32,ホウジョウタケト、寝だす。
──主人公視点──
とたん頭が砕けた──かのような激痛が走った。
「あー、畜生。頭痛が痛い」
〔それ重複表現で~す〕
〔ちょっと黙ってろ。マジで頭が割れそうだ〕
〔存在しないスキルを気合いで使ったので、さすがに副作用が出ましたね。……『存在しないスキルを気合いで使った』とか、自分で言っていて意味不明ですが。なんですか気合いって〕
〔この頭痛──最悪の二日酔いよりひどいな。めったに瞬間移動はしないほうが良さそうだ〕
〔さすがに常識を無視したタケト様でも、存在しないスキルの多用は体に毒ですよ〕
頭痛が痛いの中で、周囲を見回す。無駄にたくさんのモンスターどもがいるな。しかしハムナーはどこだ?
おお、あそこか。小塔の上で、電話なんかしながらふんぞり返っていやがる。
「いま行くぞ──いや、ちょっと休む」
襲撃してくるモンスターどもを適当に蹴とばしながら、オレは休めそうな場所を探した。
どこか横たわれるところはないのか。ベッドくらい用意しておけよ。
マジでこの二日酔い、じゃなくて瞬間移動酔いは最悪だ。
仕方ないので《アイテム創造》で、最高のソファベッドを作った。
ごろんと寝転がる。
おー、これは気持ちいい。少しだけ頭痛が和らいできた。
〔イチゴ~〕
〔はい?〕
〔5分経ったら起こせ〕
〔え、寝ちゃうんですか? あ、待ってくださいタケト様。わたしの意識はタケト様のとリンクしているので、タケト様が寝ちゃったら、わたしも強制的にスリープモードに──〕
★★★
──ハムナー視点──
ハムナーは固唾を飲んだ。
一体なにが起きたのか?
先ほど手下のモンスターたちに、ホウジョウへの一斉攻撃を命じた。
だが全く歯が立たない。テキトーに蹴られるだけで、モンスターたちが殺されていく。
これはもうダメだ。ハムナーは計画失敗を覚悟した。
ところがホウジョウが、予想外の行動に出たのだ。
ソファベッドを作り出し、そこで眠りだした。
まさしく爆睡だ。
側近がテンション高めで言う。
「ハムナー様! チャンスです! 今がチャンスですよ! 寝ているホウジョウを攻撃──」
「うるせぇ」
側近の頭を捥いだ。
それから別の側近に命じる。声を潜めて。
「おい、全モンスターに伝えろ。これからは静かに行動しろと。何があってもホウジョウタケトを刺激するなよ。いいか。俺様たちの人類攻撃計画は、ホウジョウが〈大地叩き〉起動まで寝ていてくれるかどうか。その一点にかかってるんだ」
側近も声を潜めて、
「承知しました」
「『寝た無双冒険者は起こすな』作戦だ。しわぶき一つするんじゃねぇ殺すぞ」
こうして──
≪サハラ・ダンジョン≫最下層は、これまでにない静寂に満たされたのだった。
否、ホウジョウタケトのいびきだけが響いている。
〈大地叩き〉完全起動まで、残り472分。
★★★
──アーダ視点──
何とか、モロッコのメルズーガという村まで到着した。
それにしても大変な旅だったが、これからまだ≪サハラ・ダンジョン≫に潜らなければならない。
「しかし汐里。貴様はなぜそこまでして、師匠を追うのだ?」
すると汐里は、なぜか照れだす。
「それは──やっぱり追いかけたくなる、女の子としての気持ちがあって」
「さては貴様、ストーカーか」
「え、さすがに失礼じゃないかなっ!」
情報収集に行っていたソフィアが戻ってくる。
「ダンジョン調査機関からの通知を切っている間に、世界は大変なことになっていたみたい」
アーダは思った。
「この女はこの女で、通知を切っているとかどんなバカだ」
汐里がアーダの脇腹をつつく。
「アーダさん、心の声がだだ漏れだよ」
「ストレスのせいだな。いつになったら私は師匠に会えるのだ?」
「それでソフィアさん。どうして≪サハラ・ダンジョン≫に、こんなに冒険者たちが集まっているか分かったの?」
「ええ。≪サハラ・ダンジョン≫ラスボスのハムナーによる、人類攻撃計画があるようなのよ」
「ハムナー。あの間抜けが」
アーダの呟きを、汐里が耳ざとく聞いた。
「あれ? アーダさんはハムナーと知り合い?」
「貴様に話すようなことではない。それでソフィア。我々は≪サハラ≫に入れそうなのか? 現場は、ダンジョン調査機関が指揮っているようだが」
「あたし、これでもSランク冒険者にして、A級ダンジョン完全攻略者よ。ダンジョン入場番号をゲットしてきたわ!」
と、得意げなソフィアだ。
だがアーダは、今回ばかりは感心してやる。
「ほう。見直したぞ、ソフィア。それで正確には、いつ入れるのだ?」
ソフィアが手元の紙を見て、
「えーとね。あたしが受け取ったのが、入場番号123。でね、いま≪サハラ≫に潜っているパーティが、41番」
「……貴様、本当に使えないな」
「えぇ、ひどいわ!」
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