12,美人さんの角(ツノ)を引っこ抜く。
軍艦島にある30号棟は、日本初の鉄筋コンクリート造アパートだそうだ。
この建物に、≪軍艦島ダンジョン≫への入り口がある──のだが。
30号棟が消滅していた。
〔あー、世界文化遺産の一部が〕
〔威力偵察のときの戦いで吹き飛んだんですね~〕
オレは親切が売りなので、《復元》で寸分違わず破壊前に直しておいてやる。
それから、≪軍艦島ダンジョン≫入り。
さて。オーク大軍勢の出迎えでもあるかと思ったが、モンスターが見当たらない。
第2階層に降りても同じ。
〔これはクレームものだな。イチゴ、ダンジョン・クレーム係に電話しろ〕
〔いちおう真面目に解答しておきますと、そんな係は存在しませんので〕
超高速に入って、30階層まで一気に駆け降りる。
おっと、殺気だ。やっとモンスターの出現だな。
敵は、チェーンソー型の武器を装備した女オーガ。
人間だと20歳くらいか。オーガのくせに、モデルでも通りそうなスタイルだ。ただ額からは角が生えているが。
〔タケト様。相手はオーガとはいえ、あんな美人さんです。さすがに攻撃するのに抵抗があるのでは?〕
〔そうだな。オレはモンスターといえども女は殴らん〕
〔さすがタケト様、紳士ですねぇ~〕
女オーガが攻撃を仕掛けてきたので、思い切り蹴とばした。
〔……殴らないけど蹴るんですね〕
女オーガは壁にぶつかり、転がる。
オレはそんな女オーガの頭を踏んづけ、角を引き抜いた。
「これで許してやる。フッ、オレもまだまだ甘いな。女モンスターに優しいなんて」
〔タケト様、優しさの定義がたぶん狂っていると思いますよ〕
〔この引き抜いた角は、ドロップアイテムということにして、汐里への土産にしてやろう〕
〔ドロップアイテムと名付けても、生きている美人さんから引き抜いた事実は変わりませんよ~〕
〔角の根本の血痕を拭けば、バレまい〕
次の階に行こうとしたが、後ろから呼び止められた。
「待ってくれ、頼む!」
先ほどの女オーガだ。額の角がなくなったので、いよいよただの美人さんっぽい。
まぁ額の穴から血がビュビュッと噴き出してはいるが。
「なんだ?」
「貴様の、その鬼のような強さ。まさしく幾千もの修羅場を乗り越えてきた武士だけが得られる強さだ」
「いや、『来館1億人』になっただけなんだが。頭のおかしい案内係に目を付けられただけなんだが」
しかし、女オーガは聞いていない。すっかり変なテンションになっている。
「その強さを見込んで、是非とも頼みたい。我が主の野望を打ち砕いてほしいのだ」
オレは女オーガの言葉よりも、額からの出血のほうが気になっていた。心臓の鼓動にあわせて、ビュシュ、ビュシュと噴き出している。
うーむ、気になる。引っこ抜いておいてなんだが、気になる。
「とりあえず、その額の傷を治させてもらうぞ。《ヒール》」
これで傷はふさがったが、角は復活しなかった。いよいよ、ただの美人さんになってしまった。
チェーンソー型武器を装備している点を抜かせば。
「で、なんだっけ?」
「我が主の野望を──」
「あー、そういう重そうな話は間に合ってるから。よそを当たって。じゃ」
うまく断ったと思ったのに、女オーガがしがみ付いてくる。
「待ってくれ! 頼む、どうか力を貸してほしい! 我が主、鬼の王を倒し、世界の均衡を守ってくれ!」
「なんだ、我が主って鬼の王のことだったのか。考えてみれば当然か。君もオーガだしな。角がなくなったけど」
「私の名は、アーダ。是非とも、私の話を聞いて欲しい」
「長くなりそうか? 長いのは御免だぞ。常日頃から、脳内におしゃべり女を飼っている身なんだ。だから長話だけは勘弁しろ」
「……頑張って要約する」
「じゃ聞こう」
「我が主、鬼の王は偉大なる王だった。だがある事件が、主を変えてしまったのだ。主には後継者となる娘がいた。目に入れても痛くないという可愛がりようだった。ところが、あの日──」
「長い」
アーダを振り払って、オレは先に進むことにした。
正直、鬼の王の裏話とかどうでもいい。オレを殺せるなら良し、殺せないならボコる。我ながらなんて潔い人生観。
「なんと! すまない、もっと短くするから! 60字以内で、60字以内でまとめるから! 頼むからぁぁぁ!」
アーダが泣きべそをかきだしたので、何だか憐れに思えてきた。
「なら60字以内だぞ」
アーダが一気に話し切る。
「鬼の王の娘が冒険者に殺された。発狂した鬼の王は突然変異体となり、娘の仇を討つため地上に侵攻しようとしている」
「やればできるじゃないか」
オレが肩を叩いてやると、アーダはホッとした様子。
「しかし仇を討つため侵攻というのも大袈裟だな」
「いや、娘を殺した冒険者はすでに血祭りに上げてある。だが主の憎しみは収まらない。いまやその憎悪は、人類全体へと向いているのだ」
「分かるなぁ。オレも冤罪の怒りすべて、JK全体に向いていたもの。汐里と会うまでは」
「我々はダンジョンに生きるもの。人類との戦争は望んでいない。頼む、冒険者よ。どうか我が主を止めてくれ。私も手を貸す」
「まぁ、鬼の王とは初めから戦うつもりだよ。どうなるかは、向こうさん次第じゃないかなぁ。ところで、何か降りてきたな──」
《探査》で確かめてみたところ、第1階層に大所帯が降りていた。
冒険者による巨大パーティだ。200人はいる。これはもう軍隊だな。
さては鬼の王の討伐が目的か。冒険者組合が送り出してきたな。ああ、よせばいいのに。
〔邪魔なのが増えると、何かとダルい〕
〔どうしますか、タケト様?〕
〔先に追い払うかなぁ、人類軍を〕
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