15,あちらが不憫ポジのJKさんです。
イチゴが言った。
「【殲滅卿にして覇女帝にして死滅女神】──長すぎじゃないですか、その称号」
汐里がカッとして言い返す。
「わたしだって、そこは気になっていたけど! だけど新しい異世界で魔王を滅ぼすたび、そうやって称号が増えるんだから、仕方ないし!」
おれは仲裁に入る。
「まてまて。汐里、お前、いつから各世界の魔王を殺すのが趣味になったんだ? そんなJKじゃなかっただろ」
すると汐里は腕組みして、くちをとがらす。
「おじさんが相手してくれないから、異世界転移で寂しさを紛らせてたんじゃない! で、久しぶりに戻ってきたら、おじさん、結婚しているし」
「えー。これって、おれのせいなのかソフィア?」
ソフィアは困ったように言う。
「あたしに振られても困るわよ。本元さんとは、最近、連絡がとれないとは思っていたんだけど。まさか異世界で、魔王を倒したりしていたなんて。うーん。人って、わからないものよね」
自棄になった様子の汐里が言う。
「というわけで、わたしは〈無神〉と組んで、地球を滅ぼすことに決めたから。はい、ぜんぶおじさんのせいだからね!」
さっき消滅させられた下半身を復活させてから、おれは頭をかかえた。
「なんか、育てかたを間違えた娘と再会した気分だ」
イチゴが来て、そんなおれの脇腹をつついてきた。
「いえタケト様の娘さんは、立派に育てかた間違えていましたからね。未来から来たでしょ、乃愛ちゃんが──」
「……フラグを、たてやがったな」
とたん、天上付近の空間が裂けて、人影が降りてきた。12歳くらいの少女が。
つまり、北条乃愛(未来の)が。
「パパ! 家出してきたのです!」
おれはイチゴの両肩をつかんで、激しく揺さぶる。
「見ろ、見ろ。お前が未来乃愛のことを言うから、セワシ君みたいな軽い感じでやって来ただろ。家出してきただろ」
「わたしの、せい、ですか!」
未来乃愛と、汐里の目があう。
とたん未来乃愛が、ハッとした。
「この女からは、キャラかぶりの匂いがするのです! パパの娘ポジを狙っているのですね!」
汐里がきょとんとする。
「え? わたしは、どちらかというと、おじさんの恋人ポジだったんだけど」
「問答無用です! 《クソったれ》!」
未来乃愛が人差し指から、恒星さえも真っ二つにする破壊光線を発射。
直撃を受けた汐里が、防御力を崩されて倒れる。
「いまですよ、タケト様。汐里さんを無力化するときですよ」
とイチゴがせかしてきたが、
「くっ、ダメだ。汐里にだけは、なんか攻撃ができん」
「では師匠、私が」
と言って、アーダが飛びこんできた。
《殺戮演舞versionⅡ》を発動。
闇黒エネルギーに満ちたチェーンソーで、汐里を超絶攻撃。
「……あの、ちょっと」
ふと気配を感じて横を見ると、ドロシーが立っている。
そうだった。アーダには、ドロシーを捜しに行かせていたんだ。
「尊人。あの本元汐里という方は、先ほどなんと言いましたか? わたくし、確認しておきたいのですが」
「え?」
おれが答えを探していると、余計なお節介イチゴが言う。
「タケト様の恋人ポジを狙っているそうですよ」
ドロシーは柔和にほほ笑んだ。
折しもアーダの《殺戮演舞versionⅡ》が終わり、汐里が転がったところ。
「さっきから、なんで一斉攻撃されているの私? あ、」
ドロシーと目があう。
ドロシーは柔和な表情のまま、
「わたくしの夫を寝取ろうとするとは、いい度胸ですね」
それから殲滅魔法を超凝縮した終焉魔法《夢幻の地獄》を、発動。
ちなみにこれは、何万という魔物を消滅できる技。今回のように、一人のJKに向かって使うものではありません。
その後も、アーダ・未来乃愛・ドロシーの無限コンボが、汐里を襲うのだった。
「……あの三人、なんであんなに息があっているんだろ」
「壮絶なボコボコが行われていますけど、タケトさま。これで汐里さん、少なくとも不憫ポジはゲットですね」
考えてみると、汐里って、はじめ会ったときも望まずに【樹海ダンジョン】に迷い込んでいたんだよな。あのときから不憫ポジのJKだったんじゃ。
「まぁ、見なかったことにしよう」
やがてコンボが終わったころ、ボロボロの汐里が転がっていた。
なんだろう。AVの鬼畜もので、事後に転がっている女優さんみたいなんだけど。不憫なんだけど。
まぁ、あれだけ攻撃をくらって原型をとどめているだけで、いまの汐里の凄さが分かるが。【殲滅卿にして覇女帝にして死滅女神】は伊達ではなかった。
「汐里、大丈夫か?」
汐里は顔をあげて、弱々しく笑った。
「おじさん……わたし、更生することにした」
「それがいいと思うよ」
イチゴが涙目で、うんうんとうなずいた。
「やっぱり、教育は拳骨ですねぇ。昭和式は、まちがっていなかったのですよ」
え、そんなまとめかた?




