25,ソフィアさん、ストレスで死にそう。
~地球≪万里の長城ダンジョン≫
:ソフィア~
ドロシーは、北条尊人を追いかけるそうだ。
ソフィアとしては、『勝手に行ってほしいものね』に尽きる。ところがドロシーは、なぜかソフィアも同行させる気満々らしい。
ソフィアの両手をぎゅっと握ってきて、
「ソフィアさん。あなたのことは、昔から一目置いておりました。是非とも、わたくしと共に、尊人を捕獲……ではなく、取り戻す旅に参加してくださいね」
かつてはこの地球のラスボス的立場だった人に、こんなに懐かれても困る。
そこでソフィアは、ゾッとしたことに気づいた。
(まさかドロシー、女友達が欲しいとかじゃないわよね?)
「あの、ドロシーさん。どのようにして、北条さんを追いかけるのかしら? 向こうは、宇宙を超光速で進んでいるという話よね? えーと。イチゴさんの隠し戦艦とかで」
「イチゴ……あの案内係は、謎ですわね。まさか恒星間船を隠し持っていたなんて。それも《樹海ダンジョン》として。ただの案内係ではない、とは思っていましたが」
「はぁ」
「とにかく、こちらも恒星間船を手にいれる必要があります。わたくしに少し時間をください。何か手立てを考えてみましょう」
「……はぁ」
ドロシーが歩いていったので、ソフィアは安堵した。
気づけば女児的種族の二体が、足元に立っている。気配を断つのがうまいらしい。
「えーと。何か用事かしら?」
「あう。女児的種族の中でも」
「より進化した個体が出てきたのです」
「進化はいまも現在進行中なのです」
「なので給料も倍増してほしいものです」
「進化したって、何が優れているの?」
「借金するのが」
「得意です」
「借金なら」
「任せろです」
それは進化というより、圧倒的退化なのでは?
「……まぁいいけれど」
「そこで名前をつけて欲しいのです」
「女児的種族の中でも個性が生まれようとしているのですから」
「ソフィアが名づけ親になるです」
「なるです」
確かに女児的種族の個体には、それぞれ名前などなかったが。名付け親をしていて、時間を取られている場合でもない。
とはいえ、無視するのも難しい。そこでテキトーにつけることにした。
「じゃ、こっちがオリ子ちゃんで、そっちがタミ子ちゃんね」
「深みのある名前なのです」
「センスがあるのです」
(思いがけなく高評価で、逆に罪悪感を感じてしまうわね)
「ところでオリ子というのは、なんの略です?」
と、キラキラと輝く瞳で片方から問われた。
「え?」
「タミ子というのは、なんの略です?」
と、もう一体からも、やはりキラキラと輝く瞳で問われる。
「なにか凄みのある本名の略です?」
「そうに違いないです」
「凄みがあるに違いないです」
ソフィアは固唾をのんだ。ここで『テキトーにつけました』と白状したら、殺されそう。何万もの機械獣で襲われそう。
「……えーと。じゃあ、オリ子というのは【原初の王】とか。で、タミ子というのは、【終了の王】というのは?」
2体の女児的種族が、ウムウムとうなずいた。
「カッコいいのです」
「ラスボスっぽい本名なのです」
「この本名に見合ったスキルを開発するのです」
「それは名案なのです」
よく分からないが、満足してもらったようだ。
女児的種族(オリ子とタミ子)とともに最深部に戻ると、アーダと汐里が殺し合っていた。いやもしかすると、あれは友情のダンスかもしれない。友情のダンスであってほしい。
アーダが、攻撃力無限化の最終奥義《殺戮天竺》を発動。当然、攻撃対象は汐里。
「わがチェーンソーが貴様を細切れにしても、師匠はお怒りにはならないだろう。師匠は、JKが嫌いだからな」
対する汐里も、《燃え盛る地獄業火》という、物体も魔法も燃やし尽くす火炎系最強魔法で対抗。
「残念でした。わたしは別ですー。というか、もうわたしはJKじゃないから。そんなことより、アーダさんって、よくよく考えなくてもオーガだよね。モンスターだよね」
「だからどうした!」
「別にー」
二人の激しすぎるバトルのせいで、最深部が今にも崩れ落ちそう。
ソフィアは《三点障壁》を張りつつ、体育座りした。
そして深い、深い溜息。
「みんな、仲良くすればいいのに。あたしは、何かと自信を失ったわ。おうちもなくなったし、みんなは殺しあっているし。この中だと、あたしは食物連鎖の最下位だし」
オリ子とタミ子が左右に座った。
「ボスがいなくなったので、残ったのは混沌なのです」
「すべてはボスがいかんのです」
「給料も未払いなのです」
「未払いとか調子にのっているのです」
確かに。ボスこと北条尊人のせいなのは、間違いない。
アーダと汐里がバトルしているところに、ドロシーがのんびりとした足取りでやってくる。ちょうど二人の中間を。
左右から《殺戮天竺》の連続斬撃と、《燃え盛る地獄業火》の火炎が迫る。
だがドロシーは、そよ風でも拭いたかのように、まったく動じずに防御してしまった。
(北条さんは、よくあの化け物をボコれたわよね。そして、よく結婚したわよね)
ドロシーがソフィアのもとにやってきて、にっこりした。
「ソフィアさん、良いニュースです。この≪万里の長城ダンジョン≫を恒星間船に改造するため、全モンスターを生贄に捧げることにしました。神的スキル《生贄の奇跡》というものです」
つまり《生贄の奇跡》というスキルを使えば、このダンジョンも恒星間船に変化することができると。
ただしそのための生贄として、≪万里の長城ダンジョン≫にいる全モンスターの命が必要だと。
「よく、モンスターたちが同意したわね。いくら、ドロシーさんがラスボスだとしても」
「いいえ。同意してはくれませんでしたよ。というより、彼らは怒りまして」
「え?」
とたん最下層めがけて、数多のモンスターたちがなだれ込んできた。多種多様なモンスターたち。ただひとつ言えるのは、みなブチ切れているということか。
モンスターたちが怒鳴っている。
「殺される前に殺せ!」
「謀反だ!」
「ドロシーたちを殺せ!」
「モンスターに自由を!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
ドロシーが、素敵な笑顔で呼びかける。これはソフィア、さらに唖然としているアーダと汐里に対して。
「さぁ、皆さん。素晴らしき冒険者の皆さん。モンスターたちを狩りましょう! お仕事の時間ですわよ」
(……………は?)
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