27,議題:北条尊人を倒すにはどうすればいいのか?
~深宇宙:難易度LEGEND級《πダンジョン》最深部:
【神臣人】の面々~
ヨウナシ様に気づかれぬよう、ガルーダ男爵たち一部の【神臣人】は場所を移動することにした。
すなわち、北条尊人の危険性に気づいた【神臣人】たちである。
《πダンジョン》の外には、とある居住型惑星がある。そこには惑星住民たちが、せこせこと暮らしているのだ。
そんな惑星を宇宙空間から見下ろす、5体の【神臣人】たち。
ガルーダ男爵、轍鬼将軍ボーダン、妖魔タイゼン、破滅王ザッタン、永遠の女子高生たる葉桜。
ガルーダ男爵が、巨大な柱を惑星の陸地に落とした。この巨大柱を、ペンがわりにして、陸地に巨大文字を書く。宇宙空間からでも読めるように。
ちなみに巨大柱ペンが陸地を削るたびに、何万という惑星住民が死んでいるのだった。
そこまでして陸地に書いた文章が、『議題:北条尊人を倒すにはどうすればいいのか?』
ガルーダ男爵は咳払いしてから、
「これから来る災厄。〈地球の痴漢王〉こと北条尊人、われわれ【神臣人】を滅ぼすと予言された者。この北条尊人を斃すため、緊急会議を開きたいと思う。どしどし意見を言ってくれたまえ」
まず轍鬼将軍ボーダンが口を開いた。
「これまで、われわれは単体で臨んでいた。そのため各個撃破される形になった。ここはどうだろうか、みんな。一致団結して北条尊人に臨むというのは?」
対して、妖魔タイゼン。
「バカな! 宇宙を統べる【神臣人】が、たかが地球人のために、冒険者のごとくパーティを組むというのか? それではまるで、まるで──」
「ラスボスはわれわれではなく、北条尊人のようね」
と葉桜が続けた。ちなみに彼女、セーラー服着用。
「そんなことが許されてたまるか! 屈辱だ!」と妖魔タイゼン。
対して議長であるガルーダ男爵。
「冷静に考えたまえ。ブラフマーは圧倒的レベル差を見せつけられ、自害。ルガロも精神を破壊され、廃人化。彼ら2体とも【神臣人】として、惑星を破壊できる者たちだったのだ。それが、あんな無残な目に……なんという鬼畜な所業だ。
このままでは、われわれも同じ目にあうぞ! 今こそは──今だけは、考えを改めるのだ。ラスボスは北条尊人である。〈地球の痴漢王〉こそが、全宇宙レベルの災禍なのだ!」
惑星の地表に巨大柱ペンで、『ラスボス〈地球の痴漢王〉』と記される。
「まてまて。われわれにとってラスボスとは、偉大なるヨウナシ様ではないのか?」
と、やっと発言したのが破滅王ザッタン。
「それもそうだ。では〈地球の痴漢王〉はラスボスではなく、隠しボスということで」
『ラスボス』の部分が『隠しボス』に書き換えられる。
「われわれの隠しボスの名が〈地球の痴漢王〉というのは、あんまりなんだが」
「では鬼畜神とでも名付け直すか?」
「奴は神などではない! ただの地球人だ! ただの──ただのおっさんだ!」
とキレたのが、妖魔タイゼン。
呆れた様子で、葉桜が言った。
「では〈鬼畜おっさん〉では、どーお?」
「……まぁ〈地球の痴漢王〉よりはマシか」と破滅王ザッタン。
「では本題に入るとして──パーティ編成はどうするんだ?」
と議論を本題に戻す轍鬼将軍ボーダン。
対して腕組みして、破滅王ザッタンが言う。
「うーむ。確か冒険者パーティというのは、役割分担をしていたなぁ。ただ詳しく役割分担を見る前に、全滅攻撃《阿鼻叫喚》で皆殺しにしていたからなぁ」
「まてまてまて。着眼点が違うぞ。われわれがパーティを組んでも、そんな即席パーティでまともに機能するものか。各々が銀河クラスのボス【神臣人】だぞ。協調性などはない。
それよりも北条尊人の弱点はないのか? いくら〈鬼畜おっさん〉でも無敵というはずがない。何か弱点があるはずだ」
「そういえば、奴をステータス∞にしたのは、イチゴという案内係だという話じゃないか」
「ヨウナシ様も、案内係イチゴのことは一目置いていたそうね」と葉桜。
「まてよ。もしや案内係イチゴを手にいれることさえできれば、北条尊人を弱体化できるのではないか?」
「着眼点は悪くないが──果たして、そんなことが可能か? 北条尊人も、案内係イチゴの守りは徹底しているはずでは?」
ここで改めて、ガルーダ男爵が重々しく言う。
「では、私が試してこようではないか。《次元転瞬》!!」
宇宙の捩じりを利用する宇宙クラスの瞬間移動スキル。《πダンジョン》から、一気に戦艦《樹海》まで瞬間移動。
そこでガルーダ男爵は、北条尊人からの攻撃が起こると覚悟していたが──案に反して、何も起こらない。
ところで、ここは戦艦内の女性化粧室のようだ。個室から鼻歌をうたいながら出てきたのが、虹色の髪をした美女。
(おお、これが案内係イチゴか──まてよ。私は、この女をどこかで見たことがあるような。いや、違うぞ。この女、あまりに似ている──だがもしもそうならば、ヨウナシ様が放置しているはずがない)
肝心のイチゴは、まだガルーダ男爵に気づかず。手を洗いながら、手を洗いましょうの歌を歌い始める。
ガルーダ男爵はハッとして気づいた。
(なんだこの音痴さは!)
動くガルーダ男爵。
イチゴを拘束スキルで縛ってから、再度《次元転瞬》。
《πダンジョン》の傍に戻った。
案内係イチゴをさらって来たことで、ほかの【神臣人】たち──轍鬼将軍ボーダン、妖魔タイゼン、破滅王ザッタン、永遠の女子高生たる葉桜──から、大喝采を得ることに。
ついドヤ顔になるガルーダ男爵。
一方、案内係イチゴは、手をハンカチで拭きながら周囲を見回す。
それから、のんびりと言った。
「わたしを拉致するとは。【神臣人】の皆さん。死期を早めましたね」
~戦艦《樹海》:北条尊人~
ふむ。
イチゴの気配が、戦艦《樹海》から消えやがった。さっきトイレに行くとか言っていたが──さてはあいつ、【神臣人】どもに拉致されたな。
うるさいイチゴがいなくなって、せいせいするぜ。
イチゴを連れ去ってくれた【神臣人】たちには、感謝だな。
いやぁ、静寂というのは、素晴らしいものだなぁ。
静かだなぁ。…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………静かすぎる。
【神臣人】だか何だか知らないが、人さまの案内係を誘拐するとは。
なんか、無性に腹が立ってきた。
「奴ら、ただじゃおかん」
うちのイチゴを返してもらうぞ。
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