28,「タケト様の『ブッ殺~す』が、結果的に世界を救っちゃうパターンでは?」。
テキトーに村内を歩いていたら、酒場から男が転がり出てきた。
どうやら、店内から放り出されたようだ。
何となく男を蹴とばしてから、あっ悪いことしたなぁ、と思う。
「すまない。『とりあえず蹴とばす』癖がついていたものだから」
〔なんて悪質な癖ですかねぇ~〕
蹴とばしてしまった男は、20代の白人だった。
どこの言語を使うのか分からないので、《通訳》は自動モードで。
「い、いえ。あなたに蹴られる場所に転がった、この私が悪いんです。本当に申し訳ありませんでしたっ!」
と、なぜか土下座されてしまった。新手の嫌がらせかな。
「にしても土下座を知っているとは、さては日本にいたな?」
「あ、はい。学生のころ、3年ほど留学していました。私はアリケといいます。ルーカ代表の冒険者をしています」
ルーカというのは初めて聞く国名だが、東欧の小国らしい。
アリケのステータスを確認してみたが、よくてCランク。
こんな数値でも、ルーカ代表パーティのリーダーだとか。ルーカは国内にダンジョンがないため、冒険者育成の後進国らしい。
「酒場で何があったんだ?」
「はい。実は―─」
アリケの話によると、こういうことだった。
アリケが酒場に入ったところ、すでに飲んでいたロシア代表の冒険者たちに因縁をつけられ、ボコられてしまったと。
その連中は〈悪霊隊〉といって、冒険者業界では有名なSランクパーティ。A級≪モスクワ・ダンジョン≫の完全攻略者でもあるそうだ。
「モスクワかぁ」
〔あれ、イチゴ。オレさ、モスクワに何か恨みでもあったかな? なぜか無性に腹が立ってきたんだが〕
〔ロシアン・マフィア〈冬宮殿〉にダイヤを奪われたままですよ。連中の拠点がモスクワですね〕
〔あ、そうだった〕
オレはアリケの肩を叩き、うなずいた。
「待ってろ。お前の仇を取ってきてやる」
店内に入ったオレは、ロシア代表パーティ〈悪霊隊〉を見つけて歩み寄る。
〈悪霊隊〉の髭もじゃの男が、オレに気づいて、
「あぁ? なんだてめぇブガァァ!」
挨拶がわりにぶん殴ると、髭もじゃは壁にめり込んだ。
「お前らぁぁ! オレの心の友であるアヘケをボコって、ただで済むと思ったかぁぁぁ!」
〔タケト様。アヘケではなくアリケです〕
「オレの心の友の名前を間違えるんじゃなぁぁい!」
〈悪霊隊〉の2人目を蹴っ飛ばす。窓を突き破って、外に転がっていった。
ほかの〈悪霊隊〉たちが叫ぶ。
「な、なんだこの理不尽野郎はぁぁぁ!」
「モスクワぁ、オレのダイヤを返せぇぇぇぇ!」
「「「「ぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ………!」」」」
〈悪霊隊〉を全治三ヵ月程度にボコり終えたところで、オレは全員に向かって言った。
「まぁ、お前たちに罪はないんだ。〈冬宮殿〉のような犯罪組織とは関わりないのだからな。お前たちは勇敢な冒険者だ! 尊敬しているぜ!」
カウンターに頭がめり込んでいた〈悪霊隊〉リーダーが、弱々しく言う。
「ふ、ふ、不条、理すぎ、る───」
ガクッと気絶する。
店を出たオレは、心の友アリケに言った。
「アリケ君。お前のパーティ、ちょっと借りるよ。なに≪サハラ・ダンジョン≫に潜るまでだからさ」
「……え? あの、それはどうかと──」
アリケの視線が店内へと向けられる。そこにはボコボコにされた〈悪霊隊〉の連中が転がっていた。震え上がるアリケ君。
「そ、そそそ、そうですね。あの、じゃ、ぼ、僕のパーティ、お、お預けします……」
「快諾してくれて嬉しいよ。ところで質問なんだが。なんでいま、こんなに≪サハラ・ダンジョン≫が盛り上がっているんだ?」
アリケが深刻そうに答える。
「それは──世界の危機だからです」
「そうか、世界の危機か。それは阻止しないとだよなぁ」
とりあえず重々しく言っておく。
すると脳内でイチゴが、
〔タケト様、本音は?〕
〔世界が滅びようと知ったことか。というか、少し滅んだほうがいいぞ。だがなハムナーだけは、ブッ殺~す〕
〔ですよねぇ~。あれ、これって……タケト様の『ブッ殺~す』が、結果的に世界を救っちゃうパターンでは?〕
ハムナーめ。オレを『痴漢』呼ばわりしたこと後悔させてやる。
まってろよ。
★★★
──ハムナー視点──
≪サハラ・ダンジョン≫最下層。
そこには巨大な魔導アイテムが鎮座していた。
まるで城砦のようなそれは、3つある【埋もれた兵器】の一つ。
【埋もれた兵器】だけが、ダンジョンから人間世界を攻撃することができるのだ。
そして≪サハラ・ダンジョン≫が手に入れた【埋もれた兵器】の名は、〈大地叩き〉。
〈大地叩き〉は、世界規模による大地震を引き起こす兵器だ。
この〈大地叩き〉の隣には、小塔がある。
その頂上に立つのが、【五魔王族】が1柱ハムナー。
ハムナーの眼下には、最下層に集まった3万体近くのモンスターたちがいる。
「よーし、てめぇら! ついに時は来たぜぇ! 今こそ人類どもに宣戦布告するときだぁ! 〈大地叩き〉を完全起動し、人類の世界に未曾有の大災害を引き起こす!
そうして人類を混沌の渦に叩き込んでから、いよいよ俺様たちの進軍の時間だぁぁ! 人類どもに思い知らせてやるぜぇぇ! 世界の覇権を握るのが、モンスターであるってことをよぉぉ!」
モンスター大軍が呼応して雄たけびを上げる。
「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」」……………
まるでダンジョン全体を揺するがごとくだ。
ハムナーは感動しながらも、残念にも思っていた。
(俺様のこの雄姿を、アーダさんにも見せたかったぜ)
いまも≪軍艦島ダンジョン≫にいるであろうアーダに思いを馳せる。
何はともあれ、大いに盛り上がる≪サハラ・ダンジョン≫最下層。
〈大地叩き〉完全起動による大地震まで、あと542分。
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