16,伝言:「オレのダイヤを盗んだので、あんたらは皆殺しコースに入ったよ(⌒∇⌒)」。
東間が話すには、こういうことだった。
オレのダイヤを売るため奔走している中で、都内で力を持つ中国系ストリートギャング〈麒麟陀〉が接触してきた。
この〈麒麟陀〉のバックに、上海の犯罪組織〈死亡塔〉がある。
で、東間はまんまと〈麒麟陀〉にダイヤを奪われてしまった。ダイヤは密輸され、今頃は〈死亡塔〉の長老へ納められただろう、と。
「とりあえず、その〈麒麟陀〉のたまり場はどこだ?」
東間から住所を聞き出したところで、《念話》を使用。
相手は、都内にいるアーダ。
[アーダ。ちょっと頼まれて欲しいんだが]
[なんでも言ってくれ、師匠]
[今からある場所に行ってほしい。〈麒麟陀〉とやらのたまり場だ。そこの奴らをテキパキと虐殺してくれ。いや、まて。一人だけ生かしておけ。そいつに伝言を命じるんだ。〈死亡塔〉への伝言だ。『オレのダイヤを盗んだので、あんたらは皆殺しコースに入ったよ』と]
[『オレのダイヤを盗んだので、あんたらは皆殺しコースに入ったよ』だな]
[あ、まて。最後に親しみをこめて、(⌒∇⌒)を入れるんだ]
[親しみの(⌒∇⌒)だな。了解した]
それから、たまり場の住所を伝える。
「さてと。〈麒麟陀〉はこれで片付いたとして。東間く~ん、君をどうしてくれようか」
「お願いしまぁぁぁぁす命だけは命だけはお助けくださぃぃぃぃ!」
だんだん東間くんの情けないところに親しみを覚えてきた。もちろん、命を取ったりはしないさ。
とはいえ、オレのダイヤを奪われた罪は重い。これは仕方ない事実。どうしようもない。
「利き手どっちだ?」
「は、はい?」
「利き手はどっちだ?」
東間くんはしゃくり上げながら答える。
「み、み、み、右手で、す」
「そうか」
オレは東間くんの右手を軽く握った。
「お別れの握手だ、東間くん。これからは堅気として生きろよ」
そして握りつぶした。
★★★
都内に戻り、宿泊中のビジネスホテルでアーダと合流。
アーダのチェーンソーからは、まだ血が滴っていた。
「アーダ。これから中国へ行くぞ」
「うむ。万里の長城へ行くのだな?」
「観光じゃないんだぞ、アーダ」
するとアーダは怪訝そうに言う。
「≪万里の長城ダンジョン≫に向かうのではないのか?」
「≪万里の長城ダンジョン≫?」
最近、怠けてばかりのイチゴが脳内で言う。
〔あ、そうでした、そうでした。〈死亡塔〉の件が楽しすぎて忘れていましたが、中国にはあるのですよ。世界に5つしかないS級ダンジョンの一つが。それこそ≪万里の長城ダンジョン≫でーす。語呂悪くないですか、これ?〕
スマホに着信があった。汐里からだ。
「最近、おじさん何してるの? LINEしても返事くれないじゃん」
「すまない。ちょっと忙しくてな」
「今週末、E級の≪秩父ダンジョン≫に行こうと思うんだけど、おじさんもどう?」
「今週末は出張だ」
「出張? 何しに行くの?」
「オレのダイヤを盗んだ邪悪な犯罪組織を潰して、ストレスを発散してくる」
「ふ~ん。よく分かんないけど、頑張ってね」
「ああ、そっちもな。E級だからって、油断するな。フロアボスが倒せそうになかったら、戦略的撤退を忘れるなよ」
「りょーかい。じゃね」
★★★
上海へは《飛翔》で行ってもいいが──それだと密入国になるか。
普通に旅行客として向かうことにした。
ただ、アーダをどうやって連れて行くかの問題がある。
モンスター娘なので、パスポートは取れないし。
スキル・リストに検索をかけて、良いのを見つけた。
《封印遊戯》。
これはテイムしたモンスターをカードにできるスキル。
弟子だからテイムしたようなものだろ。
さて。
エコノミークラスの旅で、上海市に到着。
時差はマイナス1時間。主要言語は北京語と上海語。気候は東京とほぼ同じ。
まずは《封印遊戯》を解除して、アーダを自由にする。
それから《通訳》を使う。これで現地の言葉もペラペラだ。
「よし、下準備は終了だな。ではお次は──」
《友達100人できるかな》を発動。
このスキルは、条件にあう友人候補を紹介してくれる、というもの。
不慣れな場所で協力者を探すには、もってこいなスキルだ。
指定する条件は、『〈死亡塔〉に敵意を抱いている人』としておくか。
あと『話が早い性格』も加えておく。
20分後。
とある飲み屋で、オレは周志国という男と話していた。
「周志国さん。臓器目当てに、あんたの妹さんを誘拐して殺すとは。〈死亡塔〉は悪辣なことをするなぁ」
「そうだ。だから俺はあんたに協力するぜ、北条さん。あんたが〈死亡塔〉を潰してくれるなら、俺はどんなことだってする」
話の早い男で助かる。
ちなみに周志国とは北京語で会話している。《通訳》のおかげだ。
「さっそくだが、周志国さん。〈死亡塔〉の構成員を知っているか?」
「実は、うちの近所に一人いるんだ。崔展照という男なんだが。叔父が〈死亡塔〉の幹部で、でかい顔をしてやがるのさ。たとえば通りで女を犯しても、お咎めなしなんだからな」
「警察は何をやっているんだ?」
「警官の多くは〈死亡塔〉に買収されているんだ。もちろん善良な警官もいるにはいるが、どうやって見つければいいんだ? 汚職警官に当たるのが怖くて、市民は通報もできないのさ」
「なるほどね。じゃ、まずは崔展照くんから始めようか」
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