8,地球が面舵いっぱい、よーそろー。
──イチゴ視点──
「タケト様、ドロシーさんはどうするんですか?」
「ドロシーのことは後回しだ」
タケトは床に片手をつけて、何やら魔法陣を描き出す。案内係として万単位のスキルを知っているイチゴとしても、はじめて見るものだ。タケトのオリジナルらしい。
(ストレスのせいで『ぷっつん』きたタケト様は、【神臣人】の領域に到達──いえ、すでにそこさえも越えていますねぇ。『ぷっつん』やべぇです)
感心していると、とんでもないものが転がってきた。
肉団子──に目玉が沢山ついている。そんな、キモイ物体が。
しかもこの物体、転がりながら「ロクンがぁぁぁぁあ、私の世界ロクンがあぁぁぁぁぁ」と呻いているではないか。
よくよく見ると、肉団子の一部に、スーツケースサイズの口がひとつあった。
(うげっ。まさか、このキモイ物体は──〈ロクン〉の神様じゃないですかっっ!)
「ちょっとタケト様! なんか、なんか〈ロクン〉の神様が、えげつないことになっているんですけど!! 目玉たっぷり巨大肉団子になっちゃっているんですけど!!」
タケトはちらっと、変わり果てた〈ロクン〉神を見た。
「乃愛の《阿鼻叫喚地獄絵図》が発動したようだな。〈ロクン〉神は、それをくらったらしい」
「えぇ、なんですかその、ツッコミ待ちのような無駄に長いスキル名は!!」
「《阿鼻叫喚地獄絵図》は、赤子の乃愛だけが使える破滅スキルだ。その夜泣きを聞いた者は、永遠の命を授かる。ただし、超絶キモイ肉団子になってしまうのだ。で、回復不能」
「……乃愛ちゃん、どこかに666の痣とかないですよね?」
憐れな〈ロクン〉神様・肉団子バージョンは、「わたしのロクン、ロクンがぁぁあ」と呻きながら、転がっていった。
「で、タケト様はなにしているんですか」
「これだよ、これ」
魔法陣が光り輝き、にょきっと舵輪がはえてきた。
その舵輪を両手でにぎって、ぐるっと回転させるタケト。上機嫌である。つまり、ぷっつんの上機嫌。
「面舵いっぱい、よーそろー!!」
「航海ごっこですか? ほほえましいですねぇ」
★★★
イチゴがなごんでいたころ───地球では。
タケトが出した舵輪は、実は地球の核へと接続していた。
舵輪によって、飛んでいる地球は操縦され──面舵いっぱいで、進行方向がぐいっと右へ向いたのだ。
その影響は凄まじく、
すでに≪次元の狭間≫を飛んでいることで、阿鼻叫喚の地獄絵だった地上が、より酷いことになった。地獄絵のパワーアップ。
都市のビル群は地面から飛び上がり、すべての大陸で巨大竜巻が発生し、大地が割れてマグマが噴き出、地球規模のウルトラな阿鼻叫喚。
──しかしながら、≪万里の長城ダンジョン≫内では、とくに影響はなかったので。
「ほほえましいですねぇ」
と、イチゴは能天気になごんでいたのだった。
★★★
──〈無神〉の視点──
ヨウナシが慌てふためいて報告してきた。
「ジー様! 地球の進行方向が突如として変わりました!」
「なんだと? この〈獅菫城〉への突撃をやめたのか?」
〈無神〉も慌てて、〈探索映像〉で確認する。
確かに地球の進行方向がかわっている。
ぐいっと右へ。右へ。右へ。右へ。
「〈獅菫城〉直撃コースから、それていくようだな!」
だがすぐにおかしいことに気づいた。
地球はひたすら右へ、右へと進んでいく。あまりに右へと進んだので、逆走しはじめた。
それでも右へと進むので、また〈獅菫城〉直撃コースに戻ってきた。かと思ったら、いまだ右へと進むため、やはり直撃コースから離れていき──逆走して、また戻ってきた。
「まてよ。地球は──地球は、回転しているのではないか? 意味が、意味がわからないぞ」
ハッとした様子で、ヨウナシが叫ぶ。
「円盤投げです!」
「は?」
「円盤投げでは、回転してから勢いよく投げるものですよジー様!」
「……つまり北条尊人は、勢いよく地球を投げるため、地球をこうして回転させているのか」
「おそらくは……」
〈無神〉は両手をつきあげて、叫んだ。
「訳がわからんぞ北条尊人!!! 誰か、誰かアイツを止めろぉぉぉ!」




