11,大草原を吹く風のような心境です。
「分かりました! アレが短小なのですねっ!」
というイチゴのけっこうな暴言。
相手にも聞こえたらしい。
まぁ、あれだけ大声で言えばな。
「誰が短小だ! 許せん!」
と激昂するドーガスト。巨剣を振り回しているのは、スキル発動の前触れか、またはただ暴れているだけのか。
そんなドーガストを指さして、イチゴが言う。
「さ。無双モードでやっちまってくださいよ、タケト様っ!」
だが、おれはきっぱりと言った。
「やらない」
「え?」
「おれはもう、手あたりしだいに殴って倒す、そんな頭悪い感じの無双キャラは卒業したんだ」
これからは脱暴力でいきたいと思います。もう人の皮を剥ぐ人生には飽きたのだ。田舎に引っ越して、『大草原の小さな家』みたいな家族を築きたい。奥さんがドロシーなので無理だけど、夢だけは見たい。
で、なぜか驚愕するイチゴ。
「ええっ! タケト様から『頭悪い感じの無双キャラ』を取ったら、いったい何が残るというんですか!」
「いろいろと残るだろうが!」
「なんも残らんですよ! タケット、イチゴ党の頭首としての自覚は、どこに行ったんですかっ!」
「そんなものの自覚があるわけないだろうが」
こんな会話を聞いていたらしい。ドーガストが勝ち誇る。
「どうやら、オレ様のステータス数値に恐れおののいたようだな」
イチゴが、『先生に言いつけてやろ』のノリで、ドーガストを指さして。
「ほら、ほら! タケト様がエセ平和主義に走ったものだから、向こうが勘違いしていますよ! いいんですか、タケット! 魔王の称号が泣きますよ!」
おれは腕組みし、瞑目した。
「おれの心は、いま大草原を吹く風のように安らかだ」
ドーガストが剣を一閃。
「食らうがいい、我が愛剣〈ラウンドソルベルト〉による神の一撃!」
破壊力抜群の斬撃(直撃時に相手の防御力を削り取り、かつ雷属性を持つ一撃)が、おれに直撃。
そのとき、心の中の大草原が崩れた。
痛い。地味に痛い。箪笥に足の指をぶつけた時のような、いちばん腹が立つタイプの痛さ。
「おれの大草原に何をする!」
瞬間移動してドーガストの背後に行き、その頭部を鷲掴み。
「貴様ぁぁな、なにをするぅぅぅあぎゃぁぁぁぁあああああ」
そのまま頭部をもぎとって、脊髄をズルッと出した。
ドーガストの死体を眺めながら、イチゴがつくづくという感じで言う。
「………………いやぁ、こんな不憫な理由で殺された人、はじめて見ましたよ。『おれの大草原』という時点で意味不明ですし。タケト様。もしかして、アレですか? 中年の危機的な」
「誰が中年だ。おれはまだ若い」
「いや、オッサンでしょ、あなた。タイトル、見てください、タイトル。あと、『おれはまだ若い』とか言っている人は、たいてい中年の危機ですよ」
「とにかくドロシーたちと合流するぞ。あと、いまの殺しはノーカンだからな。おれの平和主義は、まだ生きているから。そこのところ、ちゃんと理解しておけよイチゴ」
「……なに言っているんですかね、この人」
そのころ──おれはまだ知らなかったが、異世界転生者が、こちらの存在を感じ取っていたのだった。




