6,「北条尊人は、頭がどうかしているのか!」。
──〈無神〉の視点──
≪次元の狭間≫。
〈獅菫城〉の最深部にて。
〈無神〉は無重力を漂っていた。
侵略対象22255の惑星支配に成功したばかりで、気分が良かった。
そんなときヨウナシが飛び込んできた。〈無神〉の右腕であり、すべての案内係のオリジナルであるヨウナシが。
「ジー様、ジー様! ちょっと、というか、かなり大変なことに──」
「なんの騒ぎかな、ヨウナシ。君が慌てふためくとは珍しいじゃないか」
「言いにくいことなんですがね、ジー様。北条尊人が」
「あぁ北条くんか。彼のことは心配することはない。禁忌スキルを授けた【三魑魅族】を地球に送り込んだからね。始末がつくのも時間の問題だ」
「ええ。ですから、その地球がですね」
「地球が、どうかしたのかな?」
「突撃してきました」
〈無神〉は首をひねった。
ヨウナシの言っていることは理解できない。どうやったら惑星が突撃してくるというのか。
そこで〈無神〉は、今のは聞き間違いだったのだろう、と解釈。
「あー、すまないねヨウナシ。ちゃんと聞けなかったようだ。もう一度、言ってくれるかな? 地球がどうしたという話だったかな?」
「ですから、突っ込んできます。マッハ3で」
「……何が?」
「地球が」
「……どこに?」
「この〈獅菫城〉に」
「…………いやまて、意味がわからないぞ!!」
〈探知画面〉で、〈獅菫城〉周辺の映像を取得。
この〈獅菫城〉は、≪次元の狭間≫内を浮遊する巨大要塞だ。
この巨大要塞の周囲には、当然ながら結界が張られている。
〈無神〉が直々に張った、魔法硬度5000の結界が。
そんな結界を易々と破壊しながら、飛んでくる超巨大球体があった。
でかいはずである。
ひとつの惑星──直径12,742 kmの地球なのだから。
ちなみに地球はいま、大気圏のところで〈硬度増強〉をかけられている。そのため結界をガンガン破壊しながら、突撃してこられるわけだ。
「軌道予測──するまでもなく、この〈獅菫城〉にぶつかるつもりか! 北条尊人は、頭がどうかしているのか!!」
「衝突予測時刻は、あと214秒です──あ、さらに地球の速度があがりました」
「惑星まるごと、どうやって動かしているんだ! そんなスキルは知らないぞ! この僕が言うんだ──」
「どうやら、北条尊人の自作スキルのようでして──えーと〈解析〉によると、そのスキル名は──〈ぷっつんきたぜ〉」
「はぁ?」
ヨウナシは心なしか青ざめた様子で、繰り返した。
「〈ぷっつんきたぜ〉」
★★★
地球にて。
──ソフィアの視点──
途轍もない衝撃が起き、ソフィアは≪万里の長城ダンジョン≫の外へと投げ出された。
そして見た。地上がばりばりと裂けていくのを。しかも空は青さを失って──なにか黒い渦がグルグル回っている。
〈意志伝達〉スキルで、ダンジョン調査機関の本部にいる同僚から、通話が来た。
恐慌をきたした様子で、
〔ソフィアぁぁぁぁあ! 地球各地が、とんでもないことになっているぞぉぉぉぉお! 大陸が裂け、海が割れ、そして空が──空が落ちてきたぁぁぁぁあ〕
そこでプツンと通話が切れた。
「………………」
ソフィアは妙な確信をもって、呟いた。
「地球最期の日なのね」
──イチゴの視点──
タケトの脳内から出たイチゴは、はらはらしながら状況を見守った。
セーラが吼える。
「北条尊人ぉぉぉ! わたしの呪術攻撃をくらぇぇぇぇ!!」
そんなセーラの頭頂部を、ドロシーの繊細な指先がつかみ──
そのままアイアンクローで、ぎりぎりと潰していった。
「ぎゃぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
頭蓋骨が砕ける音とともに、転生者セーラさん、ご臨終。
おそらくドロシーは、セーラを殺したことも自覚なし。なぜなら視線は、タケトへと向けられているので。
そしてドロシーは、天使のような微笑みで言った。
「結婚指輪の話をしましょうか、尊人?」
イチゴはハッとして、タケトを見やる。
イチゴの主である北条尊人。ぷっつんきている北条尊人は、威風堂々と言った。
「結婚指輪ごときで、ゴチャゴチャ言うな」
タケト、ぷっつんきているからこその、この暴言。
イチゴも、なんか自棄になってきた。
(タケト様! こうなったら、やったりましょう!! どこまでも、お供しますぜ!!!)




