13,イチゴ、眼が腐る。
転生前はオッサンであり、いまは幼女であるセーラ──説明すると長いなぁ──が、呪術系スキルを発動してきた。
しかしこのスキル、おれは知らないものだ。ステータス∞となったとき、全スキルを網羅しているはずなのだが──
最近気づいたのは、イチゴから与えられたステータス∞とは、別体系の能力ネットワークがあるということ。
よって、セーラが放ってきたスキルも、この別体系のものなのだろう。
つまり、大本が別ということだ。
あの小癪な〈無神〉と別口ということだな。
と、たまにはおれも、真面目に考察するのである。
ただ考察している間に、
「なんか、右腕が腐り出したんだが」
おれの右腕が腐敗して、すぐにハエがたかりだした。ハエって、どこから来るんだろうな。
イチゴがさも心配そうに言う。
「あら、あら。で、タケットの子孫を残すアレは腐っていないですか?」
「お前、最近さ。下ネタが多いよ」
すると胸を張り出すイチゴ。
「タケト様。わたしも案内係として、時にはいろいろと模索しているのです」
なんて、いらない模索をしているんだろうか。まぁ、この案内係ははじめて出会ったときから、迷走してはいたがな。
で、生まれたときから迷走中のイチゴの、左眼球も腐り出す。
イチゴが、鼻をくんくんさせる。
「この臭い、どこかで卵が腐っています?」
「卵が、というか──お前の眼球が腐っている臭いじゃないか」
朗らかに笑うイチゴ。
「冗談が過ぎますよ、タケト様。わたしの眼が腐ってたまりますか──」
手鏡を取り出して、「つまらない冗談を言っちゃって、タケットは」などと確認するイチゴ。
このタイミングで、腐りきった左眼球が緑色のドロドロ液体となって、眼窩から滴り落ちた。
「……ぎゃぁぁぁぁぁ! わたしの、わたしの、地球全人口よりも貴重な、わたしの眼球がぁぁぁぁ!!」
こいつ、地球規模で炎上しそうなことを叫び出しやがったな。
「落ち着け、イチゴ。いま回復してやるから。だから眼球が腐ったくらいで騒ぐな。最上級の回復魔法で──あ」
「どうしたんですかぁぁ、タケット!」
「……あー、なるほどねぇ」
よーし、整理しよう。
おれの右腕と、イチゴの左眼球を腐らした原因は、何か。
これはもう、セーラが放ってきた呪術系スキルに違いない。
で、この呪術系スキルは、おれの手持ちスキルや魔法とは、完全に別体系。
そのため、おれの手持ちの回復魔法では、瀕死を一瞬で健康体にするレベルでも、効力を発揮しないようだ。
「お前の眼球、治んなかった」
「タケットぉぉぉぉ」
「落ち着け落ち着け、呪術系スキルなら発動者を殺せば、ぜんぶ元通りになるから」
「じゃ、早く殺してくださいよ!」
というわけで、セーラに向き合──おうとしたけど、あの幼女、どこかに瞬間移動しやがった。
「お前とムダ話している間に、逃げられた」
「ちょっとタケト様、シャレにならないですよ! というか、タケト様の左腕までが腐り始めているんですけど!!」
すでにおれの右腕は、緑色のドロドロになっていたが。
ここにきて、今度は左腕まで腐り出した。止める手立てはない。
「これってピンチなのか? ピンチになったことがないので、ピンチという感覚が分からない。ダックスフンドを見たことがないと、ダックスフンドの足の短さが分からないように」
「なに意味不明なことを冷静に述べているんですか! 両腕がなくなって、どうやって戦うんですか!」
そうだなぁ。
まてよ。呪術系スキルによる攻撃に対しては、回復できない。ならば、丸ごと取り換えてしまえばいいのか。
というわけで、腐り落ちた両腕のかわりに、新しい両腕を作成し装着。
神経やら骨やらを接続し、ふむ、問題なし。
イチゴにも新しい左眼球を作って、はめてやった。
「やればできる子、タケト様」
「うざい」
空中浮遊で、城塞都市を見下ろしてみる。
すると、先ほどまで乱痴気騒ぎしていた市民たちが、腐っていくところだった。
腐敗しながら悲鳴を上げ、なんとか歩いていくも、腐った両足から崩れて倒れていく。
「強制的な乱痴気スキルが、強制的な腐敗スキルにかわったらしいな」
「ドロシーさんが心配ですねぇ、タケト様」
「確かに」
ドロシーの爪の先でも腐らせてみろ。
ブチ切れたドロシーが、この世界ごと吹き飛ばしかねんぞ。




