10,「イチゴ党ですっ!」。
異界法廷を滅ぼした流れで、なぜか異世界〈ロクン〉に行くことになった。
ドロシーが、〈最高裁判所長官〉就任おめでとう、になったので。
「あのさ、ドロシー。おれたち子育てもあるんだし、異世界で裁判官している場合じゃないと思うんだよね」
するとドロシーさん、なぜか真摯な表情で。
「尊人、何をおっしゃいますか。異界法廷を壊滅させた責任があるということを、お忘れですか?」
いやいや、おかしい。異界法廷をぶっ壊したの、そっちだからな。
今度は、おれは〈ロクン〉の管理官(すなわち神の一柱)に近づいて、
「あのな、悪いことは言わないから考え直せ。ドロシーを自分の世界に招くということは、海千山千の魔王を入れるようなものだぞ」
しかし〈ロクン〉管理官には伝わらなかった。
「〈最高裁判所長官〉さまではありませんか」
「……いや、そうなんだけどね」
ダメだ。肩書きに弱いのは、どこの世界も一緒ということか。
というわけで、〈ロクン〉入り。
異世界というのは、どこも文明が中世ヨーロッパどまりだよね。縛りでもあるのか。
「悪しき異世界転生者たちは、この先の城塞都市にいます。すっかり王様きどりです」
と、〈ロクン〉管理官が哀れっぽく訴えてきた。
神としての威厳がないなぁ。
ドロシーは視線を、管理官が指さしたほうへと向ける。この位置からでは、まだ目当ての城塞都市は見えないが──なるほど、〈遠眼〉を発動しているのか。
どれ、ではおれも。
〈遠眼〉ならば、この世界の全域を好きなだけ見渡せる。
今回はぐーっと城塞都市を見てみると、なんか乱痴気騒ぎが起きていた。
つまり、市民たちが裸になって、乳繰り合っている。ネットに転がる無料エロ動画の世界である。
「ははぁ。この世界の人たちは、色々とはっちゃけているのだなぁ」
おれが感心してそう言うと、〈ロクン〉管理官が心外そうに言ってきた。
「そんなバカな話がありますか! 彼らはみな、異世界転生者のスキルによって、強制的に乱痴気モードにさせられているのです! れっきとした被害者ですぞ!」
「うーん、そうなのか。ここの異世界転生者は、なんて人生を謳歌している奴だ。許せん」
ここでドロシーが、
「お待ちなさい、尊人。裁くのは、わたくしの仕事ですよ。まずは双方の言い分を聞く必要があります」
というわけで、城塞都市内へと瞬間移動。
とたんイチゴが、何やらもぞもぞとし出した。
「はっ、タケト様! わたし、いますぐに裸になって、ネットに転がる無料エロ動画のようなことがしたくなりました! レッツ・ノクターンです!」
「……なに強制乱痴気のスキルにかかっているんだよ」
とにかく、そのスキルはこの城塞都市全域をカバーしているようだ。スキル内容のアホらしさは置いておいても、かなり強力なことは分かる。
いちおうは神である〈ロクン〉管理官が手を焼くだけあって、ここの異世界転生者は、それなりの手練れとみた。
それはそうと、イチゴがなんか脱ぎ出そうとしている。
「やめろ、バカ」
イチゴの額を軽くでこぴんして、取りついていたスキルを無効化してやる。
「あ、スキルが解けました。タケト様、余計なことを──ではなく、良い仕事です。でかしたタケット」
「まてよ。ドロシーとロクン管理官がいないぞ」
二人は別の場所に瞬間移動したようだ。その位置をスキャンする前に、何やら高所より降下してくるものがありまして。
どんと着地したのは、身の丈をゆうに超える巨剣を装備した男。
ステータススキャンしてみたところ、別に異世界転生者とかではなさそうだ。この都市の警備担当というところか。
「そこの侵入者、どこの派閥のものだ?」と言ってきた。
「どこの派閥かと言われると──そんなものないんだがなぁ」
おれが困っていると、イチゴが挙手して、
「はいっ、イチゴ党です!」
こいつ、いつから党を作りやがったんだ。
今だな。
「こちらは党首の北条タケットです。ね、タケト様?」
「勝手にしろ」
警備担当の男が、巨剣の切っ先をおれに向けてきて、
「なるほど、イチゴ党のホウジョウタケットか。その名前、覚えたぜ。オレ様の名は、ドーガストだ! 覚悟しやがれ!」
「にしてもタケト様、どうして男子とは、大きな剣を持ちたがるものなのでしょうか」
「たぶん、ロマンが詰まっているんだなぁ」
「分かりました! アレが短小なのですねっ!」




