19,弟子たちが仲良くしてくれない。
──主人公視点──
帰国した翌日。
汐里と、都内のファミレスで会った。
「おじさん、これ秩父のお土産」
「ああ、悪いな」
こちらの土産は、≪上海ダンジョン≫ラスボスのドロップアイテム《魔牙》と、パンダ人形。
「わぁー、パンダ可愛いっ! ありがとっ、おじさん! 本物のパンダは見たの?」
「パンダは見なかったが、ダンジョンにパンダに似たモンスターならいたなぁ」
「えー、いいなぁ。わたしもそこのダンジョン、行きたいよ」
「上野動物園のパンダで我慢しろ」
オレが言ったパンダ型モンスターは、≪上海ダンジョン≫のフロアボス。で、どこかの冒険者を食べてたしなぁ。
ふいに汐里が真剣な表情になって、顔を近づけてきた。
「それでおじさん──何やったの?」
「何の話だ?」
「とぼけても分かってるからね。おじさんが上海にいた日と重なって、〈死亡塔〉という犯罪組織がほぼ壊滅したとか。ニュース番組とかじゃ、敵対組織の仕業とか、中国政府が介入したとか言っているけどさ。これ、おじさんでしょ?」
「どうだろうなぁ」
「ごまかされないよ、おじさん。というか自分で出発前に言ってたよね? 『ダイヤを盗んだ邪悪な犯罪組織を潰しに云々』って」
「分かった分かった。その通りだ。ダイヤの件で〈死亡塔〉と話し合いには行った」
「話し合いに行った? ふーん。ニュースだと、現地は地獄絵のようだという話だけど?」
「もういいじゃないか。犯罪組織が無くなったからって、悲しむ市民はいないだろ。これもボランティア活動みたいなもの。ゴミを拾おう、犯罪組織を潰そう。そんなことより、≪秩父ダンジョン≫はどうだった? 小陽たちはレベルUPしたのか?」
汐里は不満そうに頬を膨らまた。
「話題をそらしたのバレバレ」
話題を変えるのにもってこいなことに、アーダがやって来た。
アーダは人間社会を知るため、暇さえあれば散歩している。よくナンパされるそうだが、そのたび「人の手足を折るチャンスができて嬉しい」と言っていた。目を輝かせて。
ま、警察沙汰にならなきゃいいか。
「汐里、紹介しとく。彼女はオーガのアーダ」
「え、オーガ?」
「ああ。訳あってダンジョンから出てきたんだ。ま、角もないし、見た目はただの美人さん。設定は『東欧から来た日本好き美女』。好きな食べ物はなんだ、アーダ?」
「寿司、ラーメン、たこ焼き。これでいいだろうか、師匠」
「よくできました」
ちなみにオーガの好物は肉。このまえ捕まえたネズミを焼いて食べようとしていたので、全力で止めた。
汐里が驚いた様子で聞く。
「まって、師匠って言ったの? つまり、アーダさんはおじさんの弟子?」
アーダは汐里を睨みつけて応える。
「そうだが──貴様、師匠のことを『おじさん』とは気安く呼びすぎではないのか? たかが人間の小娘ごときが」
汐里がほほ笑む。が、なんか目が笑ってない。
「いいんだよ、わたしは。だってさ、おじさんの一番弟子だもん。だからアーダさんは、わたしの妹弟子ってこと」
「私が、貴様より下だと?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた、というよりすでに台風が来ている?
イチゴが面白がるように言う。
〔おやおやぁ。タケト様の≪上海ダンジョン≫無双を眺めているより、楽しくなりそうですねぇ~〕
「まてよ。汐里、いつからオレの弟子になったんだ?」
汐里が潤んだ瞳で見てくる。
「ひどいよ、おじさん。一緒にパーティ組んだときから、わたしはおじさんの弟子だと思っていたのに」
アーダが《収納》からチェーンソーを出す構えを見せ、
「勘違い女が、殺す」
「やめなさい、お前は」
頭が痛い。だから弟子なんか取りたくなかったんだ。
「そうだな、汐里は弟子みたいなものだな。アーダ、汐里のことは姉弟子と思っておけ」
「姉弟子と? A級ダンジョンに入れば3秒で死にそうな小娘を? しかし、それが師匠の指令ならば従おう。よろしく頼む、汐里」
「うん、こちらこそよろしくね、アーダさん」
オレはホッとした。
〔仲良くなったようで良かった〕
〔タケト様、それはポジティブすぎです〕
★★★
汐里と別れて、ビジネスホテルに戻る。
アーダが拗ねた子犬のような表情だ。
「師匠は、私よりもあんな小娘がいいのか? 戦闘力も胸も私のほうが上回っているというのに。私に足りないものは何なのだ? 師匠、師匠、師匠~」
犬を飼うとこんな感じなんだなぁ。
などと思いながらホテルの部屋に入ったところ、なんか爆発した。
〔イチゴ。この爆発、魔法の痕跡があるんだが〕
〔ありますねぇ。面白くなってきましたねぇ〕
爆風と衝撃波はスルーして、痕跡を辿っていく。
ホテルから降下し、路地にいた魔導士を踏みつける。
コイツが今の爆発を起こした犯人だ。《爆炎》あたりの火力魔法だろう。
とりあえず骨盤を破壊してから、顔面を路面に叩きつけた。
「この野郎。1週間分の宿泊料を前払いした日に、爆破しやがって。せめて前払い前に爆破しろ」
「こ、これは、ほ、報復だ」
「報復? 誰からの?」
「ど、髑髏皇帝──」
「髑髏皇帝だって? オレが、そいつに何をしたっていうんだ!」
するとイチゴが脳内で応える。
〔そいつの弟、ブッ殺しましたよ~〕
あー、そうだった、そうだった。
殺したねぇ、弟。
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