨日、入場を予約していたようよ。パーティ名は〈悪霊隊〉。まだこの村にいるかもしれないわね」
「手分けして探すぞ。見つけ次第、平和的な話し合いで譲ってもらうのだ」
アーダの中では、『平和的な話し合い』=『ボコる』だったが。
5分後、ソフィアが有益な情報をつかんできた。
「信じられないわ! 〈悪霊隊〉が全員、病院送りにされたそうよ。彼らはSランクであり、完全攻略者でもあったのに。誰がそんな人たちをフルボッコにできるというの?」
アーダと汐里は顔を見合わせて、ハモった。
「師匠だな」「おじさんだね」
〈悪霊隊〉がフルボッコにされたという酒場に行ってみる。すると折れて転がっていた奥歯の横に、紙切れが落ちていた。入場番号42だ。
「さすが師匠だ。私たちが来ることを見抜き、こうして入場番号を用意してくれていたのだ」
「うん。さすが、おじさんだね」
ソフィアだけは異論があるようで、
「……それはさすがに偶然だと思うわよ」
さっそくジープを借りて、≪サハラ・ダンジョン≫へと向かった。
ちなみに誰も免許を持っていなかったので、ジャンケンの結果、汐里がドライバーを務めている。
「汐里。ただ砂しかないところで事故るなよ」
「あのねアーダさん、砂丘を走るのって難易度MAXだからね」
「それでソフィア。正確には、ハムナーは何をしようとしているのだ?」
後部座席にいるソフィアが答える。
「何でも大地震を起こそうとしているそうよ。だけど、いくら【五魔王族】でもそんなことできるのかしら? ダンジョン調査機関内でも、意見は真っ二つに分かれているみたい。
ただ『真実』だった場合に備えて、精鋭冒険者たちが≪サハラ≫に挑んではいるけど。オーガとしての意見は、アーダさん?」
「分からんな。【五魔王族】には不可能だろう。だが【三魑魅族】かドロシーが関わっているのなら、話は別かもしれん」
「【三魑魅族】って、俗にいう隠しボスよね? けどドロシーというのは、初めて聞いたわ。あまり有名なボスではないようだけど?」
「私も詳しくは知らないが──かつて≪サハラ≫の元【五魔王族】をボコったという。普段は≪カンザス・ダンジョン≫にいるそうだが」
「≪カンザス・ダンジョン≫? まって。それって世界で唯一のG級ダンジョンのこと?」
運転席の汐里が嬉しそうに言った。
「あ、見えてきたよ! あれが≪サハラ・ダンジョン≫、きゃっ!」
ジープが横転し、砂丘を転がり落ちた。
「汐里。この下手くそが」
「自分で運転すれば良かったじゃん!」
言い合いつつも、残りは徒歩で向かい到着。
入場番号を見せて、≪サハラ≫入りが認められた。
ダンジョン調査機関の職員によると、現在は3組のパーティが≪サハラ≫内にいるという。
初めのころは第1階層のスフィンクスに苦戦していたが、ルーカ国パーティが撃破したそうだ。
それを聞いたソフィアが驚く。
「あら、スフィンクスを倒すなんて凄いわ。だけどルーカって、冒険者育成の後進国よね? 最高の冒険者でも良くてCランクだったはず。よく倒せたわよね。奇跡かしら?」
アーダと汐里は顔を見合わせて、ハモった。
「師匠だな」「おじさんだね」
≪サハラ≫に入ったところで、汐里が女王蜘蛛を召喚。
「さっ、女王蜘蛛さん。おじさんのいるはずの最下層目指して、がんばろ~」
とたん女王蜘蛛が毒状態のように顔色を悪くした。
「あの怪物──ではなく、マスターのご友人がいらっしゃるので?」
「そのはずだけど。何か問題、女王蜘蛛さん?」
「ま、ままま、まさか、滅相もございませんっ!」
不憫だ、と思うアーダだった。
その後、≪サハラ≫攻略は順調に進んだ。
すでにフロアボスは師匠が倒したようで、残っていたのは雑魚モンスターのみ。
たとえS級ダンジョンだろうとも、雑魚モンスターなどは女王蜘蛛の敵ではない。
だが第70階層で快進撃がひとまず止まる。
前方から4人の冒険者が逃げてきたのだ。その4人は、女王蜘蛛を見て、さらにビビる。
「ひぃっ! これは【炎骸の三連星】1柱である女王蜘蛛! なぜここに? 死んだぁぁぁ!」
汐里が安心させる。
「心配しないで。女王蜘蛛さんは仲間だから。わたしがテイムしたんだよ~」
「なっ、女王蜘蛛をテイムしただと? 一体、あんたは何者なんだ?」
「そんなことより、何かから逃げて来たようだけど?」
ハッとして、その冒険者たちは話し出した。
「そ、そうなんだ。この先にアレがいるんだ──まさか、こんなところにいるとは思わなかったが──血に飢えた繃帯帝が!」
「誰、それ?」
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