28,日本人だもの。
宇宙戦艦《樹海》の13回目のワープで、ようやく深宇宙《πダンジョン》前に到着。
さて、どうしたものか。
《πダンジョン》の前には、複数の宇宙戦艦が列をなして並んでいた。つまり行列。とりあえず戦艦《樹海》を、列の最後尾につける。
一考。いやまって、なにこの行列は?
防御結界を身体のまわりに張ってから、《樹海》の外、つまり宇宙空間に出る。重力操作スキルで宇宙遊泳。
列のひとつ前の宇宙戦艦まで漂っていき、コックピットの窓を叩いた。エアロックを開けてくれたので、そこから艦内に入る。
出迎えてくれたのは、複数の腕をもった男。
「わが《アンチャー》号にようこそ!」
ステータスを見る限り、この男、ドロシーくらいの強者っぽい。最近のインフレには困ったものですね。
とにかく丁寧に対応してもらえると嬉しいものだ。最近はいきなり攻撃してくる奴らばかりなので。あと、おれの案内係を拉致るとかさ。
「地球から来た北条というものです。えーと。なぜにこんな大行列なんですかね?」
「ご存じありませんか? 《πダンジョン》では、我らが最終神であるヨウナシ様が、百万年に一度の誕生日パーティを開かれているのです。全宇宙から【神臣人】が招待されましたが、全員は会場に入れないようでして。そこで我らのような下級の【神臣人】は、こうして順番が来るのを待っているのですよ」
「はぁ。そうなんですか」
戦艦《樹海》に戻る。
仕方ない。日本人は行列に大人しく並ぶものである。地球から遠く離れ、ステータス∞として生きている時間も長くなったが、おれの血管を流れるのは日本人の血。
大人しく列が進むのを待っていたところ、またワープしてきた宇宙戦艦があった。
今回の宇宙戦艦は、やたらとでかい。月くらいの大きさではないか。それに、どこかで見覚えがあるような。
そう、自宅に似ている。
いや、あれは自宅だよ! つまりは《万里の長城》ダンジョン──ではなく、いまは《万里の長城》戦艦なのか。さてはドロシー、ダンジョンを宇宙戦艦化する方法を見出したな。
見守っていると、《万里の長城》戦艦が、《πダンジョン》へ突っ込んでいく。えー。おれでさえ、ちゃんと列に並んでいるのに?
すると《πダンジョン》から、惑星破壊レーザーが放たれた。《万里の長城》戦艦に激突。魔法結界を破壊し、大爆発へと至った。
あー、自宅が。目の前で自宅が吹っ飛ばされてしまった。
「あー、あー、あー、もう見なかったことにしよう。ショックが大きいので」
それでも感知スキルで、《万里の長城》戦艦内にいた者たちを追いかける。
まずドロシーを発見。《神駆》スキルで空間を圧縮させながら、《πダンジョン》に乗り込んでいった。よく分からないが、おれがもう《πダンジョン》にいると勘違いしている?
他はどうだろう?
まずアーダと汐里が、なんか喧嘩している。深宇宙まで来て、あいつらは何をしているのだろう。あとは──女児的種族は無視して、あとは──宇宙空間に投げ出されたソフィアがもがいている。
「やばい、ソフィアが死んでしまう」
《樹海》戦艦から出て、ソフィアを救出。戦艦内に戻って、回復魔法を使った。
ソフィアががたがた震えながら呻く。
「まって。真空、真空、辛い。真空、辛いわ。地球人は、地球から離れちゃダメなのよ」
「ソフィア。自分の身体のまわりに真空対策結界をはらないと。防御スキルリストにあるだろ? ないの? なんでないの?」
「あるわけがないでしょ! あたしは人間の領域内で頑張っているのよ! 宇宙を泳ぐようにはできていないの!」
「そうか。まぁ、そうだよな……で、一体どうして、こんなところに来たんだ?」
「あたし、パーティリーダーとして頑張ろうとしたのよ。ドロシーや汐里さんや、アーダさんをちゃんとコントロールしようとしたの。けど、あれはダメだったわ。大量破壊兵器を三個所持させられたようなものよ。悪夢だったわ」
「……よく分からないが、大丈夫か?」
とにかくソフィアの説明によって、ドロシーが何をしたか分かった。《万里の長城ダンジョン》の全モンスターを生贄にすることによって、ダンジョンを宇宙戦艦(恒星船)に変換してしまったという。無茶をする奴だ。
ソフィアは続ける。
「地球を飛び立ったまでは良かったの。いえ、ワープに成功したところまでは。そうして《πダンジョン》前に出たとき、あたしは命令したのよ。パーティリーダーとして。ちゃんと宇宙戦艦の行列の最後尾に並びましょうと。けれどドロシーいわく、『お断りします』。で、ドカーンと突撃──しようとしたら、まさか撃ち落されるなんて」
「惑星破壊レーザーのひとつやふたつ備えているだろうさ。《πダンジョン》は、【神臣人】のトップの居城なんだからなぁ」
ソフィアは体育座りして、なんだか重たい溜息をついた。
「【神臣人】ってなんなの? まぁいいわ。頭が痛いし。ドレスデン・ダンジョン攻略に頑張っていたころが懐かしいわ。遠くに来てしまったものよね…………………ところで北条さん。まさか大人しく並んでいるの?」
「当たり前だろう。社会人として、当然のことだ。行列には大人しく並びましょう」
「地球を暴走運転させた人が言うセリフ?」
「それはそれ、これはこれ」
疲れた様子のソフィアは、やはり疲れた声で言った。
「………………コーヒーとか、ある?」
「ない。けど買ってこようか。そこの惑星、どうやら文明が発展しているようだし。美味しいコーヒーを売っているに違いない」
「……じゃ、お願いするわ」
「列が動いたら、《樹海》を前に進めておいてな。そこのレバーを少し傾けるだけでいいから。イチゴが、簡単操作設定にしてくれた」
戦艦《樹海》から宇宙空間に出て、《πダンジョン》の近くにある惑星へと降下。都市部を見つけたので、そちらに向かいつつ、《言語翻訳》スキルを発動。共同知識を宇宙規模に格上げしたので、たとえ初めてきた惑星でも、言語翻訳してくれる。
着地。
現地惑星の少女を見つけたので、声をかける。
「すいません。コーヒー、どこで買えますか?」
あれ。この少女、なんでセーラー服を着ているんだろう。
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