5,ぷっつんきました。
世間が騒がしくなってきたが、こんなときこそ、自分がなすべきことに集中するが良い。
すなわち、魔法陣の作成に戻る。
すると女児的種族たちが『ハイホー』スタイルでやってきた。
「ボスが地球の敵となったです」
「そして懸賞金が出るです」
「ボスの首を獲れば」
「なんと懸賞金30億ドルもらえるです」
「円換算で3559億くらいです」
「これは裏切りが美味しい季節です」
「やったるです」
「やったるです」
「やったるです」
イチゴが、おれの脇腹をつついてきた。
「叛乱が起きていますよ、タケト様」
おれは頭を抱えさせてもらう。
「恩知らずな奴らだなぁ。お前たち、おれはいいが、ドロシーにも盾突くことになるからな」
とたん先頭にいた女児的種族が、お腹を抱えだした。
「お腹が痛くなったので、反乱は私抜きでやるのです」
すると次の女児的種族も、まったく同じ動きでお腹を抱えて、
「お腹が痛くなったので、反乱は私抜きでやるのです」
「お腹が痛くなったので、反乱は私抜きでやるのです」
「お腹が痛くなったので、反乱は私抜きでやるのです」
「お腹が痛くなったので、反乱は私抜きでやるのです」
以下略。
これで魔法陣の作成に戻れる。
と思いきや、またも妨害がきた。
昼寝していたドロシーが、あくびしながら歩いてくる。その左手薬指には結婚指輪。いつ、おれがはめていないのに気づくことか、冷や冷やものだ。
「尊人。何やら『上』のほうが騒がしいのですが?」
そういえば。先ほどから上位階層がにぎやかだ。ソフィアの言っていた冒険者たちが攻め込んできたらしい。
おかげでドロシーの安眠を妨害してくれやがったな。これで≪次元の狭間≫に行くとき、言い訳を考えるハメになったじゃないか。
「いま、おれが片付けてくるよ。イチゴ、いくぞ」
「はいです」
イチゴが、おれの脳内に戻る。
おれは、上位階層へと瞬間移動。
若い冒険者たちが大挙として押し寄せてきていた。
ちなみに。最近は冒険者も来なかったので、モンスターたちも体が鈍っていたらしい。Sランクダンジョンにあるまじき雑魚っぷりで、殺戮されていた。
若き冒険者たちが、おれを見つけて盛り上がる。我先にと魔法攻撃を仕掛けてきた。
おれは片手をあげて、みなに語りかける。
「こーいうシチュエーション、もう何百回とやってきたからさ。もういい加減、やめよう。というか学習しろ。一体これまで、どれだけの気の毒なバカたちが、こんなふうに無駄な命を捨てていったことか。だから若い君たちには、是非とも回れ右して逃げて、長生きしてほしい。以上」
せっかくのおれのスピーチも、若き冒険者たちには届かなかった。
『北条尊人』の首を獲り、英雄になろうと意気込んでいる。若さって、やつだなぁ。
で、ロングソードで武装した冒険者が言うのが聞こえてきた。
「聞いたことがあるぞ、北条尊人。『魔神』堕ちする前、まだ人間だったころ、痴漢で逮捕されたという話じゃないか!」
他の冒険者たちも呼応。
「痴漢だって!」
「なんて野郎だ!」
「人間の風上にも置けない奴だ!」
「殺っちまえ!」
うーむ、おかしい。
結局、人生はスタート地点に戻るのだろうか。
ぐるっとまわって、はじまりに戻る的な。
すでに痴漢冤罪の件は、おれの中で乗り越えた事柄。それなのに、まだ取り上げてくる輩がいるとは。
だが、他者はいい。大切なのは、おれ自身だ。いまここで自制心を発揮して、暴力に訴えないことだ。さすれば、新たな道が開ける。
そう、『魔神』ではなく、人間としての北条尊人として。そのとき人々は、あの痴漢が冤罪であったと理解してくれることだろう。
人間の善意について考えながら、若き冒険者の首を引っこ抜いた。
見ると、冒険者たちの死屍累々。
「あー、しまった。歯磨きするようなナチュラルさで、皆殺しにしちゃった」
〔さすが魔神タケット。その容赦のなさは、かつての【五魔王族】の比ではないですね。新たな時代を切り開いていますよ、タケト様!〕
「……」
魔法陣のところに戻ると、綺麗に消されていた。
消去した当人であるドロシーが、腰に両手を当てている。
ドロシーは、天使のような微笑み。
天使のような……天使……
「尊人。結婚指輪は、どうしましたか?」
「……」
女児的種族たちがやってきて、
「ボス! ボス!」
「【北条尊人を恨む被害者の会:黑い三連星】とかいうのが」
「攻め込んできたです!」
こんどは別の方向から、別の女児的種族たちがやってきて、
「ボス! ボス!」
「黒鵜とかいうのが」
「攻め込んできたです!」
スマホに着信があったので、出る。
〔もしもし北条さん。凄く乗り気ではないのだけど、ダンジョン調査機関のトップとして、いま≪万里の長城ダンジョン≫入りしたのよね。あの、まさかいきなり来て瞬殺、とかしないわよね? あたし達の仲だものね?〕
通話を切る。
すると、こんどは汐里から着信があった。
〔おじさん、結婚したって本当!?〕
「……」
スマホを投げ飛ばしてから、
「くそっ! どいつもこいつも、一斉にゴチャゴチャと──」
怒鳴りきる前に異世界から幼女が転移してきた。
転生者のセーラだ。
「北条ぉぉぉ、よくもわたしが支配した世界を吹き飛ばしてくれたなぁぁぁぁ!」
はい、これがとどめです。
ぷっつんきました。
「もうやってられるかぁぁぁぁぁぁ!」
〔あ、タケト様が切れました〕
ダンジョンの壁を叩き、《次元反転》を発動。
とたんドロシーが消したはずの魔法陣が弾けとび──
≪万里の長城ダンジョン≫と、さらには接続した地球そのものが──
≪次元の狭間≫へと転移した。
「こうなったら、地球ごと〈無神〉の本拠地に突撃してくれる! そして、もろとも吹っ飛べばいいんだ!!」
〔タケト様のストレスゲージがはじけ飛んだのでした〕




