22,「つまり、ブラフマーの心を折れと?」「グチャグチャにやったるのです!」。
イチゴを見つけたので、そっちに歩いていく。
おれの心の憂いを聞かせてやろう。
「イチゴ。ブラフマーが、おれの話を聞いてくれないんだが。ありがたいお言葉で励ましてやろうという、この親切心が通じない。なんて冷たい世の中だ。泣きたい」
腕組みして偉そうに笑うイチゴ。
「ふっふっふっ。分かってないですね、タケトの旦那」
「なにが『タケトの旦那』だ」
「ブラフマーという【神臣人】は──え。というか、なんでわたしの戦艦に、【神臣人】が入り込んでいるんですか」
「そんなことはいいから、本題に入れ」
「とにかくですね、ブラフマーさんはまだ心が折れていないのです。
まだまだ『やまない雨はない』とか思っているのです。『努力は報われるし、きっと良いことがある人生だ』とも思っているのです。
まずは、そんな心をへし折らんことには。へし折ってはじめて、タケト様の『ありがたいお言葉』を傾聴するモードになるんです。
昔、とある神様はいいました。人類が絶望しきったときこそ、お布施のチャンスと。逆にいうならば、人類が『いけいけどんどん!』のときは、神様への有難味も失われてしまうのですね」
「つまり、ブラフマーの心を折れと」
「グチャグチャにやったるのです!」
そこでおれはブラフマー・ドットコムの前に戻った。
ブラフマーはといえば、歓喜の雄たけび中。おそらく、自らの命と引き換えに発動する究極奥義による勝利への、歓びで。
「死ね、北条尊人!! 究極奥義《全ては無に》発動!! ……………………究極奥義《全ては無に》発動!! ……………
な、なぜだぁぁぁぁ! なぜ発動できんのだぁぁぁ!!」
解説してやろう。
おれは親切だから。
「ブラフマー君。《全ては無に》というのは、あんたの命を引き換えにして発動するわけだろ。
よって、あんたが《全ては無に》を発動するたび、おれが《命を叩き込む》で、あんたを復活させてやっているのだ。命を引き換えにできない以上、《全ては無に》も発動できない」
「ば、ばかな!! 命さえも自由に操れるだと!! 唯一神にしかできぬ、そんなことは唯一神にしか──」
ブラフマーの心を折る。心を折ってから励ます。よし。
「本当かね、ブラフマー? あんたはさっから、驚きすぎだぜ。おれに言わせると、あんたは〈無神〉より弱い。それどころか、おれがはじめに倒したダンジョンボスのドルゾンよりも、だいぶ劣るね。そんなので、よく【神臣人】なんてやってられるなぁ。恥ずかしくないの?」
実際はドルゾンなんか片手で捻り殺せるレベルだが。励ますためには、まず心を折らねばならないからな。
許してくれよ、ブラフマーくん。これもあとで、あんたを励まし、生まれ変わったような気分にさせるためだ。
怒号のブラフマー。
「そんなはずがあってたまるかぁぁぁぁぁ!!」
「ところが雑魚だったんだなぁ、あんたは。その証拠に、おれは左手の中指だけで、あんたを転ばせることができる」
「ふざけたことを抜かすなよ、地球の木っ端ごときがあぁぁぁぁぁ!!」
塔のごとき大きさに、四つの象の頭を持つ巨大生命体。そんな【神臣人】ブラフマーへ、おれは左手を向けて。
「《天翔けるデコピン》」
太陽系で一番小さい水星ならば、これで壊せる一撃。
宇宙を揺るがす衝撃波とともに、ブラフマーが後ろ向きに倒れた。
「ぐぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
「あー。ただのデコピンで倒れるなんて。もう雑魚すぎて、おれのダンジョン1階層にも配置できない。なんて、なんて気の毒な奴なんだ。
これで【神臣人】? 本当に? もしかして、かつがれてない? 『どっきり大成功』の標的にされてない? 【神臣人】になりました、というドッキリで、仕掛け人は唯一神のヨウナシとかじゃない?」
ブラフマーは頭を抱え、天に向かって叫び出した。
「なんということだぁぁぁあ!! 我は、ただの雑魚だったというのかぁぁぁぁぁぁぁ!! いやぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ブラフマー・ドットコム、自分で自分の頭を引きちぎる。
ご臨終です。
「……………………………あれ? ブラフマーくん……………あれ? 励ます前に、あれ?」
「タケト様、誰がブラフマーを破滅まで追い込めといいましたか。あんた、加減というものを学びなさい」
「……………ペンギンだって、氷の上ですべって転ぶのだ。だからおれも今回の失敗を引きずらず、立ち直って、次回に挑みたいと思う」
「そしてセルフ慰めするタケト様」
「その言い方、やめなさい」




