21,Go To ドレスデン!
翌日。
「アーダ。復唱してみろ。『私は本元汐里を殺しません』」
「私は本元汐里を殺しま──せん?」
と、小首を傾げるアーダ。
「いや、なんで語尾が『?』なんだ! あのな、簡単なことだろ。汐里をチェーンソーで斬らなきゃいいんだから。そのかわり、汐里を襲ってきた奴がいたら殺していいから」
するとアーダが、捨てられかけの子犬のようにしがみ付いて来る。
「師匠っ! なぜ私も付いて行ってはいけないのだ!? 小娘のお守などしたくない! 私は師匠と一緒にいたいのに!」
「ワガママを言うな。お前は日本に残って、汐里を警護していろ」
ついに大泣きしだしたアーダを引きずるようにして、汐里の家まで向かう。
汐里は複雑そうな表情で、待っていた。
「おじさん。本当に連れて来たんだね、アーダさん」
「ああ。4、5日ほど世話してやってくれ」
汐里の両親は共に海外出張中とのこと。だからアーダを泊めても問題ないし、これで安心だろう。たぶん。
アーダは敵意のまなざしで、汐里を見やる。
「貴様が自分の身を守れない雑魚だから、私は師匠と引き離されることになったのだ。どうしてくれる、Eランク冒険者が」
「すぐにDランク冒険者になるし」
「いずれにせよ、A級ダンジョン・フロアボスの私には雑魚だがな」
「ふ~ん。フロアボスごときで、マウント取れるんだねぇ。ラスボスになったわけでもないくせに」
「なんだと、この小娘が! 殺す!」
「いや、殺すなよ」
オレがアーダを蹴とばすと、路面を転がっていって電柱にぶつかった。
「……おじさん、いまのはひどい」
「大丈夫だ。オーガは頑丈だから。アーダ、早く戻ってこい」
アーダは跳躍して、オレのそばに着地。かすり傷ひとつ負っていない。
「じゃ弟子同士、仲良くしてろ。じゃあな」
不満そうな汐里とアーダを置いて、オレは出発した。
★★★
──アーダ視点──
汐里を殺さないよう、カップラーメンを食べて心を落ち着かせる。
このカップラーメンとは、まさしく人類の叡智の結晶。師匠以外に価値ある人間がいるとしたら、このカップラーメンを開発した者だろう。
そんなことを考えながら本元家の台所にいると、汐里が現れた。
アーダは敵意の視線を向ける。
「何のようだ、小娘?」
汐里は謎の微笑み。
「一時休戦に来たんだよ、アーダさん」
「一時休戦だと?」
「そうだよ。わたし達にとって、共通の目的って何か分かるアーダさん?」
「共通の目的? なるほど、貴様を殺すことだな」
汐里の笑みが引きつる
「……違うよね、アーダさん? わたしの目的がわたしを殺すことって、おかしいよね? どういう発想? そうじゃなくてさ、おじさんを追いかけることだよ」
「師匠を? だが私は、貴様のお守を任されたのだ。師匠の期待に反するわけにはいかない」
「けどさ、お守なら、この家じゃなくてもできるよね? それこそ日本でなくてもできるよね? おじさんが行ったドイツとかでだって、できるよね?」
「なるほど……うむ。確かに、その通りだ。ドイツでもできる。すなわち、ドイツまで追いかけていってもいいのだな!」
汐里のほうから「ちょろい」という声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
「あ。けどアーダさんは、パスポート持ってないんだっけ」
「……気に食わないが、仕方ない。これから貴様に、あるスキルを教えてやる。《封印遊戯》というスキルだ。これさえ使えば、私をカードにして持ち運べる。
くっ。貴様に持ち運ばれるなど死ぬほどの屈辱だが、これも師匠を追いかけるためだ」
「そうだよ、そうだよ。これもぜんぶ、おじさんを追いかけるためだよ。あ、カップラーメン食べちゃえば? 冷めるよ」
アーダは麺をすすりつつ、渋々ながらも思った。
この小娘も、少しは使えるようだと。
★★★
──主人公視点──
今回もエコノミークラスで、海を渡った。
ドイツ・ザクセン州の州都、ドレスデンに到着。
空港を出たところで、オレは気づいた。
〔まずい。所持金が底を尽きそうだ〕
ところで、空港の外では4人の男が待ち構えていた。
これも髑髏皇帝の配下らしい。すなわち、ダークサイドに堕ちた冒険者たちだな。
4人ともドイツ人のようなので、《通訳》でドイツ語OKにしておく。
リーダー格の男が、話し出した。
「来ることは分かっていたぞ、北条尊人。しかし、貴様が≪ドレスデン・ダンジョン≫に足を踏み入れることはない。なぜなら、俺たちパーティがここで貴様を殺──」
リーダー格以外の3人を、《真空刃》でテキパキ斬殺。
リーダー格がそれに気づくなり叫び出した。
「うわぁぁそんなぁぁぁ! アルバぁぁン! ベンヤミぃぃン! ブルーノぉぉぉ! どうしてだぁぁぁ! こんなのひどすぎるぅぅぅ!」
「えー。ひどすぎるって、そっちが襲おうとしたくせに。だけどな、本音を言うと助かったよ。待っていてくれてさ」
3人の死体から財布をいただく。
これは断じて窃盗ではない。ダンジョンの宝箱からアイテムを取る感じだ。うむ。
「これで所持金が増えた。あー、だがもう少し増やしておきたいか。なぁ?」
と、リーダー格に笑いかけた。
とたんリーダー格は顔面蒼白になって、逃げだす。
「ひぃぃぃ! 死にたくなぁぁぁい! 誰か助け」
一瞬で追いつき、後頭部を殴って仕留めた。
「バっカだなぁ。財布を置いて行けば、放っておいてやったのに」
〔髑髏皇帝に心酔するくらいですからね、おバカなんです。さ、お金も入ったことですし、≪ドレスデン・ダンジョン≫行っちゃいます?〕
〔まずは腹ごしらえだ。髑髏皇帝は、食後の運動だな〕
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