3,『人間が、無双しながらやって来る』。
「ドラゴンのくせに一撃で死ぬって、どういうことだ!」
〔タケト様のATKが∞のせいですねぇ。ドラゴンに罪はありません〕
「攻撃なんかしてないだろ! ドラゴンの口内に身投げしただけだ!」
〔それがタックル扱いされてしまったのですねぇ~〕
くっ。こんなバカな話があるか。
何のためにダンジョンに来たのか。それが一番ラクな死に方だったからだ。
正直、生きる気力は失ったが、自分で首を吊るのとかキツイ。かといって電車に飛び込んだら、沢山の人に迷惑がかかる。
だがダンジョン内で死ぬ分には、誰にも迷惑はかからない。
そして他力本願でOKだ。ドラゴンに任せておけばいい。だというのに、頼みのドラゴンがザコになってしまった。
「オレは認めんぞ!」
〔認めないも何も、今のタケト様を止められる存在はいませんよ~。さ、ダンジョン攻略を楽しんでくださいねぇ〕
ドラゴンがダメなら、もっと強いモンスターに出会えばいいだけだ。次の階層に行くぞ。
というわけでオレは駆けだした。やたら速い。弾丸なみの速度。
AGIが∞だからか。勘弁してくれ。
「邪魔だ、どけぇぇえ!」
通り道にいるドラゴンとか巨大蜘蛛とか、とにかく強そうなモンスターどもを蹴散らして進む。
ちなみに巨大な蜘蛛は、山脈蜘蛛とかいうらしい。
気づいたら、≪ドラゴン・キラー≫とか≪無双走りのスペシャリスト≫とか、どーでもいい称号をガンガン得ていた。
次の階層への入り口までたどり着く。
第2階層、第3階層、第4階層。
雑魚モンスターが続く。ドラゴン、山脈蜘蛛。
あと、新手の頭巾を被ったヒト型のモンスターも。こいつは魔僧侶というらしい。
魔法で雷を放ってきたが、当たってもチクリともしない。
雑魚に用はないので殴ったら木っ端微塵になった。
第5階層、第6階層、第7階層。
異変が起きる。
モンスターが出現しなくなったんですけど。
「どこへ行きやがった! サボりか!」
〔あ、これはモンスター・ネットワークですね〕
「なんだって?」
〔モンスターもドラゴンクラスになると、少しは知能がありますからね。上位モンスター同士で、思念による会話ができるのですよ。どうやらタケト様の情報が流れてしまったようです。
つまり、『ありえないほど強い人間が無双しながらやって来る』と。それで皆さん、隠れられたのでしょう。モンスターも死にたくないですしね〕
「モンスターのくせに逃げるなんて、どうなってやがる!」
〔私に怒られても困りますよ~。ですがタケト様。ダンジョンは何もモンスターだけではありませんよ。罠があります〕
「そうか。モンスター以外にも死に方があったか」
第10階層で、ようやく罠に行き当たった。
壁一面に噴射口があり、そこから黒い火炎が噴き出す仕組みだ。
これを回避するためには、床の『安全タイル』のみを踏んで進まねばならない。
『安全タイル』は直径5センチほど。少しでも踏み外せば、黒い炎で丸焼けだ。
細心の注意を払って進まねばならないのに、嫌味蝙蝠とかいう中級モンスターの群れが邪魔してくるわけ。
確かに難易度の高いトラップだな。
オレとしては、『安全タイル』とか関係ないが。
「イチゴ。オレとお前の関係もここで終わりだな。オレはわざと『安全タイル』を踏み外し、黒い炎に焼かれて死ぬ。やっと転落人生を終わらせられる」
〔そうですかぁ~。わたしもタケト様とお別れになって寂しいですよ〕
「あばよ」
『安全タイル』を踏み外したとたん、黒い炎が噴射。
渦巻く黒い炎の中、オレは立っていた。
なんだろうか……サウナにいるみたいで気持ちいい。
……
「イチゴ、焼け死なねぇじゃないか!」
〔DEF∞は、伊達じゃないですよねぇ〕
こうなったら、何としてでも死んでやる。
第11階層に降りたところ、いきなり悲鳴が聞こえてきた。
気になったので行ってみたら、少女がワニのようなモンスターに襲われている。
「こんなところに人間がいる。自力でここまで来るとは、凄いなぁ」
と感心していたら、イチゴに否定された。
〔違いますよ、タケト様。時おり発生するバグですね。神隠しというものが、タケト様のお国にはあるでしょう? いきなり消えた人が行きつくのが、どこかのダンジョンというわけです〕
あの少女はいきなり、この≪樹海ダンジョン≫第11階層に飛ばされてきたわけか。
どうりでその少女、学校の制服を着ているわけだ。授業中にでも神隠しにあったのだろうか。
「ところでイチゴ。あのワニのモンスターだが、S級ダンジョンに相応しいのか? 平凡なワニに見えるがな」
ワニよりもドラゴンのほうが何倍もでかいし、恐ろしい牙を持っているだろうに。
〔あれは毒鰐です。噛まれれば一瞬で毒が全身に回り、死に至ります。ドラゴンさえも毒死させられるのが、毒鰐ですよ〕
毒か!
そうだ、どんなに肉体が強くなろうとも毒には負ける!
オレは神速で走り、少女を突き飛ばし、身代わりになって噛まれた。
これで全身に毒が回るはずだ。
「今度こそ、これでお終いのようだ。じゃあな、イチゴ」
〔タケト様、学習してください。タケト様のDEFでは、毒鰐の牙は通りません〕
「くそ、そうだった。なら、これでどうだ!」
毒鰐の毒牙を引き抜く。思った通り、毒液が噴き出してくる。それを飲んでやった。
「まいったか、イチゴ! 毒死決定だ!」
さぁ、今度こそ全身に毒が回って──
〔まいりません。なぜならRES∞のタケト様には、どのような毒も通用しないからです〕
「……体がポカポカしてきた」
〔毒の成分が体内で変換され、冷え性解消ドリンクとなったようですねぇ〕
健康になってどうするんだ。
落ち込みながら、とりあえず役立たずの毒鰐を屠っておく。
見やると、先ほどの女子高生がまだいた。
よく分からんが、感動の眼差しを向けてきている。
「あなた、私のことを身を挺して守ってくれたのねっ!」
「……はぁ?」
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