10,アーダ、戻る。
頭上から、漆黒のイカズチが落ちてきた。
なので、右手で払っておく。
まぁ黒刀〈北条殺し〉とかでないなら、ステータス∞で防御できるわけで。
と思いきや、イカズチの中には黒鵜が隠れていた。雷撃と一体化していたのか。
で、黒刀の一撃。
こちらは右手首を切断された。
「また斬られたぞイチゴ」
〔あ、まずい、まずいです! 考えてみると、タケト様って、命がけの戦いとかしたことないですよね! 戦闘経験値が低すぎじゃないですか! これまで無双しすぎたツケがこんなところで!〕
「落ち着けって、イチゴ」
切断された右手を回復してから、改めて黒鵜を探すと。
おっと、姿がない。どこかに隠れやがったな。
ここいらで、こっちからも攻撃しておくか。
究極系スキル《始まったときには終わっていた》を発動。
これは、『斬撃を放とうとしたときには、すでにその斬撃で敵を真っ二つにしていた』というスキル。
回避不能の一撃必殺、超反則なコイツで──
「おわりだ」
〔おおタケットの、超反則スキル《始まったときには終わっていた》! これなら黒鵜さんも一撃死亡ですねっ! ざまみですキウイ!!〕
外した。
「あれ失敗だ?」
〔こらタケット!〕
黒鵜が《影移動》で、おれの影から飛び出してきた。ご丁寧に《禍つ球》を乱射して、弾幕をはりながら。
「まったく──」
こっちは、《壊滅獄炎》を煙幕がわりに使おうとした。
が、手元がくるって、自分にかかった。
「じみに熱っ!」
〔タケト様! なにカップ麺ひっくりかえした、みたいなことしているんですか!〕
カップ麺ひっくりかえしたようなミスしている間に、黒鵜が連続斬撃。
「細切れになれ、北条尊人!!」
「いや、まてまて。深呼吸しろ──《零体化》」
とりあえず霊体になれば、斬られないだろ。
「甘いぞ北条! オレの〈北条殺し〉は、幽霊だろうとも貴様ならば、斬るっ!」
「マジですか」
斬られた。
神速連撃で切り刻まれる。うーむ。これさ、本当に死ぬんじゃないか?
黒鵜めがけて《巨剣体罰》を落とす。
なんとなくそんな気はしたが──
目算あやまって、自分に巨剣を落としてしまった。下敷きになる。
「なんだか、調子が悪いなぁ」
〔ぎゃっ! タケトタケトタケトさまぁ、ステータス見てくださいよっ!! ステータス異常ですっ!!〕
「なに?」
確かにステータスの状態を見たところ、『絶不調にして超不運』という表記がある。
どうりで、さっきからスキルが失敗したり、自滅したりしていたわけだ。
状態異常なら回復スキルで一発で治る、はずだが、うんともすんともいわない。
解析してみると、この状態異常の発動者はセーラと判明。
ドロシーがあっさりと頭部を潰して殺したのに──
あいつ、死ぬまぎわに呪術スキルを発動していたのか。しかもドロシーに対してではなくて、おれに対して。
「困るなぁ。こんなときに」
〔のんきに言っている場合じゃないですよっ!! ほら、きましたよ!!〕
黒鵜が歩いてきて、〈北条殺し〉を振り上げる。
「これでお終いだ、北条尊人!」
確かにこっちは、まだ切り刻まれた回復もできていない。そのあげく塔のような巨剣に下敷きにされている。
〔いやぁ、イチゴ。なんか死ぬっぽい〕
〔タケト様! うぅ、わたしはタケト様の案内係になれて幸せでしたぁあ、うわぁぁぁぁぁん!!〕
脳内で泣かれると、うるさい。
〔泣くな、イチゴ。鼻水がかかりそうだから〕
黒鵜の後ろで空間が裂けて、美女が飛び出してきた。チェーンソーを振り回して、スキルを発動。
「《殺戮演舞》!」
「くっ、なんだお前は──!」
突然の急襲に焦った黒鵜は、《殺戮演舞》を全て防御してから、一時撤退していった。
「師匠、いま戻った」
その美女こそ、なつかしのアーダではないか。
「アーダ、武者修行の旅は終わったのか」
アーダはうなずき、なんか容器をさし出してきた。
「師匠。お土産の、異世界の『たこわさ』だ」
「……あとで冷蔵庫にいれておく」




