32,戦艦5000年ローン。
おれの絶妙な叩き加減で復活した汐里。
そうして立ちあがった弟子第一号は、【神臣人】の葉桜と対峙する。
「おじさん。ここは私に任せて。このJKもどきは、わたしが倒すから」
わが弟子も立派に成長したものだ。
「そうか、分かった。頑張れ」
じゃあ、おれは妖魔タイゼンの残骸でも始末するか。と思っていたところ、妖魔タイゼンの肉片が、周辺のモブ女子高生たちに取り憑いていく。
さらにモブ女子高生たちが、一か所に集まり出し、まずただの肉の固まりと化していった。そうして盛り上がった巨大な肉の固まりが、さらなる再構築を行い──
なんか、身長50メートルほどの女子高生が一体、生まれたのだった。
おれの位置からだと、ただ上を見上げるだけで、巨人JKのスカートの中が見えてしまうわけだが。しかし、こうも相手がでかいと、犯罪という感じがしない。そもそも、いやらしさというのも感じないし。やはり、適度な大きさって大事だよなぁ。
「というか、なんだろう。一気にウザさが増した。でかくなると、ウザさが増す理論か」
「ウザ理論ですね、タケト様」
しかし、おれは何かを忘れていないだろうか。
確か、この《箱庭世界》に閉じ込められる前、おれは何か重要な任務を帯びていたはずだ。そう、コーヒーを買うという使命を。
そのコーヒーを、ソフィアに渡すという。しまった。ソフィアを宇宙戦艦≪樹海≫に置いてきてしまった。
《破壊の十字架》を巨人JKに叩き込んでから、おれは空中へ飛び上がった。このさいイチゴを肉体のまま連れていくのは面倒なので、おれの脳内に入れる。
さて。《箱庭世界》から出ることはできずとも、戦艦≪樹海≫にいるソフィアと連絡は取れるはずだ。この《箱庭世界》を構築する世界において、密度が薄いと考えられる大気圏付近からならば。通話スキルのパワーを最大にして、≪樹海≫のソフィアへと呼びかける。
〔ソフィア! 聞こえるか!〕
〔………条さ……北条……北条さん! 聞こえるわ! あの、それでさっそくなのだけど、この宇宙戦艦、操縦性が最悪なのだけど! あ、まって、ダメ! なんか突っ込みそう! 突っ込む!〕
〔まった、どこに突っ込みそうなんだ?〕
〔えーと、なんか宇宙に浮かぶ巨大な城砦? あ、まって。これさっきドロシーさん運転の戦艦≪万里の長城≫のときも突っ込んでいった建物じゃないかしら? そうよ、思い出したわ懐かしい〕
〔懐かしくないだろ。30分前のことだろ〕
〔北条さんも一度、死ぬ気で宇宙遊泳してみなさい。もう全てのことが遠い過去に思えてくるから〕
〔そんなことより、それが≪πダンジョン≫だ! そのまま突っ込むとまた宇宙破壊レーザーで吹っ飛ばされるぞ!〕
このとき脳内で静かにしていたイチゴが、いきなり喚き出した。
〔え、まってくださいタケト様! つまりそれは、私の愛艦である≪樹海≫のことなんですか? やめてくださいよ! 私の戦艦! まだローンが残っているのに!〕
〔いやお前、どこでローン組んだの?〕
〔マルチバース金融会社です〕
イチゴがローン組んだ話とか、どうでもいいんだよ。とにかくソフィアには、ちゃんと≪樹海≫を操縦してもらわないと。いくら≪樹海≫でも、≪πダンジョン≫の防衛機能を突破できるとは思えない。
「ソフィア。ブレーキをかけるんだ。いいか、凄く単純なんだ。戦艦というが、自動車の運転に似ている。ソフィア、地球時代に免許は取得していたんだろ? おーい、ソフィア?」
「……仮免で落ちたわ」
………マジか。
「えーい、なんでもいいから、ブレーキペダルを踏めぇぇぇぇ!!!」
「踏んだら、なぜか急加速したのだけどぉぉぉぉぉ!!!」
「お前、それ一番やっちゃダメな失敗だろぉぉぉ!!!」
そこから先は、ソフィアの声はよく聞き取れなくなった。激しい破壊音やらなんやらが、無の宇宙空間を超越して、通話スキルで届いてきたので。
おれは呻いたが、イチゴが喚いた。
〔あああああ、戦艦≪樹海≫は、『戦艦5000年ローン』なのにぃぃぃ!!!〕
〔イチゴ。お前、それはお前が悪いだろ。なんだ5000年ローンって。そういえば、おれがまだ会社員だったころのことだ。同僚が50年ローンで住宅を買うと言い出した。おれは諭したね。いいか、お前、よく考えろよと。50年ローンということは、返済が終わるのは80歳だぞ。お前、それでいいのかと。80歳までローンを支払いつづける家が、果たして持ち家といえるのかと。いいかイチゴ、お前にも言おう。5000年間もローンを借りて操縦する戦艦が、果たして『私の戦艦』といえるのかどうか〕
〔戦艦ローンの名義人は、タケト様ですよ〕
〔………………………………なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!〕
〔案内係ではローン審査とか通りませんよ。〖地球の支配者:北条尊人〗だからこそ、こんな長期ローンが組めたわけで。気づきなさいよ、タケット。タケト様のサイン偽造にかけては、わたしは神の領域です〕
〔この野郎! 首を絞める!〕
〔タケト様の脳内にいるので、無理でーす!!!〕
瞬間。
凄まじい衝撃を受けて、おれは空中から地面に叩き落とされた。大地にクレーターを作って見上げたら、先ほどの巨人JKだ。コイツの攻撃だったのか。
さきほど、おれが叩き込んだ《破壊の十字架》による大穴が、完全にふさがっている。そういえばパーツとなるモブJKは、この《箱庭世界》には無限にいるんだったな。
まてよ。こういう敵は、本体を殺さなきゃ、一生再生し続けるパターンか。
ふと見やると、葉桜と戦っている汐里が劣勢だ。さすがに敵が【神臣人】では、苦戦しているようだ。ここで助太刀していいものなのかどうか。汐里は『自分ひとりでやる』と言ったので、ヘタに助けるとプライドを傷つけることになるのか? しかし致命傷を受けてからでは遅いしなぁ。
などと考えていたら、巨人JKに踏みつけられた。
「ああ、くそ。心が、心が痛い──これから5000年間も、破壊された戦艦のローン返済が残っていると思うと、心が痛い」
〔タケトさま。すでに2年は支払ったので、あと4998年ですよ!〕
「……………………お前、嫌い」
〔大好きなくせに~〕
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