26,北条尊人は激怒した!!
ふと髑髏の残骸の中に、スマホを見つけた。
〔モンスターもスマホを使うんだな。アップル製品か?〕
〔いえ、ダンジョン製品です〕
とくに興味もなかったが、ダンジョン製品のスマホとやらをいじる。
〔ほう。コイツら、グループLINEまでしているのか。どれどれ。殺した冒険者のことでも報告しあっているのかね?〕
読んでみると──
❝髑髏次男:これから兄者が、憎き北条尊人を惨殺するのだ。
ストリア:北条というのは、何者だね? Gランクだという話だが?
ハムナー:まてまて。俺様の情報網によると、その日本人は痴漢で現行犯逮捕されたそうだぜ。
髑髏五男:痴漢とか、人間のクズじゃないっすか~!!
ストリア:自分の欲望もコントロールできぬ変態の冒険者か。恐れるに足りぬな。❞
スマホを握りつぶした。
〔……おいイチゴぉ。このストリアとハムナーって奴らは、何者だぁ?〕
〔【五魔王族】の2柱ですよ。ストリアは≪マンハッタン・ダンジョン≫の、ハムナーが≪サハラ・ダンジョン≫のラスボスです。
あ、ハムナーはアーダさんの許嫁でもありましたね。LINEの様子だと、アーダさんがタケト様の弟子になったこと、まだ知らないんじゃないですか~?〕
〔コイツら、オレを『痴漢・変態』呼ばわりしておいて、タダで済むと思っているんじゃないだろうなぁ〕
髑髏どもはすでに葬ったが──ハムナー、そしてストリア。口は災いのもとだと教えてやらなきゃならないようだ。
〔おおっ! タケト様が、タケト様が激怒しています! これはハムナーとストリア、知らぬ間に地獄を招待してしまいましたねぇ~〕
そういや、これで【五魔王族】が出そろったのか。
≪樹海ダンジョン≫のドルゾン→殺した。
≪ドレスデン・ダンジョン≫の髑髏皇帝→殺した。
≪サハラ・ダンジョン≫のハムナー→殺すの確定。
≪マンハッタン・ダンジョン≫のストリア→殺すの確定。
≪万里の長城ダンジョン≫のまだ名前を聞いていない奴→興味なし。
さて。
今回は『ラスボスの間』に行き、完全攻略用の転送ポイントで地上に出た。ツヴィンガー宮殿の庭園前だ。
〔まずはサハラ砂漠に行くぞ。何が『俺様の情報網によると』だ。フェイクニュースを垂れ流しやがって。情報網ごと滅ぼしてくれる〕
〔いいですね♪ いいですね♪ やっちまいましょう~♪〕
オレは≪ドレスデン・ダンジョン≫を後にした。もうここに用はなし。
★★★
そのころ。
──アーダ視点──
「アーダさん! いったん引きなさい──《火極弾》!」
アーダ、汐里、ソフィアは≪ドレスデン・ダンジョン≫の第5階層にいた。
第4階層までは何とか乗り越えたのだが──
第5階層に出現したフロアボス、破壊獣。このモンスターに大苦戦していたのだ。
とにかく防御力が高く、いくら攻撃しても与えられるダメージは微々たるもの。
しかも攻撃力も高いので、一撃でも食らえばダメージ大。このパーティにはヒーラーがいないので、ここでの負傷は命取り。
ソフィアの《火極弾》による巨大火弾が、破壊獣に命中。だがとくにダメージを与えた様子はない。
アーダはこの隙に、破壊獣から間合いを取る。
「くっ。この強さで、フロアボスだと? A級ダンジョン・ラスボスの中流なみに手ごわいぞ」
後ろにいる汐里が言う。
「アーダさん、《軍艦島ダンジョン》のフロアボスだったじゃん。もっと頑張ってよっ!」
「足手まといは黙っていろ!」
アーダにとって、破壊獣は相性が悪い。
アーダの強みは敏捷性の高さにあり、攻撃力重視ではない。よって破壊獣の装甲皮を破壊できないのだ。
汐里がソフィアへ水を向ける。
「Sランクのソフィアさんは、A級ダンジョン完全攻略者だよね。この破壊獣なんか楽勝でしょ?」
ソフィアの目がやたらと泳ぐ。
「え? そ、そうね、もちろんよ」
アーダは気づいた。
さてはソフィアが倒したという【七獏族】は、A級ラスボスの中では最底辺だったようだ。
そもそも新興の【七獏族】など、古くからいる【四戮族】の足元にも及ばない。これがアーダの認識。
ここで汐里が、『仕方ないなぁ』という感じで溜息をつく。
「ここはわたしが助けてあげるよ、アーダさん」
「なんだと? 寝言は死んでから言え」
ソフィアも同意する。
「そうよ、本元さん。Eランクのあなたじゃ、瞬殺されるのが落ちよ」
「2人とも忘れちゃったのかなぁ? わたしが『彼女』をテイムしたことを」
汐里が取り出したのは、1枚のカード。
女王蜘蛛のカードだ。
第1階層で張り付けにされていたのを、汐里が《封印遊戯》でカード化した。
「やめておけ、汐里。確かにカード化することはできた。だからといって、テイムしたモンスターを完全に操れるわけではない。貴様のレベルじゃ、自由にした瞬間に殺されてお終いだ」
「分かってないなぁ。わたしの強みを」
汐里がカードを提示し、宣言する。
「『我が僕となりしモンスターよ! ここに顕現せよ!』」
カードから光が放たれ、女王蜘蛛が現れる。
カード化のさい、張り付けにされていた傷は回復してあった。
しかし、なぜか引きちぎられた一本の脚は戻っていない。その傷に、トラウマでもあるのだろうか?
女王蜘蛛の殺意の眼差しが、汐里へと向けられる。
「この小娘が。そなたごときが、わらわを僕にできると思ったか」
アーダは絶望した。
破壊獣だけではなく、女王蜘蛛とまで戦わねばならないとは。全滅は決定的だ。
ソフィアも同じ結論らしく、すでに死を覚悟した顔。
しかし汐里だけは余裕の笑み。
「いいのかなぁ、女王蜘蛛さん? わたし、おじさんの友達なのに?」
「おじさん、だと?」
「そうだよ。女王蜘蛛さんを張り付けにしていった人」
とたん女王蜘蛛が顔面蒼白になった。人間の部分も蜘蛛の部分も、気の毒なくらい震え出す。
「あ、あの怪物の、ととととととと、と、友達、だと……?」
「そうだよ~。おじさんに言っちゃおうかなぁ。女王蜘蛛さんが意地悪したって。おじさん、わたしには優しいからなぁ~。きっとおじさん、カンカンになるね」
「ま、まて小娘、ではなく、あの、そのマスター! マスターよ、わらわに何なりとお命じを!」
「え、いいの? なんか悪いかも。でもせっかくだから、そこのフロアボスを倒してくれる?」
女王蜘蛛が、破壊獣を睨みつける。
「マスターの道を塞ぐとは、許せん! 《切裂脚》!」
女王蜘蛛が蜘蛛の脚を一閃。
あっけなく、破壊獣が真っ二つとなる。あまりにレベルが違いすぎだ。
「凄い、凄い! さすが女王蜘蛛さん!」
「マスター、あの怪物──ではなく、マスターのご友人には、わらわの働きをちゃんと伝えてくだされ」
アーダは唖然として呟いた。
「女王蜘蛛──【炎骸の三連星】1柱の力がここまでとは……かつての主である鬼の王よりも上かもしれない。
そして、そんな女王蜘蛛を死ぬほど怯えさせるとは、さすが師匠だ」
汐里がアーダの視線をとらえ、ウインクした。
「お礼はいいよ、アーダさん」
「……」
アーダは思った。
凄まじく納得がいかない、と。
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