31,ハムナーは世界に向かって叫んだ。
──ハムナー視点──
さらにハムナーを慌てさせる事態が起きた。
スマホに着信。ドロシーさんからだ。
「げっ。こんなときに──」
しかし、電話に出ないわけにもいかない。
「あー、もしもし」
「ごきげんよう、ハムナーさん」
「あー、ごきげんよう」
「計画のほうは万事順調でしょうか? 何ら問題はございませんね?」
「えー、もちろんですぜドロシーさん。こっちはもうバッチリなんで」
「本当ですか? 問題がないと信じてもよろしいのですか? たとえば冒険者が無双して迫ってきているとか、そのようなことはございませんね?」
ハムナーは内心で舌打ちした。当然、ドロシーさんならば全て承知した上で電話してきたわけだ。とぼけて損した。
「まぁ、ちょっと問題はありますが、すぐに処理しますんで」
「お教えしましょうか?」
「はぁ。何をですかい?」
「その冒険者──ホウジョウ・タケトの止め方ですよ」
ホウジョウ・タケト。
名前まで知っているとは。ならば止め方も本当に知っているのだろう。
だがハムナーにも、【五魔王族】としてのプライドというものがある。
「こちらで処理すると言ったでしょう」
「お気を悪くしないで欲しいのですが──それは不可能ですよ。ホウジョウはステータス∞の化け物。わたくしと同じです。ただし彼は『1億人目』、わたくしは『1人目』という違いはありますが」
ハムナーは訝った。何の話なのかさっぱり分からない。
「ハムナーさん。助言は受け入れるべきですよ。それに何も難しいことをさせようというわけではありません。というより、この方法をいままで誰も使わなかったのが不思議なくらいでして」
「はぁ。で、どうしろというんです?」
「ホウジョウはいま、第68階層にいますね」
ドロシーさんはこちらの事情を知りすぎている。となるとスパイを疑わざるをえないが。
「ええまぁ」
「ですので。第69階層に入るところに、ですね──」
★★★
──主人公視点──
第69階層への入り口に飛び込んだとたん、青い光に包まれた。
イチゴが脳内で毒づく。
〔あぁぁぁ! 最大のダンジョン・ルールを破りやがりましたねぇぇぇぇ!〕
瞬間、オレは別のダンジョン内にいた。
なかなか興味深いものだ。こうして転送されてみると、無味乾燥なダンジョンにもそれぞれ違いがあることがよく分かる。
〔オレを別ダンジョンに転送しやがったのか〕
つまり第69階層へと入るところに、転送ポイントを設置されていたわけだ。もちろん普段はそんなところに転送ポイントがあるはずはない。オレを追い出すため、急遽用意したものだろう。
〔ダンジョン・ルールに違反しますよ。冒険者を強制的に転送するとか〕
〔しかし、唯一の有効な策ではあったかもな。実際、してやられたわけだし。ハムナーもやるな〕
〔う~ん。何となくですが、誰かがハムナーに入れ知恵したような気がしますねぇ〕
〔しかし、地上に転送するかわりに別ダンジョンに行かせたのは、どういうわけだ?〕
〔そこが抜かりないところですね。地上に転送しただけだったら、タケト様の《飛翔:極超音速モード》で、すぐにサハラ砂漠まで戻ってこれますからね〕
〔まぁ、やろうと思えばな〕
〔しかし別ダンジョンに移してしまえば、そこから出るまでの作業が入りますからね。より≪サハラ≫に戻るのに時間がかかるというわけです〕
〔ここのダンジョンの転送ポイントを使えば、すぐ地上だろ〕
〔転送ポイントはラスボス権限で閉じることができますからねぇ〕
〔じゃラスボスを殺すか。そうすれば完全攻略用の転送ポイントが自動で出てくる。だろ?〕
〔はい……あっ! まずいですよ、タケト様! ここ≪万里の長城ダンジョン≫です。たぶん第5000階層付近ですね〕
〔なに5000? 桁が違うんじゃないか?〕
〔いえ。≪万里の長城ダンジョン≫は最長ダンジョンでして。全9999階層ものなんですよ。で、タケト様はその中間に転送されてしまったわけでして。地上へ戻るにも最下層目指すにも、とんでもない時間がかかりますね、これ〕
ということは、マジでまんまとハムナーにしてやられたということなのか。
だんだん腹が立ってきた。
〔……なんでオレのスキルリストの中に、転送系がないんだ?〕
〔冒険者には瞬間移動のスキルは与えられていませんよ。さすがにチートすぎるでしょ? ね?〕
〔ほ~う〕
★★★
──ハムナー視点──
≪サハラ・ダンジョン≫最下層はお祭り騒ぎだった。
ホウジョウ・タケトという化け物を追い払えたので、〈大地叩き〉を邪魔する者はいなくなったのだ。
ハムナーはまだドロシーさんと通話中だった。
知恵を授けてくれたドロシーさんに確認する。
「ドロシーさん。本当にホウジョウには、瞬間移動系のスキルはねぇんですね?」
「ございません。それは冒険者には会得できぬスキルですので」
「じゃあ安心だっ!」
「ええ。ですが想定外の事態が起こるとしたら──」
瞬間。
最下層の中央で、青い光が激しく輝いた。
その輝きから、男が一人転がり出てくる。
どうも瞬間移動してきたらしい──が。
ハムナーの側近が叫んだ。
「ホ、ホウジョウタケトだぁぁぁぁ!」
驚愕するハムナーの耳元で、通話中のドロシーさんが言う。
「ホウジョウが気合いで瞬間移動してくる可能性はございます」
ハムナーは世界に向かって叫んだ。
「気合いってなんだぁぁぁぁぁぁ!」
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