14,久しぶりにJKと会うとロクなことにならない説。
絶好調なイチゴが、突然、直立不動になった。
そして、
「ヴガガガカガガガ」
という変てこな声を上げだす。
疑わしそうな顔でソフィアが言った。
「……北条さん。イチゴさん、あれはどうしたの?」
「ふむ。緊急アラームだな。この≪万里の長城ダンジョン≫に何かあると、『ウガガガガガガガ』というアラームを発するよう、イチゴに仕掛けておいた」
イチゴがハッとした様子で、
「いやいやタケト様、なに人を勝手に緊急アラームにしているんですか。ウガガガガガガガガガカ」
緊急アラームが発動したということは──〈獅菫城〉がらみだろう。
「こんどは一体なんだ?」
地球からの〈獅菫城〉映像を見る。
すると──なんと、〈獅菫城〉に両腕が生えている。縮小して見ているが、実際のサイズは──うーむ、とんでもない大きさだ。腕まわりの長さは、3万5千キロというところか。地球の直径の3倍じゃないか。
さらに超特大な両腕が握っている物体が、問題。
「あれは──バットか! 宇宙クラスのバットだ!」
ダンジョンが、その宇宙クラスバットを分析。詳細データを視認したソフィアが、叫んだ。
「しかもコルク入りバットよ、ルール違反だわ! ……いえ、そこって重要なの?」
「さては地球を打つ気だな。いいだろう。打てるものなら、打ってみろ」
「……ごめんなさい北条さん、言っていることが意味不明なのだけど」
地球全体を再加速させる。
そして〈獅菫城〉目掛けてかっ飛ばす。
〈獅菫城〉が絶妙なタイミングでバットを振ってきた。
ほう、やるな〈無神〉。
「だが甘い、フォークボールだ!」
がくんと地球の軌道が落ち、〈獅菫城〉の宇宙サイズバットが、空を切る。
「空振りだな」
ところが〈獅菫城〉には、さらに二本の腕が生えていたのだ。その二本の腕も、やはり宇宙サイズのバット(コルク入り)を握っていた。
そして地球めがけてフルスイング。
「バットが二本? ルール違反だろ、審判!」
ソフィアを見る。
顔面蒼白のソフィアは、いまにも漏らしそうな顔で首を横に振った。
「いちおう言っておくけれど、あたし、審判ちがう」
「だろうな」
≪万里の長城≫ダンジョンから、地上へと瞬間移動。
地球周囲に張った結界を、〈獅菫城〉のバットが破壊。
そのまま大気圏を突破して、地上に迫ってくる。こうして直に見ると、空が落ちてくるようだ。実際は宇宙サイズのバットだけどな(しかもコルク入り)。
「これは──衝撃に備えたほうがいいぞ、人類」
かきーん。真芯に当たった。
地球は、宇宙サイズバットの一撃でかっ飛ばされた。命中した大陸はほぼ全壊。
さらに≪次元の狭間≫を思い切り飛んで行く衝撃で、海の水が空に舞い上がり、すべての地表へと落ちていく。
「場外ホームランか──まてよ、ということは──」
≪次元の狭間≫は、その構造上、境目がある。その境目を越えた物体は、虚無に帰るのだった。つまり、この場合の場外ホームランとは、その境目を越えること。
おれは≪万里の長城≫ダンジョン最深部に瞬間移動で戻る。
「地球のコントロールを取り戻さないと、場外ホームランだ」
ひっくり返っていたソフィアが、恐るおそると聞いてきた。
「それって、どういう意味なの?」
「つまり、ぜんぶ虚無にかえるぞ。おれたちも地球ごと消滅コースだ」
「それは困るわよ、北条さん! なんとか止めて!」
「だから、いま止めるって。まぁ地球に逆噴射かけるだけで──」
ふと見ると、汐里が立っている。笑顔で手を振って、
「久しぶりだね、おじさん」
これには驚かされた。
「汐里──どこから入ってきた? まぁいいや。いまは懐かしんでいる場合じゃないんだ。ちょっと、そこで待っていてくれ。地球の命運が、かかっているんだよこれが」
「そうはいかないんだよね、お・じ・さ・ん」
汐里が指を鳴らした。
とたん、おれの下半身が消えてなくなって、落ちる。
上半身だけになったまま、汐里を見上げる。
「……いまのは消失スキルか? 一体、いつのまにそんなスキルを会得したんだ」
「おじさんと離れたあと、わたし、実は異世界転移をしていたんだよね。そう、おじさんが好き勝手に生きている間、わたしはわたしで、大冒険を繰り返していたわけ。それでね、いまのわたしの称号は【殲滅卿にして覇女帝にして死滅女神】」
「…………………………」
おれの横で、ソフィアが驚きの声をあげた。
「北条さんが絶句している────なんだか地球の終末よりレアだわ」
イチゴが上階から駆け降りて来た。
「私を忘れないでくださいよー! って、何事ですか、これ! どんぶらこ!」




