25,髑髏兄弟の阿鼻叫喚。
──髑髏15兄弟の視点──
髑髏家は子沢山で、なんと16体もの兄弟がいる。
否、いた。
兄弟の1体である髑髏伯爵が、≪小金沢山ダンジョン≫で北条尊人に殺されたので。
いまや15体となった兄弟の長兄が、髑髏皇帝である。
そして髑髏伯爵は末っ子だった。末っ子ゆえ、兄たちに可愛がられていたのだ。
というわけで、髑髏15兄弟はいま怒りに燃えていた。
「北条尊人、許すまじ!」
「冒険者ごときが、我ら髑髏兄弟に手を出すとは!」
「北条尊人の皮を生きたまま剥ぐのは当然として、一族郎党も皆殺しだ!」
「人類だ! 人類を絶滅させろ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ! 全面戦争だぁぁぁ!」
ここで髑髏皇帝が片手を軽く上げる。
とたん弟たちが黙った。長兄の威厳である。
「バカ者どもが。人類との全面戦争だと? 『カンザスのあの女』のような戯言をほざきおって」
髑髏次男が食いついてきた。
「兄者は反対なのですか? 我々も、≪カンザス・ダンジョン≫のドロシーさんに共鳴するべきでは? ダンジョンという軛から解き放たれ、人類を駆逐しましょうぞ!」
とたん髑髏皇帝を抜かした兄弟同士で、喧々囂々やりだす。
「バカげたことを。我々がダンジョンから出られるものか」
「日本で、鬼の王が地上に出たという話だぞ」
「事実だとしても、あれは突然変異だろうが」
「兄上は遅れてるなぁ~。今じゃ鬼の王に力を貸したのがドロシーさんなのは、誰もが知っていることですぜ」
「≪サハラ・ダンジョン≫ラスボスのハムナーも、ドロシーさんと同盟を結んでいるしなぁ」
「≪万里の長城ダンジョン≫ラスボスの死滅卿はどうしている? ほれ、名前が仰々しいアイツは」
「ダンジョンができた時から同じ。いまだに引きこもっている」
「ダンジョンの中で引きこもるとは、どーいう芸当だ?」
「なら、≪樹海ダンジョン≫のドルゾンはどうなのだ? まだ音信不通なのか? 誰かLINE送ったか?」
「未読スルーされてまーす」
「マジかよ。もうドルゾン、ハブろうぜ」
「案外、とっくに殺されていたりして──」
我慢の限界を迎えた髑髏皇帝が怒鳴る。
「黙らんかぁぁ! 今は北条尊人に復讐することだけを考えるのだ!」
「そ、そうだ! 北条尊人だ!」
「殺せ、殺せ! 北条尊人を殺せ!」
「生まれてきたことを後悔させてやれ!」
髑髏皇帝が手を上げて黙らせる。
「余はこれより『ラスボスの間』に行く。北条尊人がもうじき到着するであろう。そして愚かなる冒険者に教えてやるのだ。この髑髏皇帝の、【五魔王族】が1柱の恐ろしさを。
お前たちはこの『控えの間』から、余の苛烈なる報復を観賞しているがよい」
そして颯爽と『控えの間』を去る髑髏皇帝。
それを見届けた髑髏弟たちが興奮した様子で話しあう。
「さすが兄者だ。カッコいいなぁ」
「【五魔王族】№1は、絶対に兄者だよな?」
「当然だ。世界最強は我らの兄者に決まっている」
「見ろ、兄者が準備万端だ」
『控えの間』にあるモニターで、『ラスボスの間』を見ることができる。
いま『ラスボスの間』に入った髑髏皇帝が、玉座に腰かけたところだ。
『ラスボスの間』へは一本道。北条尊人が到着するのももうすぐ。
そのときこそが、北条尊人の最期となるのだ!
「すぐに兄者の殺人ショーが始まるぜ。獲物は、憎き北条尊人だ」
「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」」
突然、『控えの間』の壁が吹っ飛んだ。
壁にできた穴から、一人の人間が入ってくる。
まさしく北条尊人が。
「なんだ、なんだ? ショートカットしてみたら、髑髏が14体もいるじゃないか。一体、どれが髑髏皇帝なんだ?」
「「「「「お、お前はぁぁ──っ!」」」」」
「まぁいいか。14体もいるんだから、どれか一つが当たりだろ。じゃ、フルボッコ・コースいきま~す」
それから75秒間、阿鼻叫喚。
★★★
『ラスボスの間』にて──
髑髏皇帝が玉座から立ち上がる。
「遅い! 遅いぞ、北条尊人! 一体いつまで待たせるつもりだ! まさか怖気づいたのではあるまいな!?」
いったん『控えの間』に戻ることにした。
そして、見てしまった。
バラバラにされた髑髏たちの残骸を──!
すなわち弟たちの死屍累々を。
ちなみに、よそのダンジョンからの招待客であるため、弟たちの死体は消えていない。
「おぉぉぉぉぉ! 弟たちよぉぉぉぉぉ! 余ではなく弟たちを狙うとはぁぁ、なんと卑劣なぁぁぁ! 許さん許さんぞぉぉぉ! 北条尊人ぉぉぉぉぉ!」
怒りに燃える髑髏皇帝。
ところが、あるものに気づいた。
財布が落ちている。
「なんだ、これは? ぐぁぁぁあああぁぁぁぁ!」
財布に触ったとたん、全身に激痛が走った。そして体を構成する髑髏パーツが、どんどん砕けていく。
「な、なんだとぉぉぉぉ! 北条尊人ぉぉ、落とした財布にトラップを仕込むとはぁぁあ! 貴様ぁぁ、どれだけ邪悪なのだぁぁぁあ! ぬぁぁぁぁぁぁ!………」
完全に砕け散り、バラバラとなった髑髏皇帝。
これが髑髏皇帝の最期であり、髑髏兄弟の終焉だった。
★★★
5分後。
──主人公視点──
オレは最深部に引き返していた。
恥ずかしながら、財布を落としてしまったのだ。
「あった、あった。盗まれてないようで何より。念のため、『邪悪な心を持つ者が触れたら呪い死にする』スキルをかけておいたんだ。落ちている財布をパクろうという外道は、ただでは済まさんぜ」
〔さすがタケト様、まさしく外道な発想に痺れます!〕
ふと気づく。財布の近くに転がっている髑髏の死体。さっきもあったか?
〔どうかされました?〕
〔いや、髑髏の死体が増えているような──ま、どーでもいいか〕
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