17,幹部Aさんは頭を抱えました。「訳がわからん……敵は本当に人間なのか?」。
《四次元室》は、別次元に部屋を作るスキル。
《四次元室》に入ってしまえば、外からは見えないし、干渉もされない。
色々と便利なスキルだ。
たとえば、こんなふうにも使える。
周志国の案内で、崔展照を発見。酒屋でショバ代を要求しているところだった。ショバ代が高額すぎるらしく、店長が懇願している。
そこを崔展照が蹴とばしていた。
「盛り上がっているところ失礼するよ。ちょっと、おいで」
崔展照を抱えて、《四次元室》に入る。
「な、ななな、なんだてめぇら!」
「な、ななな、なんでしょうね? 崔展照くん、君が知る限りの〈死亡塔〉の情報を教えてくれ。たとえばさ麻薬工場の場所とか、そーいうの」
「ふざけんじゃねぇ! てめぇ、この俺様が誰か分かってんのか! 俺様の叔父貴はな、〈死亡塔〉幹部だぞ!」
「だからお前を拉致ったんだろ。いいから、情報を寄越せ。イヤなのか? ならば──」
オレの後ろから、アーダが一歩前に出る。
《収納》から、愛用のチェーンソー型武器を出しながら。
「じっくり聞くまでさ。時間はたっぷりあるんだからな」
40秒後。
右腕の皮をハギハギしたところで、崔展照は折れた。
市内の〈死亡塔〉拠点を知っているだけ吐く。
協力的な奴で感心、感心。
「じゃ、手分けするぞアーダ。拠点リストを半分に分けよう。お前はこっちの分な。拠点は破壊して、〈死亡塔〉の構成員は皆殺し、無理やり働かされている人たちは解放。カネも燃やせ」
「師匠、カネはいらないのか?」
「ああ。最終的に、オレのダイヤを210億円で買い取らせることにしたから」
70億円+迷惑料だ。
アーダと別れ、さっそく仕事にかかる。
《飛翔》+《不可視》で拠点に向かう。
最初の拠点は、ミシンがずらりと並んだ工場だった。もちろん、これは見せかけ。
この奥に、麻薬製造工場があるのだ。
「こんにちは~」
と、元気よく乗り込んで、使い勝手の良い《煉獄》を発動。
構成員たちの足元にマグマが出現。ぐぉぉぉと溶けていく。
「なんなんだこれはぁぁぁ!」「助けてぇぇぇママぁぁぁ!」「うわぁぁぁぁ溶けるぅぅぅ!」……
その後、こき使われていた市民を外に出してから、工場は《爆破》で吹っ飛ばす。
さて。
実は今回も、一人だけ構成員を生かしていた。手足は折ったが。
「伝言を頼めるかな? 『ダイヤの件で来たよ』と長老たちに伝えてくれ」
はい、次の拠点へ──その次──その次──
〔甘いですよ、タケト様っ!〕
いきなりイチゴに叱られた。4軒目の拠点を潰し終えたときだ。
〔何がだ?〕
〔構成員を溶かしてばかりじゃないですか?〕
〔まぁ、楽だからな〕
〔それが甘いというのですよ! 死体が綺麗に溶けていたら、ピンと来ないじゃないですか!〕
〔なんだよ、ピンって?〕
〔タケト様。見せしめって意味、ご理解してます? たとえば、かの凄みのある『コロンビア・ネクタイ』! 人の喉元をグサグサ切り裂き、そこの傷口から舌を外に引っ張りだすのですよ。ほら、まるで舌がネクタイみたいー!
これが見せしめのお手本です。ちゃんと先人から学びなさい〕
〔それ、グロいんだが。まさかオレにやれというのか? 日曜6時半は欠かさず『サザエさん』を見ている、このオレに?〕
〔じゃ、アーダさんにやらせてはどうですか?〕
〔それ名案〕
というわけで、アーダに《念話》。
[アーダ。どんな感じだ?]
[師匠、順調に進んでいる。今は5軒目の拠点にいる]
[これからは、殺した構成員の喉元を切り裂き、傷口から舌を外に引っ張り出してくれ]
ところが、イチゴが脳内でうるさい。
〔甘い、甘い! チョコレートパフェのように甘ちゃんですねぇ~。生きたままやるところがポイントなんですよ!〕
[……アーダ。手間かけるが、構成員は生かしたままで舌を引きずり出してくれ]
[了解した!]
アーダ、いい返事だなぁ。
オレの弟子、人を痛めつけると生き生きする子なんですけど。
とにかく、5軒目の拠点へ行きますか。
今日は夜まで、大忙しだな。しかし、体を動かすのはいいものだ。
★★★
──〈死亡塔〉視点──
その会議室には、〈死亡塔〉の幹部が集まっていた。
すっかりパニックに陥っている。
「どうなっているんだ、これは! 次々と拠点が壊滅させられていくぞ!」
「一体どこの組織の仕業だ? 福建の〈龍頭〉か? 香港の〈四会〉か?」
「舌を引きずり出す手口は、南米カルテルではないのか?」
「そんなことより、メッセージの『ダイヤの件』とは何なんだ!」
「敵の動機など知るか! 何としても生け捕りにし、見せしめとして残虐に殺すのだ!」
「敵が誰かも分からないのにか?」
「生き残りが言うには、敵は男一人。構成員たちは、マグマのようなものに溶かされたというぞ」
「正気じゃない。そんな証言が当てになるか!」
「だが生き残り全員が、同じ証言をしているんだぞ!」
「違う、違う。敵が女一人だった、という証言もあるんだ。その女はチェーンソーを武器にして、嬉々として殺しまくっていたという」
「その女が、舌を引きずり出しているそうだ」
「訳がわからん……敵は本当に人間なのか?」
幹部たちの醜態を、長老はただ眺めていた。
そして長老がボタンを押すと、一人の男が会議室に入ってくる。
青龍刀を装備した、ただ者ではないと感じさせる男が。
「諸君、うろたえるな。廖王龙が帰ってきてくれたのだぞ」
とたん幹部たちの顔が明るくなる。
「おお、廖王龙か! 台湾での抗争を治め、戻ってきてくれたのか!」
長老は黄ばんだ歯をむき出しにして笑った。
「廖王龙に任せておけば問題ない」
「うむ、そうだ!」
「廖王龙がいてくれるなら、もう大丈夫だ!」
「どこの敵か知らんが、これでお終いだな!」
長老や幹部たちの信頼も当然である。
廖王龙は、かのC級≪九龍城ダンジョン≫を完全攻略した男なのだ。
まさくし超人、まさしく一騎当千。
廖王龙ならば、どんな敵をも血祭りに上げてくれることだろう。
廖王龙はニヒルに笑った。
「任せといてくださいよ。どんな敵だろうと、この俺が片付けてや──」
瞬間。
廖王龙が真っ二つになった。
頭から股までの唐竹割りである。
「……………え………?」
あまりの超展開に、長老たちの思考が付いていけない。
真っ二つになった廖王龙の後ろには、チェーンソーの女が立っていた。
チェーンソーの血を払って、
「なんだ、ただの雑魚か」
さらに会議室の扉が開き、一人の男が入ってきた。
「よーし、ダイヤの商談に来たぞ~」
ようやく事態を理解した長老が、悲鳴を上げた。
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