23,女王蜘蛛が必死です。「よ、よせ、近づくな。この怪物がぁぁあ」。
第1階層の庭園ダンジョンを、散歩気分で進む。
夜空を背景にして、ドラゴンを見つけた。汐里ならインスタ映えしそう、とか言いそうだな。
ちなみにドラゴンは死に物狂いで逃げていった。そういや、オレは〈ドラゴン・キラー〉の称号を授かっていたっけ。
第2階層への入り口を発見。
だがその上には、巨大な蜘蛛の巣が張ってある。また山脈蜘蛛か?
と思ったが、今回は違うようだ。
蜘蛛の糸で吊り下がって現れたのは、女と蜘蛛の融合体。女の肉体部分は美人かもな。
「よく来たな、北条尊人。わらわは女王蜘蛛。【炎骸の三連星】の1柱じゃ」
「あー、はいはい、【炎骸の三連星】さんね。しかし第1階層から出てくるなんて、もっと出し惜しみしたらどうなんだ?」
「愚か者め。皇帝陛下の宿敵である貴様を始末するため、わらわは自らの意思で地上に出てきたのじゃ」
「ご苦労なことで」
そのときだった。
オレの腹が鳴ったのは。
「あー。Sランク女のせいで、食事を途中で切り上げたからなぁ。腹が減ったままだ。どうするかなぁ。いったん引き返して、飯を食ってくるかな?」
数あるスキルの中には、食事の代用となるものもある。だが、やはりちゃんとした食べ物がいいじゃないか。
〔タケト様、タケト様〕
〔なんだよイチゴ?〕
〔カンボジアでは~〕
〔カンボジアがどうしたって?〕
〔クモを油で揚げた料理が名物らしいですよ~〕
驚愕のあまり、オレはつい女王蜘蛛のほうに尋ねてしまった。
「えっ、蜘蛛ってフライにしたら食えるのか?」
女王蜘蛛も、「えっ」という顔をした。
「な、な、なんじゃと?」
聞き返されたので、今度は丁寧に尋ねる。
「あんたをフライにしたら、オレの夕飯になるのか? というか、美味いの?」
「……そなた、本気ではあるまいな?」
オレは人差し指と親指を近づけて、数ミリの隙間を作った。
「ちょっとだけ? ね、ちょっとだけ味見させて?」
女王蜘蛛の顔色が、明らかに悪くなっていく。
「よ、よせ、近づくな。この怪物がぁぁあ」
「怪物とは失礼な。とりあえず、あんたの蜘蛛部分の脚から試してみよう。昆虫食に目覚めるかもしれん」
「やめろぉぉぉ! 来るなぁぁぁ! 助けてぇぇぇ! 誰かぁぁぁぁ助けてぇぇぇ! 食べられる、食べられてしまぁぁぁうぅぅぅぅぅ!」
逃走に入る女王蜘蛛。
オレから逃げられると思ったか。
甘い、甘い。
《串刺し》を発動。
電柱ほどもある釘が20本、上空に出現。女王蜘蛛を上から突き刺し、地面に張り付けた。
それからオレは脚を1本千切って、《料理》でフライにする。
いただきます。
「くっ、不味い。食えたものじゃない。食えたものじゃないぞ、女王蜘蛛!」
女王蜘蛛はしくしく泣いている。
「お願いじまずぅぅ。わらわを食べないでぐだじゃぃぃぃ。後生でずがらぁぁぁ」
「そこで反省していろ」
女王蜘蛛は張りつけにしたまま、オレは第2階層へと進んだ。
★★★
──アーダ視点──
汐里に持ち運ばれる屈辱に耐え、何とかドレスデンに到着した。
さっそく、≪ドレスデン・ダンジョン≫へと向かう。
「汐里、貴様はついて来るな」
「一緒にいないと、アーダさんはわたしをお守できないよ? あとで、おじさんに叱られちゃうよ?」
「貴様、私を脅すのか。卑怯な……」
「一緒におじさんを追いかけるんでしょ。さ、行こ~」
このとき、アーダのあまり良くない頭が閃いた。
≪ドレスデン・ダンジョン≫で汐里が死ぬ分には、それはもう不可抗力ではないかと。
(汐里を守るため死ぬ気で戦ったが、力及ばず助けられなかった──というノリでいこう!)
アーダの中では、これはもう姦計の極みだった。
「いいだろう、汐里。では行くぞ、≪ドレスデン・ダンジョン≫へ!」
その入口付近で、泡を吹いて気絶中の女を発見した。ツインドリルが見事な女を。
汐里が近づいて、指先で突く。
「あの~大丈夫?」
ツインドリルの女が、「うう……」とうめいて起き上がる。
アーダは、このツインドリルが並みの冒険者ではないことに気づいた。
ツインドリル女が訝しそうに言う。ドイツ語で。
アーダは日本ダンジョン育ちなので、外国語はチンプンカンプンだ。
ツインドリル女はハッとした様子で、通訳系のスキルを使った。
「ごめんなさい。あたしはソフィア。Sランク冒険者よ。あなた達は?」
「わたしは日本から来た冒険者で、本元汐里。こっちはオーガのアーダさん」
「え、待って。いま、オーガって言ったの?」
「細かいことは気にしないで。それより、わたしたち人を捜しているんだけど。ソフィアさん、ここで日本人の男性を見かけなかった?」
「それって北条尊人のことね? あたしがあれほど止めたのに、≪ドレスデン≫に入ってしまったのだわ。早く連れ出さないと、髑髏皇帝に殺されてしまう!」
「うーん、その心配はないと思うよ」
「なに言っているのよ。髑髏皇帝がどれほど恐ろしいことか……。いいわ、あなた達も付いて来て。まだ第1階層にいるあいだに、北条さんを見つけ出し連れ出すのよ。あなた達が説得するの。分かった?」
汐里が肩をすくめる。
「いいよ。おじさんを見つけられるなら」
アーダも異論はなかった。
第1階層の庭園をしばらく進むと、女のすすり泣く声が聞こえてきた。
さらに行くと、張り付けにされたモンスターを見つけた。人間の女と蜘蛛の融合体だ。
驚愕するソフィア。
「ウソでしょ……【炎骸の三連星】1柱である女王蜘蛛が……号泣しているなんて! 何が起きたというの!?」
アーダと汐里の呟きが、ハモった。
「師匠と遭遇したのだな」「おじさんと遭遇したんだね」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




