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16,それが、夫婦円満の秘訣。

 


「よくよく考えてみると──

 こんなところで話し合っている場合ではなかった。セーラを殺して、城塞都市の市民を助けねばならないのだ」


 というわけで、3人組パーティの首はチョンパしておく。


「いくぞ、イチゴ。正義のために!」


「タケト様。3つの首なし死体がドバドバ血を噴き出している隣で言っても、『正義感』が0です」


 ところがセーラを見つけ出す前に、城塞都市内にはもう生きている者がいないことが分かってしまった。生存者0である。


「しまった! 小物を拷問している間に、全市民が全滅してしまった!」


「ちんたらしていましたものね」


「なんか、やる気なくなったな。帰るか」


「あ、タケト様。ドロシーさんと、ココの神様ですよ」


 もともと〈ロクン〉を管理をする神様が、異世界転生者を訴えるとか言い出したのが、すべての始まりなんだよなぁ。

 で、その〈ロクン〉神様が、この周囲の惨状を一生懸命に示していた。


「ああ、見てください! この有様を! 有罪判決は決定的です! 多額の賠償金を請求できます! そうでしょう、〈最高裁判所長官ジャッジメントデイ〉さま!?」


〈最高裁判所長官〉さまであるドロシーは、右手の親指を一心に見つめていた。

 嫌な予感。


 おれはそっとドロシーに近づいて、恐る恐ると尋ねる。


「どうした、ドロシー?」


 ドロシーは優しいともいえる口調で、


「尊人、見てください。わたくしの親指の爪が」


 ふむ。これは──よーく見ると、ドロシーの爪の一部が、ナノサイズで腐っていた。

 セーラの呪術系スキルの影響である。


「ドロシー、そんなの気にするな。こんなの肉眼じゃ分からないから」


 対して、ドロシーは優しさに包まれた微笑み。


「わたくしの爪を、たとえナノサイズでも腐らせるとは。許されない悪行。この世界〈ロクン〉ごと、木っ端みじんに吹き飛ばさせていただきます」


 それを聞いた〈ロクン〉神様が腹をかかえて笑い出した。

 え、どういう反応? ショックのあまり頭のネジが外れたか?


「はっはっはっ。〈最高裁判所長官〉さまは、冗談がお好きですなぁ」


 だよね。悪い冗談だと思うよね。でもこの人は、本気だから。


 イチゴはといえば、のんきな様子で、


「まぁしかし、世の中にはネズミを殺すため地球破壊爆弾を出す輩もいますしね」


 と、ほざいた。

 それから、「タケット!」という変な掛け声とともにダイブしてくる。


 おれの脳内に戻ったイチゴ。


〔タケト様の脳内にいれば、この世界が滅ぼうが安心安全ですからねぇ~〕


「お前、自分だけ助かればそれでいいのか」


 〔はいっ!〕


 気持ちのいい即答ぶりでした。


 ドロシーが空に飛翔し、殲滅系スキル究極(ultimate)シリーズ№25〈塵に帰る〉を、発動。

 つきあげた右手の上に生まれたのは、小型太陽レベルのエネルギー球体。


 あのエネルギー球体を大地に叩き込めば、確かにこの惑星は瞬時に吹っ飛ぶだろうなぁ。風船に針を刺す要領で。


 青ざめている〈ロクン〉神様。

 先ほどのドロシーの発言が悪い冗談ではなくガチ、すなわち『有言実行』と気づいたようだ。


「ああああ、わ、わたしの世界がぁぁぁあ」


 おれは〈ロクン〉神様の肩を、力づけるように叩いた。


「安心しろ。この世界は吹っ飛ばさせはしない。妻の暴走を止めるのが、夫というものだ」


「お、おおおお、お願いします!」


 と、涙ながらに懇願してくる〈ロクン〉の神様。


「任せろ」

 

〔けどタケト様。ここでドロシーさんを無理やり止めたら、それは夫婦喧嘩のキッカケとなりますよね〕


〔かもなぁ〕


〔夫婦喧嘩──それが離婚の危機につながるかもですね? 離婚となれば、親権はドロシーさんが取るでしょうねぇ。かくしてタケト様は、週に一度しか乃愛さんに会えなくなるのです。あぁ、幸せな家庭が壊れてしまいました〕


 言われてみると。

 夫婦円満の秘訣は、妻のやることに口出ししないことだ。


 夫は黙って見守ることだ。

 というか、見て見ぬふりをすることだ。


 さすれば、すべての夫婦は円満でいつづけることができるであろう。あーめん。


 おれは〈ロクン〉神様の肩をぽんと叩いて、


「悪い。おれたちの夫婦円満のため、あんたの世界が犠牲になってくれ」


「そんなバカなことがぁぁぁぁあってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああ!!!!」


 イチゴがしめくくる。


〔あるのですねぇ〕



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