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12,「転生前がオッサンなら、それはもう幼女ではなく──ただのオッサンだ」。

 



 城塞都市の乱痴気パーティ領域を突破。


 何度か痴女化した町娘に襲われかけたが、おれは誘惑に負けなかった。不貞など働こうものなら、あとが怖い。


 ふと路地裏の入り口から視線を感じた。

 絵に描いたような老人が、よぼよぼの身体を杖で支え、こちらを見ている。


「ふむ。あの爺さん、ただ者ではないな」


「え、マジですかタケト様?」


「いや、テキトー言った。ただあの手の爺さんは『ただ者ではない』というのが、相場だろう」


 試しにステータススキャンしたところ、レベル2の村人Aだった。

 ……いや、でもただの村人Aでレベル2って、やっぱりただ者じゃないよ。


 で、その爺さんが言ってきた。


「もし、そこのお方。異世界転生者さまをお捜しですかな?」


「いや、それより奥さんを捜しているんだけど」


「異世界転生者さまは、あちらにいらっしゃいますぞ」


 人の話を聞かん爺さんだな。


 で、爺さんが杖の先で示したのは、路地裏の最深部。なんか駄菓子屋がある。ふむ。幻覚スキルではないようだが──建築系スキルで急遽建てたようだ(痕跡がある)。


 せっかくなので、駄菓子屋に行ってみる。


 転生者とご対面。


 そこに待っていたのは、8歳くらいの女児。紫髪ツインテに、ゴスロリな服を着て、棒付きキャンディを片手に持っていた。


 これが転生者か。


「ぐっ。転生者というのは、幼女だったのか。幼女は殴れないではないか」


「タケト様、タケト様。そもそも平和主義でいくんでしょ。大草原を吹く風だったんでしょ」


 さっきまでは大草原に吹く風の穏やかな心だったけど、巨剣の奴(名前は忘れた)の首根っこを引っこ抜いたので、もう潰えた。


 潰えたので、もう異世界転生者とやらをタコ殴りにして、家に帰りたい。愛娘が待っている地球に帰って、オムツをかえてあげたい。パパ業に戻りたい。


 幼女が飴をぺろぺろ舐めながら、


「ようこそ、異世界転移者どの。わたしの名前は、セーラ」

 

 なるほど。向こうは転生者で、おれは転移者ね。


 まてよ。転生者ということは、転生前があるのか。どんな人間だったんだろうな。案外、同郷かもしれないぞ。つまり、地球からの転生者ということだ。


 そこで複数スキルを同時発動。セーラとやらの転生時の魂を《気配探知》で見つけ、《追尾》と《過去視認》で時を遡っていく。

 すると、本当に地球──それも東京(まだ【変転】前だな)に行きついた。


 そして──会田武司という、35歳の会社員。これがセーラの転生前であった。


 はい、セーラの顔面にグーパンチ。


 吹っ飛んでいくセーラ。


「わぉ。タケト様、幼女にも容赦がないですね!」


「転生前がオッサンなら、それはもう幼女ではなく──ただのオッサンだ」


「なんか名言風に言いましたね。『幼女を殴りたくなったときの名言集』におさめますか?」


「だから幼女じゃないと言っているだろうが。あれは、ただのオッサンだ」


 ただのオッサン──だが外見はれっきとした幼女セーラが立ち上がった。

 わりと本気でグーパンチしたのだが、直撃を受けた顔にも傷ひとつない。殴ったときの感触を思い出すと、瞬時にシールドが展開していたようだ。


 ところで、中身がオッサンからの殺意が半端ない。


「あなたとは話し合いで解決しようと思っていたけど、わたしの転生前の秘密を知られたからには、生かしてはおけないよね!」


 舌足らずで、そう言ってくるわけだ。

 腹たつなぁ。ものほんの幼女なら許せるが、


「中身がおっさんで舌足らずは、うざい」


「タケト様。後半から、心の声が口から出ていますよ」


 というわけで、セーラにもだだ聞こえだった。

 で、こらえ性がないのもオッサンらしい(または精神未熟なところは、幼女らしい?)。


 とにかく、ブチ切れてきた。


「わたしは、オッサンじゃねぇぇぇ!!」


 イチゴがごにょごにょ言った。


「オッサンって、本当のこと言われると怒りますよねー」



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