4,フロアボスのご登場。
「別に身を挺して助けたわけじゃ──まぁ、いいか。とりあえず、次の≪転送ポイント≫まで連れていってやろう」
そのときハッとした。
いっそのこと、オレも≪転送ポイント≫で≪樹海ダンジョン≫を出てしまうか。そうすればカンスト・ステータスともおさらばだ。それからどっかのA級ダンジョンにでも行こう。
〔タケト様。『全ダンジョン来館1億人目』の特典として、≪転送ポイント≫から外に出てもカンスト・ステータスは維持されるようになっていまーす。やったね!〕
「……」
まてよ、つまりこういうことか。
外の世界に戻って線路に飛び込んでも、電車だけ吹っ飛んでオレは無傷ってことか。
「死にようがなくなったじゃねぇか!」
〔寿命が尽きれば死ねますとも!〕
……やはり、このS級ダンジョンで死ぬしかない。ここにしか可能性は残されていない。
大丈夫だ。第11階層なんてまだ序の口。
フロアボスだってまだ遭遇してないし、何よりラスボスがいてくれる。S級ダンジョンのラスボスだぞ。核兵器なみの破壊力を持った魔法も使えるに違いない。
「オレは希望を捨てん!」
〔自殺志望者のセリフとは思えませんね~〕
「うるせぇ!」
「ねぇ、おじさん。誰と会話しているの?」
と、女子高生が不審そうに聞いてくる。
「はぁ?」
脳内の声と実際の声の違いがないので、一瞬なにが何やら分からなかった。
そうか。この女子高生には、イチゴの声は聞こえないんだよな。
にしても、『おじさん』って失礼じゃないか。オレはまだおじさんという年齢では──まぁJKから見たら、立派なおじさんか。
そもそも『JK』とか言っている時点で、なんかおっさんな気がしてきた。
「いや別に──まてよ。君は脳内に案内係が出てきてないのか?」
「案内係?」
〔はいはーい、タケト様。イチゴが説明いたしましょう。ミジンコ並みのザコには、わざわざ案内係はつきません。あとわたしとの会話は、タケト様も脳内で行えますよ。わざわざ声に出さずとも〕
〔それを早く言え。変人と思われただろ〕
〔しかしタケト様は、死なれる予定ですよねぇ。なら今更、どこのJKに変人扱いされても構わないのではないですか?〕
確かに。
イチゴのようなバグ案内係に矛盾をつかれると癪だな。
とりあえず女子高生を送ってやることになったので、互いに名乗った。彼女の名は本元汐里。
「じゃ、行くぞ汐里」
「あ、まってよ、おじさん!」
汐里がオレの右腕にしなだれかかってくる。
すると、発育充分な胸が押し付けられてきたわけだ。
で、オレは思う。
女子高生ごときがぁ、色仕掛けのつもりかぁ、万死に値するぜぇと。
いかん、いかん。汐里は単に怖いから、オレにしがみ付いてきただけだろう。
それに全ての女子高生に敵意を抱くのは間違いだぞ。
確かに、オレに痴漢冤罪で嵌めてきたクソ女は女子高生だったが。だからといって女子高生の存在が絶対悪というわけではない、たぶん。
「おじさん! トゲトゲの化け物が降ってきたんだけど!」
トゲトゲの化け物とは、棘球というモンスター。
棘というがサイズは槍の穂先くらいある。貫通力は高く、並みの防御力では防げない。しかも猛毒効果もあるのだ。
ちなみにオレがモンスターにやたら詳しいのは、《モンスター解析》というスキルが自動発動しているから。
「はいはい。どうせアレだろ。オレにぶつかったら自滅するパターンだろ」
棘球が自転しながら、オレにタックルしてきた。とたん全ての棘がへし折れ、球本体も吹っ飛んでいく。
「くっ、やっぱり駄目だったか! 『余裕ぶっこいていたらやられちまった』パターンを狙ったのに!」
第12階層へ降りる。
ここの≪転送ポイント≫で汐里を地上に戻すとしよう。考えてみると、この女子高生がくっ付いていている限り、まともに自殺特攻もできん。
〔あっ! タケト様に嬉しいお知らせで~す!〕
〔なんだイチゴ。お前、オレの頭から消えるのか〕
〔違いますよ~。ついについに第12階層にはいるのですよ、アレが〕
〔アレ?〕
〔フロアボスですよ~〕
フロアボスか! 『フロア』と言いながら全階層にはいない、半分詐欺みたいなボスか。
とにかくボスだ。雑魚モンスターとはモノが違うだろう。
「汐里。残念だが、お前のことを≪転送ポイント≫までは送り届けられないかもしれない」
「え、どうしたの、おじさん?」
「実はな、この階層にはフロアボスという桁違いの敵がいるんだ。そいつと戦うことになったら、オレも無事では済まないだろう。いいか汐里。オレが時間を稼ぐ。その間に、お前だけでも逃げるんだ」
オレがフロアボスに殺される前に、コイツを厄介払いしとかないとな。
すると汐里はうっとりした眼差しで、オレを見てきた。頬まで赤らめている。
「おじさん。そこまで、わたしのことを思って……」
「あ?」
そのとき、久しぶりに雑魚モンスター闇僧侶が現れた。変わったところといえば、頭巾の色が違うことくらいか。
雷撃を放ってきたが邪魔くさい。ので蹴とばして殺した。
さぁ、フロアボスよ出てこい!
そしてオレを殺してくれぇぇ!
〔タケト様~、いま瞬殺したのがフロアボスの闇僧侶ボス・バージョンでーす〕
……………え?
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