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30,確かにこの苺からは、イチゴの味がする。

 


「なるほど。JKは常に敵対関係にあるのか」


「おじさん、結論が極端すぎ──とにかく、この《箱庭世界》から出るには、ニセモノの生命体を始末すればいいんだよね。見ていて、おじさん。異世界流転で会得した、私の光滅スキルの数々を──《光槍(アークランス)》!!」


 というわけで、汐里が光槍を振り回しまくって、まわりの女子高生たちを虐殺し始めた。うーむ。なんか凄い絵面。まぁ偽の生命体なんだけどもさ。しかし《光槍(アークランス)》とは接触した物体を光塵と化すようだ。


 おれはベンチに腰かけて、感慨深い気持ちになった。≪樹海ダンジョン≫で初めて会ったときから、汐里は随分と成長したものだなぁ。

 いや、こういう成長するべきだったのかは、なんとも言えんが。やっぱり異世界流転とかしていると、精神面でも色々とあるのだなぁ。


 そのときだ。おれは愕然とした。まって、汐里の2人の友達の名前が、思い出せない。一緒にダンジョンにも潜ったことがあるのに。やばい。歳かな?


 どーん、と空気が震える。なんだろうと見てみると、汐里の光槍が止まっている。セーラー服JKが、刀で受けて止めたのだ。

 汐里が小首を傾げる。


「あれ? この偽JK、手ごわい?」


「あ。汐里、そのセーラー服は、葉桜だ。偽の生命体ではなく、この《箱庭世界》スキルの持ち主。まさか自分から来るとはな」


「ふーん。じゃぁさ、本物のJKなの?」


「遠い昔の世界線ではJKだったらしいが──今は【神臣人】だから、JKじゃないんじゃないか」


「ははぁ。いるよね。偽物のくせにセーラー服とか来て、女子高生きどりの人って。恥ずかしいよねぇ」


「……」


 まてよ。そもそも汐里って、まだJKだっけ? まあ、そこをツッコむと藪蛇っぽいから、やめておこう。


 葉桜は刀を振るい、汐里へと歩いてくる。


「ふーん。これがいまの時代のJKという奴? なんというか、ひ弱だよねぇ。あたしの刀〈桜咲き〉で、その白い首を刎ねてあげるよ。そしたら、そっちのおじさんにプレゼントしてあげる」


 汐里がおれに向かって右手を出して、


「私のおじさんに手は出させないよ!」


 いつから汐里のおじさんになったか知らんが。まてよ、これは世紀のJK対決か。汐里に助太刀するのは野暮なので、ポップコーンでも用意するべきかもしれん。


 しかし──何か、この《箱庭世界》に別の生命体がやって来た気がする。葉桜は汐里に任せて、おれは新たな気配のもとに移動した。

 そこにいたのは──なんかグロい奴。≪遊星からの物体x≫に出てきそうなクリーチャー。肉の固まりで目玉が33個、蜘蛛的な脚。こんなのでも神様きどるとは、鏡がない世界の人かな。


「我は妖魔タイゼン。貴様が北条尊人か」

 と、そのグロイのが言うわけだ。


「まぁね。とりあえず、要求しておく。大人しく、うちのイチゴを返してもらおうか」


「よかろう。受け取れ」


 そう言って妖魔タイゼンが放ってきたのは、いちご。つまり、フルーツの苺。ショートケーキにのっている苺。


「いや、そういうギャグが欲しいわけじゃないから。イチゴはイチゴでも、おれが返せというのは、もっと役に立たない案内係のこと。つまりフルーツの苺は美味いが、うちのイチゴは食べても不味い」


「本当にそうかな? 遅ればせながら、我の力を見せよう。我が【神臣人】として与えられし、この力を──《生命の輪廻》!」


 妖魔タイゼンの脚の一本から、青紫色の光が走る。その光が、《箱庭世界》内の電柱に当たった。義理から眺めていると、電柱が変化していき、ついにはただの大根になってしまった。無機物を野菜にするスキル? 


 妖魔タイゼンはこれでは不十分だと思ったようで、つづいて《箱庭世界》内でも元気に飛んでいるカラスに狙いをつけた。《生命の輪廻》をくらったカラスは、パイナップルと化して地面に落ち、潰れた。

 なるほど。《生命の輪廻》は無機物だけではなく、生命体にも使えるのか。ということは、うちの不味いイチゴを美味しい苺に変えてしまったとしても、おかしくはない。


 ただ、ひとつだけ言いたい。妖魔タイゼンに、ひとつだけ。手順の悪い奴だなぁ。はじめからカラスをパイナップルに変えればいいものを。まず電柱を大根に変えるものだから、《生命の輪廻》が無機物限定なのか分からなかったじゃないか。


「なるほど。うちのイチゴを、苺に変えてしまったというのか。見た目だけでなく、スキルもグロいな」


「ふっはっはっはっ! 貴様の案内係を元の人間型に戻してほしければ、貴様はすすんでガルーダ男爵のスキル《戦闘放棄》を受け、ステータス∞状態を解除するのだ。さもなければ、この苺は──」


 おれは苺を取り上げ、自分の口に放り込んだ。むしゃむしゃ。


 妖魔タイゼンが愕然とする(たぶん、そんな表情なんだろ)。


「……た、た、た、食べただと! グ、グロすぎるぅぅぅ!!!」


 まさか妖魔タイゼンに『グロイ』呼ばわりされるとは。おれはただ苺を食べただけなのに。


「なるほど。確かにこの苺からは、イチゴの味がする」


 そこで、おれは咀嚼した苺を吐いて、地面にべちゃりと落とした。つづいて蘇生系スキルをリストから検索。《生命の輪廻》に対抗できそうなスキルをいくつ試してみると、《終わりは始まり(リセットリピート)》という再生スキルがヒットした。

 咀嚼した苺の残骸から、一人の美女が現れる。

 虹色の髪、透き通るような白い肌、スレンダーでありなまめかしくもある肢体、そして一糸まとわぬ姿で。


「呼ばれて飛び出てイチゴでーす!!」


 おれの案内係を取り戻したぞ──!


 ふいに怪訝な表情をしたイチゴ。自身の右腕をあげ、わきをくんくんした。


「私のわきが苺臭いではありませんか!!! なんか、エロいです!!!」


 そして、もう返品したい。



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