31,60度の角度で叩く。
「タケトさまぁぁ! よくぞ助けにきてくれましたぁぁあ!」
と、あらためてイチゴが、感動の涙を流しつつ抱きついてきた。いや鼻水はよせ、鼻水は。
「タケトさまぁぁ!! 聞いてくださいよぉぉ、わたしがどれほど酷い目にあったことか! 苺にされる前に、まずトマトにされたんですよぉぉぉ! なんて鬼畜な奴らだと思いますか!! 別にトマト自体に含むところはありませんが、なぜに苺ではなくトマトに変えるんですかぁぁ? 赤しか繋がりがないじゃないですか!」
「分かった、分かった。もういいから離れろよ。というか、お前、なんか苺臭いから離れろい」
「地味に傷つくじゃないですか、こらタケット!」
さて、妖魔タイゼンはせっかくの人質を、あっけなく失ったわけだ。これは仲間の【神臣人】たちにあわす顔がなさそうだ。が、当人は余裕を失っていない。グロテスクな面から想像する限りは、だが。
「ふっはっはっ北条尊人よ! よくぞ我がはじめの攻撃を攻略したな! だが所詮は人間の進化形態に過ぎぬ。我は生まれながらの【神臣人】! 《生命の輪廻》の恐ろしさは、ここからだぞ!」
妖魔タイゼンの全身がはじけ飛んだ。
イチゴが「やれやれ、タケト様」となぜかあきれ顔。
「とりあえず、敵がドヤ顔で攻撃完了するまで待ってあげるのが、優しさというものですよタケト様。妖魔タイゼンも、必殺のチートスキルを発動せずに殺されるなんて」
「おれはまだ何もしていないんだが。言っておくが、おれは敵がドヤ顔でチートスキルを使うまでを待つくらいの常識は持ち合わせているつもりだ」
「え、では妖魔タイゼンは自爆したんですか?」
ふむ。妖魔タイゼンの爆発で分解した肉片が、少し減っているような。
とにかく汐里と合流しよう。
イチゴをつれて、JK対決している場へと戻る。汐里と葉桜は、いまも大技スキルのぶつかりあいをしていた。互角か。
周囲の《箱庭世界》の偽JKが巻き添え被害で消滅していっている。しかしその中で、妖魔タイゼンの肉片が飛んでいくのが見えた。
それはまっすぐ汐里へと飛んでいき、耳の穴から中に入る。
こちらは精密射撃で撃ち落とそうとしたが、間に合わなかった。汐里と葉桜の激しいバトルが、精密射撃の邪魔をしていたのも理由だが。
「妖魔タイゼンとやらの肉片が、汐里の耳から中に入ってしまった」
と、おれが報告すると、なぜかイチゴが顔を赤らめてほざく。
「わたし、耳が性感帯なんですっっっ!!」
コイツ、もうポンコツを通り過ぎたな。
汐里がその場にしゃがみこんで、頭を抱えるような動作をした。だがすぐに立ち上がり、葉桜に何やら言う。
葉桜は理解した様子で、ニヤニヤ笑いながらこちらに顔を向けた。
「ふーん。妖魔タイゼン、さすがにエゲつないスキルを使うね。よく聞きなよー、北条尊人。いまあんたのJKちゃんは、妖魔タイゼンの肉芽の支配下に入ったわ。脳味噌に完全寄生しているから、いくらあんたでも取れないでしょう。さぁ、どうする北条尊人。これから戦う敵は、このお仲間のJKよ」
妖魔タイゼンの肉片には、そういう機能があったのか。とりあえずイチゴにまで入り込まないように気をつけてやらないとな。
一方、脳に寄生されてしまった汐里は、おれに向かって《光槍》を放ってくる。これって、接触すると問答無用で消滅してくるスキルだっけか。
それなら、消滅する物体をこっちで用意してやろう。
《アイテム創造》で等身大の城砦を作って、汐里に投げる。汐里が城砦を《光槍》で焼いているうちに、こっちはイチゴをつれて神速移動。
汐里の背後にまわり、拘束スキル《完全封鎖》で汐里の動きを封じた。
それから、《宇宙一の外科医のメス》スキルを起動。これは人体に対するなら、防御力を無効化する切れ味だ。
で、汐里の頭部を切開。
そばにいたイチゴ、顔が青くなる。
「……タケト様。いったい何をしているんですか? マッドサイエンティストに目覚めましたか?」
「バカ。汐里を助けているんだろうが」
頭蓋骨を切り開いて、汐里の脳味噌を引っ張り出す。
ここでイチゴが、「おえっ」した。
まずは汐里の脳内に、栞スキルをはさむとしよう。『しおり』だから『しおり』というギャグではないぞ。汐里の連続した記憶の中で、最後の部分に栞をはさむことで、記憶消失をふせいでおくわけだ。なんといっても、これからするのは荒っぽいからな。
つづいて、汐里の脳味噌を分解する。
妖魔タイゼンの肉芽とやらは、脳内で増殖したらしい。やたらと数がある。これを創造アイテムで作った〈ただのピンセット〉で、つまみとっていく。つまみとった肉芽はその場で焼く。
呆然として見ていた葉桜が、気を取り直した様子で、
「なんて、倫理を超越したおっさんだよっ!」
「誰がおっさんだ。いや、おっさんだけども、お前に言われたくはない。JKの姿をした化け物め」
「とにかく、これ以上はさせないよっ! 《次元裂断》!!」
葉桜の刀〈桜咲き〉が一閃、生命体を次元ごと切断する一撃を放ってきた。ならば、次元には次元だ。こっちは〈ただのピンセット〉に次元を付与して、葉桜の刀を弾いた。
「そんなバカなことって!」
と納得のいかない様子の葉桜。
ようは《次元断裂》の次元と、おれがピンセットに付与した次元が拒絶しあったわけだ。磁石の同じ極がくっ付かないのと同じことだな。
さて妖魔タイゼンの肉芽はすべて取り出したので、あとはこの──100個ほどに分解してしまった汐里の脳味噌を、再構築することだな。これは手作業となる。
「ふむ、立体パズルみたいだな」
心配そうなイチゴ。そういえばイチゴは、汐里のことはけっこう気に入っていたっけな。
「あのー、タケト様。大丈夫なんですか?」
「心配するな。ガキのころから、パズルは得意だ」
「え、そういう問題ですか、これ」
ついに汐里の脳味噌が完成した。そこで頭蓋骨に入れて、脊髄に再接続した。頭蓋骨と頭皮を戻す。しかし汐里が動かない。生命体として反応しない。
葉桜が高らかに笑う。
「あーあ、失敗しちゃったみたいだね、おっさん!」
イチゴもがっくりきて、
「ああ、汐里さん、やっぱりダメだったんですか?」
そういえば──ガキのころは、まだ家はブラウン管テレビだった。確か映像がうつらないときは、母がこれをして直したものだ。伝家の宝刀、使いますか。すなわち、
「60度の角度で叩く!」
「えぇぇ!!」
汐里の頭を60度の角度で叩いたところ──
汐里がパッと目覚めた。
「あれ、おじさん。どうしたの?」
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