22,無情:Sランクのソフィアさん、腹パンされる。
レストランでドイツ・ソーセージに舌鼓を打っていたら、一人の女が現れた。
汐里と同世代か。碧色の瞳に、初雪のような肌。背は高め。
そして金髪ツインドリルが見事だった。このドリルで戦うのかもしれん。
「あなたが日本から来た冒険者ね」
「また髑髏皇帝の家来か。たとえ女だろうとも、オレは容赦しないぞ。死にたくなければ財布を置いて去れ」
〔タケト様、カツアゲに味をしめないでください〕
「あたしの名は、ソフィア。Sランク冒険者よ。そしてドイツでは唯一、A級ダンジョンを完全攻略した冒険者でもあるわ」
「へえ」
オレの反応が薄かったらしく、ソフィアはしつこく言ってきた。
「≪ベルリン・ダンジョン≫のラスボスであり、【七獏族】の1柱を倒したのが、このあたしなのよ」
仕方ないので反応を増しておく。
「へえええ」
ソフィアはまだ不満そうだが、そこまで相手していられるか。
しかし、気になる点も。
〔イチゴ。A級ダンジョンのラスボスは【四戮族】じゃなかったのか?〕
〔【四戮族】とは、旧式のA級ラスボスでしてね。新規で造られたA級ダンジョンのラスボスたちは、【七獏族】といいます。戦闘力はどっこいどっこいですけど〕
うわぁ。なんてどうでもいい設定なんだ。
そしてラスボスのグループが、アイドルグループ並みの乱立ぶり。
「じゃソフィアさん、勘定しといて」
Sランクなら金持ちに違いないしな。
というわけでオレが出て行こうとすると、ソフィアが回り込んできた。
「待ちなさいよ。北条さん──でいいのかしら? あなた、髑髏皇帝に狙われているそうじゃない。分かっているの? あの【五魔王族】の1柱によ。その圧倒的な戦闘力は、【七獏族】が束になってかかっても勝てないとさえ、言われているわ」
ほう。【五魔王族】って、そんなに突出していたのか。
〔じゃ、≪樹海ダンジョン≫のドルゾンが特別に雑魚だったんだな〕
〔違います。タケト様が異次元に強すぎたのです〕
オレは日本式の愛想笑いを浮かべて、
「まぁ、何とか頑張るよ。じゃ」
「待ちなさいってば。あなたのことを、このあたしが直々に保護してあげるわ。感謝しなさいよ」
「……保護?」
「そうよ。ノブレスオブリージュよ。分かる? 力ある者が弱い者を助けてあげる、って言っているの」
腹パンして沈めた。
〔わぉ。女子相手にも容赦しない、そんな鬼畜なタケト様が素敵ですっ!〕
〔Sランクなんだから、これくらいしないと逆に失礼だろ〕
白目むいて失神しているSランク女から、財布を頂戴してと。
よし、颯爽と店を出て行こう。
★★★
≪ドレスデン・ダンジョン≫は、ツヴィンガー宮殿の庭園内にあった。
面白いのはこの庭園も変貌を遂げており、≪ドレスデン≫の第1階層となっていることだ。
地上に第1階層があるダンジョンは、世界でもこの≪ドレスデン≫だけ。
「さて、行くか~」
庭園に向かって歩き出すと、そこそこの速度でソフィアが追いかけてきた。
手加減したとはいえ、さっきの腹パンからもう回復したのか。Sランクというのも伊達ではないらしい。
「待ちなさいっ! あなた、死ぬ気なの? 髑髏皇帝に狙われているというのに、自分から≪ドレスデン≫に入ろうとするなんて? 死にたいわけ?」
「今日は死ぬ気なし。髑髏皇帝を殺して、≪ドレスデン・ダンジョン≫を滅ぼすだけだ。そうしたらドイツ土産を買って、帰る……アーダが汐里に手をかける前に」
「ふざけないでっ! あなたは髑髏皇帝の怖さが理解できていないのだわ! いいこと。あなたが倒したD級ダンジョンの髑髏伯爵とは、桁が違うのよ! 【五魔王族】は人類が勝てる相手ではないの!」
〔コイツ。さっきタケト様に腹パンで伸されたくせに、偉そうですねぇ〕
〔財布盗ったの、バレてないかな?〕
「それに恐ろしいのは、髑髏皇帝だけではないわ。≪ドレスデン・ダンジョン≫には、【炎骸の三連星】がいるのよ!」
【炎骸の三連星】!
また新グループが出てきやがった。おじさん、そんなにグループ名とか覚えられないんだが。
「無知なあなたに説明してあげるわ。【炎骸の三連星】とは、【四戮族】や【七獏族】と肩を並べる3体のモンスターのことよ。
つまりね、ひとつのS級ダンジョン内に、A級ダンジョンのラスボス格が3体もいるということなのよ! あぁ、なんて恐ろしいの!」
オレはソフィアに近づき、うなずきかけた。
「分かったよ、ソフィアさん」
「北条さん。やっと理解してくれたのね。あたしの保護が必要だということが」
「ああ、理解したとも。あんたが、どうしようもなくウザいということが」
腹パン×3発。
白目をむき、泡を吹いて倒れるソフィア。
「オレに計4発も腹パンさせるとは──さすがSランクだけのことはあったな」
〔タケト様にかかると、Sランクの凄みが塵に消えますねぇ~。惚れなおしましたっ!〕
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