18,日本から地獄が来た。
──主人公視点──
あらかた拠点を潰したことだし、そろそろ本拠地へ乗り込むとしよう。
すなわち、〈死亡塔〉を統べる長老の邸宅へ。
興味深いことに、長老の住所は簡単に分かった。この上海市において、長老宅に襲撃かますような輩はいないということだろう。
まぁ日本から来たおっさんは別ですが。
アーダと合流して、長老邸へ。
警備兵を《真空刃》で、無音に殺していく。
長老と幹部が集まっている会議室への廊下に入る。
「師匠。まずは私が先行し、危険がないかを確かめてくる」
「え? いや別にいいよ。って、ああ行っちゃった。仕事熱心なのはいいが、ほんと人の話を聞かないよなぁ」
会議室の扉を押し開けて、朗らかに言った。
「よーし、ダイヤの商談に来たぞ~」
見ると、アーダによって男が真っ二つにされたところだ。
〔あ、タケト様。いまアーダさんが殺した男、完全攻略者でしたね。まぁ雑魚に変わりはありませんが〕
ところで、先ほどから高齢の男がうるさい。
「ぎゃぁぁぁぁ!」と悲鳴を上げていてうるさい。
会議室には書棚があり、そこに龍の置物があった。
オレは置物を取って、高齢の男にぶん投げる。顔面に命中して、スイカみたいに破裂した。これで静かになった。
「さてと。長老さんはどこにいるのかな?」
オレが問いかけると、何人かの幹部が指さした。オレが置物を投げつけた男を。
「……よし。長老が死んだら、誰が後釜に座る予定だったんだ?」
すると幹部たちが、お互いに擦り付け合うようにして見あう。
「お前だろ、後釜は! 最大の縄張りを持っているんだから!」
「バカ野郎ぅぅ! お前こそ、長老のお気に入りだったじゃないかぁぁ!」
「じゃ、私は長老に嫌われていたからセーフだな」
「あんたは、長老の娘婿だろうがぁぁ!」
「知らん知らん!」
呆れてものも言えない。
「おい、いい加減にしろ。あまり話がまとまらないようなら、そこのアーダが斬ってしまうぞ」
「了解した」
と言うなり、アーダがチェーンソーを数閃。
一瞬で、3人の幹部が切り刻まれた。
「何やってんだ、アーダ?」
「うむ? 師匠の指令に従っただけだが?」
「ちゃんと人の話を聞けって。オレはこう言っただろ? 『あまり話がまとまらないようなら、そこのアーダが斬ってしまうぞ』と」
「了解した」
と言うなり、アーダがチェーンソーを数閃。
一瞬で、3人の幹部が切り刻まれた。
「だから違ぁう! 脅しなんだから、まだ実行しなくていいんだよ! とりあえず、チェーンソーを《収納》にしまえ!」
危ないったらありゃしない。
ここで幹部を皆殺しにしてしまったら、誰が責任をもってダイヤを買い取ってくれるんだ?
ところで幹部たちは、いまや一か所に寄り集まって泣きじゃくっていた。何人かは漏らしている。
いい歳した男どもが情けない。
「ほら、誰が新たな長老になるんだ? オレはその男と交渉するため、遥々と日本から来たんだから」
すると眼鏡をかけた、40代の男が呟いた。
「日本から……地獄が来た」
「あんた、名前は?」
「わ、私は玉力源だ」
「決まりだ。あんたが新たな長老だ。というわけで──オレのダイヤはどこだろう? 〈麒麟陀〉が貢物として贈ってきた、拳大のダイヤモンドのことだよ」
すると玉力源は信じがたいことを口にした。
「モ、モスクワ」
心の整理がつかないので、玉力源は燃やした。
「ぎゃぁぁぁぁあああ!」
火だるまは無視して、オレは言う。
「モスクワだって? おい、いい加減にしろ。なんでオレのダイヤが世界を旅してるんだ? ふざけてるのか? 世界中で仕組んで、オレを笑いものにしてるのか? そこのお前、説明しろ!」
何となく目についた禿頭の男に命じる。
禿頭は「ひぃぃぃぃ!」と情けなく叫んでから、説明しだした。
こういうことだった。
モスクワを拠点とするロシアン・マフィア〈冬宮殿〉に、銃器取引の支払いに使ってしまったと。
「オレのダイヤを支払いに使っただと? 『北条尊人』と名前が書いてあっただろ!」
〔いえいえ、タケト様。名前なんか書いてないでしょ。冷蔵庫に入れたプリンじゃないんですから〕
オレは脱力してしまった。中国まで遥々来たのに無駄足だったなんて。
「アーダ」
「うむ?」
「全員、殺していいぞ」
「了解した!」
阿鼻叫喚の会議室に背を向けて、オレは廊下を歩く。肩を落として。
〔タケト様、モスクワに行かれます?〕
〔いや、いったん日本に帰る。≪秩父ダンジョン≫に潜った汐里たちも気になるしな〕
〔≪万里の長城ダンジョン≫は、どうされるのです?〕
〔ああ、そうか……次の機会に取っておこう。ただストレスは発散して帰りたいなぁ〕
〔手ごろなA級ダンジョンが、上海にありますよ。もちろん名称は、≪上海ダンジョン≫です〕
〔じゃ、そこ寄ってから帰るか〕
★★★
2時間後。
≪上海ダンジョン≫最深部。
人間と野獣を合体させたようなモンスターが、待ち構えていた。とにかく、牙がでかい。
「我が名は、ドラブガー! ≪上海ダンジョン≫ラスボスにして、【四戮族】が1柱! 矮小なる人間よ、我が牙の前に──」
殴りまくって殺した。
「いやぁ、運動したら爽やかな気持ちになった。これで朗らかに帰国できるぞ~」
〔タケト様が元気になってくれて、イチゴも嬉しいですよっ!〕
★★★
──死にぞこない幹部の視点──
長老邸にて。
アーダは一人、殺しそびれていた。
その幹部は半死の状態ながら、ある情報を世界へと発信した。
その情報が、世界中の犯罪組織で共有されるのに時間はかからなかった。
『〈死亡塔〉を壊滅させたのは、ホウジョウ・タケトという日本人だ。頭のおかしい女を引き連れている。
この男たちが通ったあとには、誰も生きてはいない。歩く地獄だ』
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